取り壊されたアパート、それから不動産屋(1)
アトリエからの帰り道、ウムトと初めて出会ったカフェが目に入り、理由もなくカフェに向かった。チョコレートケーキが美味しかったのを覚えていたが、その日はチーズケーキとチャイにした。
机に肘をついて、手のひらに顎を乗せると、自然と溜め息が漏れた。何か音がすると思ったら、外で雨が降りだしていた。ちょうどいい雨宿りになると思いながら、チャイに口をつけた。熱いチャイがヌルの体を温めた。雨は思いのほか強く、いつの間にかカフェには雨から逃れようとする人で満席になりそうだった。
ヌルは傘を持っていなかったから、雨が長くは降らないことを願っていた。カフェに濡れながら走って入ってきた男の一人がウムトだと気がつくのに時間はかからなかった。
ウムトも、まさかそこにヌルがいるとは思わず、名前を呼ばれると、立ち止まって驚いていた。それでもヌルを見つけると、すぐにその驚きはどこかに消えた。濡れたカバンを置いて、ジャケットを脱ぎながらヌルに言った。「急な雨は困るね。君はほとんど濡れてないから雨が降り出した頃にここに来たんだね」
「そうじゃないわ、雨が降る前からここにいたの」ヌルはジャケットをシャツの袖で拭くウムトを見ながら言った。そんなことをしても何も意味ないのにと言いたげな冷たい視線だった。
「雨降るの知ってたの?」「そうじゃなくて、ただ少し座りたかったの」ウムトは通りがかった店員にヌルの前にあるケーキとチャイを指差した。それだけで店員は分かったような顔で紙に注文を書いていた。「あなたがアトリエに来た日から、ブシュラは普通に振る舞っているようだけど、無理している。ところであなたはメモのアパートに行ったの?」
ヌルはフォークでチーズケーキを丁寧に切って口元まで持っていったが、口には含まなかった。ウムトは質問に答えることなく違うことを言いだした。「初めて会った日も、ここで話したよね?」ヌルはケーキを口に含んでから答えた。「そうよ」少しすると店員はウムトのケーキとチャイを持ってきた。話していく中で、最初の質問は忘れ去られてしまった。
「知り合ったばかりなのにこんなこと言うのは失礼かもしれないけど、悪い意味じゃないから。私が想像していた新聞記者とはなんか違う。あなたに新聞記者が向いているともあんまり思えない・・・」
ヌルがどうして突然こんなことを言い出したのか分からなかったが、ヌルに悪意があるようには思えず、純粋にそう思っただけのようだった。「傷つけてしまったなら謝るわ。幼い頃から新聞記者になりたかったの?」
ウムトは新聞記者になりたいと思ったことは一度もなかった。友達たちは、スポーツ選手、花屋、学校の先生など、将来の夢があったが、ウムトにはなかった。大学を卒業した後一年間、特に働きもせず、怠惰に過ごしていた。
そんな時に偶然、今の新聞社の求人を見て、何となく履歴書を送ってみた。そこで働きたかったからではなく、両親に働こうとしていることを示すためだった。返事が来るとすら思っていなかったのに、返事はすぐに来て、二日後には面接をすることになった。
当時はもちろん知らなかったが、面接官はフルカンだった。何を気に入ったのか分からないが、フルカンはその場でウムトを採用することに決めた。明日から来るようにと言って、面接も五分で終わった。




