花柄のワンピース(4)
「三十分後くらいにはここに着くみたい、ヌルはあなたが入院していることを知らなかったのね、とても心配していたわ」そう言ってウムトに売店で買ったオレンジジュースを渡した。口の中で少し沁みたが久しぶりに飲むオレンジジュースは美味しかった。
ブシュラと話したいことはたくさんあったが、ヌルの到着を待つことにした。二十分くらいが過ぎたところで、廊下を急いで駆ける足音が聞こえ、近づいていた。それがヌルだと思ったし、間違っていなかった。
ウムトを目にするとヌルはまず謝り、それからボイスレコーダーを返した。全く同じボイスレコーダーだった。
「いつ僕から取ったの?」
「ホテルであなたが眠っているときにジャケットから抜き出したの。ボイスレコーダーがないことに気がついてアトリエに来ると思っていたから、昼休みに同じモデルのボイスレコーダーを買いに行って、それを渡した。だから、あの時に渡したボイスレコーダーには何も録音されていない。私のせいでこうなったんでしょ?編集長に渡したときにそのことが明らかになったのね・・・」
ヌルの顔には大きな後悔があった。ヌルは棚の上にある血のついたプラスチックの欠片を見ていた。ヌルは色々と勘違いしていたし、ウムトも今の状況を把握しきれていなかった。
「ボイスレコーダーは僕が自分で壊したんだ。今ここでベッドで横になっているのは君のせいじゃなくて、僕が編集長にボイスレコーダーを渡そうとしなかったからなんだ。ちょっと揉めて僕は怪我をしてしまったんだよ」と説明したが、それでもヌルは責任を感じているようだったし、表情は暗いままだった。
「そのボイスレコーダーをどうするの?その編集長に渡すの?」
「分からない、とりあえず僕が持っておく。フルカンはこのことを知らないし。ところで、このボイスレコーダーの録音を聴いたんだよね?」
「ええ、二人で聴いた。次の日からあなたはアトリエに来なかった・・・」
ヌルはブシュラに視線を向けた。西日が窓から差し込み、ヌルの顔を橙色に染めていた。「ヌル、後でしっかりと説明するから心配しないで」ヌルは納得できない顔をしたまま表情を変えることはなかった。
「アフメドに言いたいことはたくさんあるけど、マルコはメモを受け取って帰ってしまった。アフメドが娘の手術を失敗すると考えられない。私たちに何ができるか具体的に頭に浮かばないけど、このまま放って置くつもりはない。ウムト、あなたはもう知っていると思うけど、アフメドはここの生まれではなく、逃げるようにしてここに辿り着いた。理由だって・・・」
看護師が夕飯を運びに部屋に入ってくるのを見ると、ブシュラはそこで言葉を切った。それから、ヌルとブシュラはまた来ることを約束してウムトの病室から去った。ヌルがあれほどの恐怖を感じいたのに、こんなことをするとは考えられなかったが、受け取ったボイスレコーダーを再生してみるとアフメド医師とマルコの声が聞こえた。
信じられなくても自分が叩き割ったボイスレコーダーは本当に偽物だった。どうするか考えて、躊躇して、最後には資料室で自分がどうなってもいいと思いながら壊したが一連の行動は無駄だったのか?
誰かがまた病室に近づいていた。また看護師が来たのかと思ったが、そうではなかった。




