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サラの祈り  作者: 和正
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黒い車(2)


「ならば、全てを黙って受け入れろと、あなたは言うんですか?略奪を許すんですか?」


「君が正しくないと言いたいんじゃない。ここまで娘の手術が成功する前提で話しているが、そうはならない可能性だってあるわけだ・・・」マルコが何を言いたいのか分からなかった。


「要するに、このメモを読むことはできないかもしれない。君も大切なものを担保として差し出す必要がある」マルコは娘のことを本当に心配しているようには見えなかった。アフメドは今までたくさんの患者と、その家族と話してきたがマルコの落ち着きは異常だった。


「分かりました。何が欲しいんですか?」アフメドのこの言葉を待っていたかのように不吉な笑みが、一瞬だけマルコの顔に浮かんだ、本当に一瞬だった。「もし手術が失敗するようなことがあったら・・・」


そこまでいうと再びアフメドが渡したメモを手に取って「カセットプレイヤーを貰うとしよう」ととどめの一撃を与えるようにアフメドに言った。マルコにとって何の価値もないものだった。アフメドが一番奪われたくないものが何なのか考えたのは明らかだった。


とどめの一撃になっただろうか?ただ、アフメドは隠しきれないほど動揺した。ナイフで腹を刺されたような嫌な感覚があった。腹部に触れたが、血は出ていなかったし、そんなはずはなかった。マルコは動揺するアフメドを眺めながら愉悦に浸っていた。


その人にとって大切なもの奪うことがマルコに快感を与えていたのだろう。動揺するアフメドの心で何が起こっているのか、それを見たかったのかもしれない。


扉の近くにいた二人の男のうち一人がマルコに近づいて、耳元で何かを伝えていたが、アフメドには聞こえなかった。マルコは頷き、その男も扉の近くに戻った。印があるかのように全く同じ場所に立っていた。


「時間だね、行かないといけない。手術が成功すれば、そのメモを読むことを約束する」アフメドが渡したメモをレシートのように丸めてポケットへ入れた。本当に読む気があるのだろうか?


「万が一、手術が失敗するようなことがあれば、カセットプレイヤーを渡します」とアフメドは言ったが、絶対に渡したくなかった。マルコは頷くと立ち上がって、ジャケットを整えた。


「これはある種の契約だね。最後にもう一度握手しよう」マルコは病院の入口でしたようにアフメドに向かって手を伸ばし、アフメドは仕方なくその手を握った。マルコが扉に向かうと、一人の男が扉を開き、もう一人は先に部屋を出た。


マルコが部屋から出るとその男は丁寧に扉を閉めた。その瞬間、アフメドは今まで息が詰まっていたかのように、急に息を切らした。部屋からマルコの残した痕跡を消し去りたかった。窓を全開にすると、黒い車に向かうマルコと二人の男が見えた。アフメドの視線に気がついたように、灰色のスーツの男は突然歩くのを止めて、アフメドの方を見上げた。


手を振るわけでもなく、少しそのまま見続けた後、再び歩きだして、車に乗った。病院からその黒い車が走り去った後もしばらくの間、窓を開けて換気した。風で揺れるカーテンはアフメドを襲うかのように何度か激しく音を立てて舞った。


扉をノックする音は信じられないほどアフメドを驚かせた。エムレ医師が来たのかと思って落ち着いて扉を開けると、彼ではなく新聞記者がいた。なぜまだここにいるのか訳が分からなかった。


「ペンが鞄になくて、病院中を探したのですが、見つからなくて。この部屋で落としたんだと思います。少しだけ探させてくれませんか?」アフメドは大きな溜め息をついた。今さら怒る気にもなれず、ただ「どうぞ」と言ってウムトを中に入れた。



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