嘘と偽りのボイスレコーダー(5)
フルカンにボイスレコーダーを渡すべきかどうかまだ迷っていた。ヌルの言葉は正しかったのかもしれない、馬鹿げた考えだと思ったが、いつの間にボイスレコーダーを壊すことも現実的な考えの一つとして捨てきれなかった。
外は暗く、夕方から夜になろうとしていた。仕事を終えてボイスレコーダーを引き出しに入れずに帰るつもりだった。フルカンは何ら変わりなくデスクライトに白く照らされた机の上の書類をひたすら読んでいた。
ボイスレコーダーのことが気になっているはずなのに、そんな素振りは全く見せなかった。ウムトが何を考えたところで、最後には自分の手にボイスレコーダーが渡ることを確信しているような落ち着きだった。
外は昼間と違い、肌寒く、気温が低いかと思ったが、そうではなく吹き荒れる風が冷たく、その冷たい風がポケットのボイスレコーダを奪おうとしているように感じて、ウムトは手をポケットに素早く突っ込んだ。
冷たい風から逃げるようにして家に帰ると、熱いシャワーを浴びた。あるアイデアが頭の中で育つように、ボイスレコーダー壊してしまうことが頭から離れることなく残っていた。
そんな考えを振り払うようにシャワーから出ると体を拭いて、そのまま台所で勢いよくグラスに水を注いで飲んだが、そんなことで頭の中の考えが消え去るはずもなく、夜中に目が覚めて、またグラスに水を注いで飲んだ。
自分の心音が聞こえそうなくらいの真夜中の静けさと暗さは不気味だった。これから何かが起こることを告げているような不穏な静寂の中で眠ることはできるだろうか?それでも太陽が昇り、夜と朝が入れ替わると、外を行き交う車、会社や学校に向かう人々、あらゆるものは陽の光に照らされていた。
ウムトもその内の一人だった。朝起きてからずっとボイスレコーダーをフルカンに渡すべきかどうかひたすら考えていた。失くしてしまったと嘘を隠し通せる自信はなかったが、壊すことなら一思いにできてしまいそうな気がしていた。
家から出る前、机に置いたボイスレコーダーを見ながら拳を振り上げてみたものの、振り下ろすことはできなかった。ボイスレコーダーを鞄に入れるとすぐに家を出た。約束の日を過ぎていたのにウムトが会社に来てもフルカンは何も言わなかった。
ウムトは机の引き出しにボイスレコーダーを入れずに手に持ったまま椅子から立ち上がって、資料室に向かいながらフルカンの机を通らないように迂回した。不自然なウムトの行動はフルカンの目に留まっていたかもしれないし、手にボイスレコーダーが握られているのも気がついていたかもしれない。
誰もいない資料室の電気をつけて、部屋の真ん中にある巨大な机にボイスレコーダーを置いた。ウムトはこのボイスレコーダーをフルカンに渡すのは間違いだと強く感じ、勢いよく拳を振り上げると、そのままボイスレコーダーの上に振り下ろした。
プラスチックの割れる渇いた音が部屋に響いた。それと同時に右手に大きな痛みが走ったが、気にせずそのまま粉々になったボイスレコーダーの破片を床から集めていると、資料室の扉が開ける金属音が聞こえた。
やはりフルカンは何かを感じ取っていたのだろう。扉の前に立つ人影がフルカンだと気がつくのに一秒も掛からなかった。




