嘘と偽のボイスレコーダー(1)
「これでしょ?」わざとらしくウムトに見せた。ボイスレコーダーが目に入ると、ウムトは安心して全身の力が抜けたかのように地べたに座った。
「それだよ、バッグの中に入ってた?」
「うん、何かの拍子に入り込んだのか、あなたが間違えて私のバッグに入れたんじゃないの?」
「そうかもしれない、とりあえず見つかって良かった」
「フルカンて人に渡すの?」
「正直迷ってる。明日、机の引き出しに入れる約束だから、それまでに決めないといけないけど・・・。これは僕の仕事だし、もう分かってると思うけど、君は深く関わらない方がいいと思う」
「そうかもね・・・」
ヌルの何とも表せない声色の意味をウムトは知らないまま、考えないまま、何の疑いも抱かずにポケットにボスレコーダーを突っ込んだ。「ありがとう、またそのうち話そう」と言ってウムトはアトリエから去っていった。
はっきりと塩っぽい汗の匂いがウムトから漂ってきていた。ボイスレコーダー見つからなくて動揺したからなのか、それともシャワーを浴びる前にボイスレコーダーがないことに気がついのか、恐らく後者だった。
ヌルは既にこの一連の出来事に深く関わってしまっていたし、ウムトの警告はもう手遅れだったかもしれない。そしてブシュラとボイレコーダーの録音を聴くつもりだった。アフメド医師とは長い知り合いであり、彼女こそ聴く必要があると感じていた。
それでも巻き込む事になるのではないかと心配していた。こんなに大きな嘘をつくのは人生で初めてだった。そして、この嘘の大きさを把握していただろうか?ヌルが、思っていたよりもずっと大きな嘘だったかもしれない。
これからどうなるのか何一つ分かっていなかし、なるべく早くウムトにボイスレコーダーを返さないと、フルカンとかいう編集長に偽のボイスレコーダーが渡されてしまう。事が更にが大きくなってしまう可能性があった。
その後の仕事が手につくはずもなく、一日中、自身の行いが正しかったのか考え続けたが、答えが出ないまま、ただ自分自身を正当化しようと、そのための理由を探していた。ブシュラは仕事が終わっても中々帰ろうとしないヌルが少し心配だった。
「何かあったの?心配事があるなら話してみて?」ヌルはまた嘘をつかなければいけないのか?明日までには何とかしてウムトにボイスレコーダーを返さないといけなかったし、録音を聴くなら今しかないと思って打ち明けた。
「実は、アフメド医師とある政治家の会話が録音されたボイスレコーダー手元にあって・・・」「どういう意味?」突然切り出された怪しい内容だけに、ブシュラの声は不安と疑いに満ちていた。なぜそんなものがヌルの手にあるのか理解できなかった。
「説明すると長くなるんです。でも・・・」「聴くかどうかは分からないけど、ちゃんと説明して、ちょっと机で座って待ってなさい」キッチンに向かったブシュラ、コンロに火をつける音が聞こえた。薄らとチャイの匂いがヌルの座る机まで届いていた。ヌルの手には強くボイスレコーダーが握られていた。




