暗闇の中で(3)
「何を言ってるのか全く分からないけど、その鍵を渡すと思う」ヌルが何も分からなったのは当然だった。ウムトはあまりにも抽象的に説明しすぎていた。
「鍵じゃなくてボイスレコーダーなんだけど、そこにはアフメド医師とマルコっていう政治家の二人の会話が録音されてて・・・」ポケットから取り出してヌルにそのボイスレコーダーを見せた。今度は具体的に説明しすぎていた。
「もしそうだとしても私はそのボイスレコーダーをブシュラさんに渡す、何が問題なの?」ウムトは自分がなぜこんなにもそのボイスレコーダーを渡すことを悩んでいるのか理解してもらうためにもう少し説明するしかなかった。
結果として、その録音の内容については説明しなかったものの、それ以外のことは説明してしまっていた。「そこまでフルカンて人が信用できないなら、そのボイスレコーダーを海に捨てちゃえばいいのよ。それか、思い切り殴って壊しちゃえば?」
ウムトに拳を作って見せた。ヌルのふざけた態度が気に食わなかったし、ウムトにとっては笑い話じゃなかった。そもそもヌルに相談したこと自体が間違いだったのではないかと、溜め息をついた。ヌルも黙って見逃さなかった。
「何が気に入らないの?二人が何を話したのか知らないけど、あなたはその録音を聴いたんでしょ?何を聴いたのかも知らないけど、そんなに悩んでるなら、さっき私が言ったようにすればいいのよ、あなたができないなら私がやるけど?」
勢いよくウムトの前に手を伸ばした。まっすぐに伸ばされた腕から、ヌルの意志が伝わってきたし、もし渡していたら本当に床に叩きつけていたかもしれない。ウムトは謝るわけでもなく、アフメド医師とマルコの名前をもう一度口にした。
その瞬間、何が起きたのか?急に目の前が真っ暗になり、カフェが暗闇に包まれていた、電気が落ちてしまったのだろうか?ウムトは何よりも先にボイスレコーダーをポケットに閉まった。
店内を街灯や、道路を走る車が不規則に照らしていた。そんな混乱の中で二人に迫る足音が聞こえた。大きな二人の男の影だった。その影と足音が近くまで来る前に、ヌルの手を掴んで出口に向かった。
カフェから出た後も、止まることなく二人は走り続けた。ヌルの手が震えていたことはずっと前から分かっていたが、止まることはできなかった。カフェからは離れて、辺りを見渡すと、そこは駅前のバスのターミナルだった。
バスの停留所にあるプラスチックのベンチは大きく欠けていた。ウムトはその欠けた方に座り、ヌルを欠けていない部分に座らせた。手が震えていただけでなく、泣いていた。「あなたは一体何を調べているの?暗闇に中で私たちに向かってくる二人の男は誰だったの?そのボイスレコーダー早く捨ててよ」
震える声と手が、どれだけの恐怖を与えてしまったのかを表していた。あまりにも軽率だったのかもしれない。「心配しないで・・・」そんな出任せの言葉でヌルが安心できるわけがなかった。
ただ電気が落ちただけだと考えるのは楽観的すぎたし、ウムトはその二人の男をはっきりと見たわけではなかったが、ボイスレコーダーを奪い取る機会を近くの席で狙っていたと考えるのが自然だった。




