嘘と偽りのボイスレコーダー(4)
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窓から入る眩しい光がウムト起こした。ベッドにいるはずのヌルはそこにいなかった。ウムトは夢と現実の境目を行き来しながら、部屋の古い電話に置かれた一枚のメモを見つけた。手に取ってそのメモを読みながら、段々と目覚めてきた。
時計を見て、すぐに夢であると思い込みたくなるくらい遅く目が覚めたことに気がつき、急いで準備をしてホテルを出た。シャワーを浴びる時間などなかった。会社の扉を開けるとすぐにフルカンの視線に気がついた。
それなのに、フルカンの前を通り過ぎても何も言われなかった。不自然に思いながらも自分の席に座って考えたが、遅刻したことを咎めるような視線ではなかった。ふとボイスレコーダーが頭に浮かび、フルカンの視線の意図を理解して、鞄の中に手を突っ込んだがプラスチックの塊が手に触れることはなかった。
服のポケットにもなかったし、段々と焦りが大きくなっていった。ホテルに忘れたと考えるのが自然だった。あれだけ慌てていれば一つや二つ忘れ物をしても不思議ではないだろう。そう自分に言い聞かせて、会社に来たばかりにも関わらず、急いでその重たい扉を開けて会社を出た。
変なやつだと誰もが思っただろう、その時にはもう外に出ていた。照りつける太陽と、焦りがウムトの額を汗で濡らした。ボイスレコーダーがどこにあるのか明らかになるまで安心できるはずもなく、ホテルの従業員も走って出て行ったウムトが一時間も経たないうちにまた戻ってきたのを理解できない様子だった。
忘れ物はないかと二回質問したところで、ようやく「忘れ物はなかった」と答えてくれた。それでも自分の目で確かめるまで納得することはできず、掃除中の部屋に押し入って探させてもらった。
結局ボイスレコーダーは見つからず、そうなればヌルの鞄か服の中に紛れ込んでしまったのだと思いつき、ひとまずアトリエに向かった。もし、ヌルが持っていなければ通った全ての道を辿ってひたすら探すしかなかった。
ベルを鳴らすと、すぐにヌルが扉を開けた。「ボイスレコーダーが見当たらないんだ。君の服か、鞄の中に紛れ込んでないか見てくれない?」「分かったから落ち着いて。今、見てくるから」そのまま扉を閉めた。
ウムトとは違って、ヌルが不自然なくらいに落ち着いていたことに何となく疑いを持ったものの、ただ自分が慌てすぎなのだと思い込んで、ヌルの鞄か、服のポケットにボイスレコーダーが紛れ込んでいることを切に願った。
ヌルが戻って来ると、ウムトは天を仰いだ。彼女の手にはボイスレコーダーがあった。あの灰色の小さなプラスチックの塊だった。ヌルの手からボイスレコーダーを持ち上げた瞬間、なぜか軽く感じた。安心したからだろうか?とにかく見つかった以上もう悩む必要はなかった。
ホテルへ、それからアトリエへにも行ったため、会社に戻る頃には昼前だった。昼食を食べに行く社員とすれ違いながら会社の扉を開けるとフルカンが机に居ないことにすぐ気がついた。ただ、あの嫌な視線を感じずに済むと考えるのは早かった。フルカンも外出したのかと思ったがそうではなく、ウムトの机に座っていた。
ウムトが机に来ると、わざとらしく立ち上がってその場を離れた。何一つ言わなかったし、目も合わさなかった。フルカンが何かしたのかと机の上や周りを見ても、特に変わった様子はなかった。
恐らく、引き出しにボイスレコーダーがあるのか確認したのだろう、今日がその約束の水曜日だったから。




