白いユリ(1)
フルカンはウムトを見て、彼にそのまま話を続けさせた。フルカンも何度も聞いていたのだろう、そんな表情だった。そしてまた急に話題はアフメドに移った。
「アフメドが初めてここに来た時、彼の目には恐怖があった。見知らぬ街で何も知らないまま時間が過ぎていくのが怖かったのかもしれない。お母さんの手をいつも握っていたのを覚えているよ。小さい子供にすれば、一番安らぎを与えてくれる存在はやはり母親だろう。アフメドは学校の帰りここに寄るようになったんだ。
いつもチョコレートとチャイを出していたからそのために来ていたんだろうね、きっと。母親もこのことを知っていたし、アフメドにあげてくださいと言って、挨拶ついでにチョコレートの袋をここに置いていったんだ。アフメドの成長を親ではないが、近くで見ることができたのは嬉しかったよ。
そんなある日、いつものようにここに鞄を置いてチャイとチョコレートを食べていると、何の前触れもなく話しはじめたんだ。確か冬だった、雪も降ったせいで道が白く染まっていたのを何となく覚えている・・・」
不動産屋の視線は遠い過去の白く染まった通りに向けられていた。
「アフメドにとって、心に抱えている大きな後悔だったようで、自分を責めているように見えた。そのカセットプレイヤーは重かったとしてもここまで持ってくるべきだったと言っていたよ。アフメドの声からどれだけ大切だったのかを感じたし、どれだけ時間が過ぎたとしても忘れることはなかっただろう。
もしかしたら今でもそのことについて考えているかもしれない。彼にかけてあげる言葉が見つからなかったんだ、情けないね。だから今でもこのことを覚えているのかもしれない」
不動産屋が思っていたように、カセットプレイヤーはアフメド医師にとって今でも大きな意味があるのだろう。アフメド医師の過去についてまだ知らないことがたくさんあるが、ウムトがはじめに抱いた輝かしい経歴だけではないものが段々と浮き上がっていた。強い光が作り出す影は恐ろしいほど暗く、冷たいのかもしれない。
「次第にアフメドがここに来る回数は減っていていったし、寂しくないと言ったら嘘になるが、決して悪いことじゃない。そんな中で、アパートが取り壊されることになったんだ。彼の父親とも話したが、結局どこに引っ越したのかは知らないんだ・・・」
不動産屋はソファーにもたれて天井を見上げた。
「ところで、どのようにアフメドが医師になったことを知ったんですか?」
ウムトが気になったことの一つだった。
「偶然、新聞で読んだんだよ。顔写真と名前を見てすぐに気がついたよ。フルカン、君があの記事を書いたのかい?」
「いえ、他の記者です」
フルカンはチャイに口をつけたところで、何か言いたそうな顔をしたが、不動産屋が再び何かを思い出したように話し出すと、何も言わなかった。
「引っ越したが、どうやら、あまり遠いところではなかったようでね。高校生になってからもアフメドは月に二回くらいはここに来たんだよ」
それから、スーパーの袋の中からチョコレートを取り出して、袋を開くといくつかフルカンとウムトの前に置いた。味見をするかのように一つ食べると、フルカンを見て「これも悪くないね」と言って微笑んだ。




