暗闇の中で(2)
フルカンにボイスレコーダーを渡すべきか、答えを出せないないまま会社に戻った。机の上に山積みにされているファイルがどうしても気になってしまい、一つ一つ確認して引き出しに閉まい、すぐに必要になるいそうなものは机の上に置いておいた。
ウムトが整理したかったのは机の上ではなく、頭の中だったが、どれだけ机の上が整理されても、頭の中が整理されることはなかった。仕事に集中できないまま夕方を迎えていた。それでも終わらせないと帰れない仕事がどうしてもあり、終えると、会社にはウムトとフルカンの他に数人が残っているだけだった。
鞄を手に持って、フルカンの机を通り過ぎる時、机越しにフルカンが手を掴んでウムトを自分の方に引き寄せた。思ったよりも強い力がウムトの抵抗を許さなかった。「少し外で待っててくれ、時間は取らせない」と言って手を離した。シャツの袖は皺だらけで、はっきりとフルカンの掴んだ跡が残っていた。
ウムトはただ頷いてその場を後にし、外の暗く肌寒い空気の中でフルカンを待った。通り行く人の流れを眺めているとフルカンの声がした。「ボイスレコーダーはいまどこにあるんだ?鞄にあるなら、渡してくれ」
急に来て、待たせたことに対して詫びることもなく、フルカンはいつものように傲慢な態度でウムトに手を差し出した。「今、鞄にはありません」嘘ではなかった。
「分かった、それじゃ、約束の日に引き出しに入れておいてくれ」退屈そうに歩き出して、街の暗闇の中にフルカンは消えていった。水曜の朝まで待てないのだろうか?フルカンらしくなかった。
ヌルとの約束を思い出して、カフェに向かった。ヌルは前と同じあのガタつく机と椅子の席でウムトを待っていた。ウムトがすぐヌルに気がついたように、ヌルもまたウムトにすぐ気がついていた。
ウムトはそのガタつく椅子に、机にもう慣れていたのだろう、そこまで不快に感じなかった。「遅かったね、今日は来ないと思った。十五分遅かったら、ここを出てたと思う」
机に肘をついてウムトを見ていた。怒ってはいなかったが、待たせてしまったことは明らかだった。
「ごめん、少し仕事が長引いたんだよ」
「いいよ、とにかく来たんだから。何か飲むの?」
手を上げて店員を呼び、ウムトが決められないでいると、チャイを二つ注文した。それから店員がチャイを机に置くと、ヌルはすぐに口をつけるとすぐに本題に入った。「頼みがあるんだけど、ブシュラはアフメド医師と一度話すべきだと思うの。その機会をあなたに準備してもらいたいの」
「ブシュラは今、僕とは話したくないと思うんだけど?アフメド医師だって、そうかもしれないし・・・」
「そんなこと言わないでよ、こんな遅くまであなたを待ってたんだから。私はアフメド医師とは話したことはないし、話すこともないと思う。あなたは違うでしょ?彼のことを調べているんだし、記事だって書くんでしょ?」
ヌルは正しかったし、答えるまでもない事実だった。「そんな簡単じゃないし、少し時間を置く必要があると思う・・・」ヌルはこのウムトの返事に納得したくなかったが、理解できる部分もあった。
切り出せるような雰囲気ではなかったが、ウムトもヌルに話したいことがあり、ウムトも目の前にあるチャイを一口飲んだ。直接的な表現ではなく、例え話としてウムトは説明することにした。
「君の手に一つの鍵があるとする、その鍵でどこの扉が開けられるのかは分からないけど、ブシュラがその鍵を欲しがってたら渡す?」




