白いユリ(4)
結婚してから二、三年が過ぎたある日だった。一週間前に買ったマグカップで何か飲もうとサラに提案すると、同じ日に買ったコーヒがあることをアフメドに伝えた。棚の一番上にはサラの言った通り新品のコーヒーの包みがあった。
お湯を沸かして、コーヒーを淹れ、ゆっくりと新しいマグカップにコーヒーを注いでから、サラの前にマグカップを置いた。「ありがとう」と言いながら視線をアフメドに向けた。
それまでは窓辺にあるガラスの花瓶に生けられた白いユリの花がサラの目を奪っていた。二人が住んでいるアパートの近くにある小さな花屋でサラが買ったものだった。マグカップとコーヒーを買った帰り道、家に出る前からサラがそこに寄るのは分かっていた。その数日前から、花瓶が空になっていたし、アフメドに次は何の花を生けようかも話していた。
サラは白いユリが好きだったから、白いユリを手にしたサラが花屋から出てきても驚きはなかった。マグカップよりも、白いユリの方が気になって仕方がないようだった。サラは帰宅すると、まず花瓶を洗った。
今から話すことを白いユリに聞かせたくなかったのだろうか?再び視線は窓辺の花瓶に向けられていた。窓から入る陽の光に照らされた純白の花弁はそれ自体が発光しているような、不思議な光を放っていた。
「その猫は私の心臓みたいだった。生きていることを確かめるために胸に手を当てるでしょ?そんな風にいつも撫でていた。出会いは美しくもなんともないし、きっと偶然で、運命とかそんな大袈裟なものではなかったの。
雨が降る中、ふらふらと道路の端を歩いていたけど、多分そのまま放っておいたら一週間以内には餓死していたと思う。家に連れて帰りたかったけど、両親が許すとは思えなかった。その猫と私の目は似ていたから放って置けなかったの。
小さかったけど、生まれてから二週間くらい経っていたんじゃないかな?雨が猫の体から体温を奪っていくのをはっきりと感じたの。とりあえず猫を抱えて雨から守ろうとしたけど、それからどうすればいいのか、十二歳の私に何の考えもなかった。小さく震えるその体をどうすることもできなかった。
どうすれば見つかることなく自分の部屋まで連れて行くことができるか考えてみたけど、名案が頭に浮かぶことはなかった。雨に濡れながらも猫を抱えて家の前まで帰ってきたの。少し窮屈かもしれないけど着ていたパーカーの中に猫を隠そうと思ったんだけど、急に嫌がりだして、困っていたら母が家の玄関から扉を開けて出てきて、もうダメだと思った。
私がなぜ家に入ってこないのか、母はすぐにその理由が分かったかのように腕の中にいる猫を見たの。きっと窓から帰ってきた私を見ていたんだと思う。母は私から猫を取り上げて、どこかへ放ってしまうと思ったけど、そうはならなかった。
真逆だった、家の中に連れ込んで、私と猫のことをタオルで拭いてくれたの。その後、夕飯の買い物と一緒に猫の餌も買ってきてくれた。でもこれで全てが解決とはいかなかった。父がこのことを受け入れてくれるかどうかは分からなかったから。
でも結局それも大きな問題にはならなかった。自分で猫の世話をすることを約束したら父もあっさりと猫を飼うことを受け入れたの。もちろん私も世話をしたけど、父が缶詰の餌をあげていることもあったわ。とにかくみんながその猫を気に入ったの。すぐに『天使』にだって見せたわ」
またサラの口から飛び出した『天使』という言葉をアフメドは放っておくことができなかった。




