ボイスレコーダー(5)
アフメドがマルコを連れて行ったのは、カセットプレイヤーがある部屋だった。他にも部屋はあったが、他の人が来る可能性がないのはこの部屋だけだった。そんな矢先、なぜか病院から出て行ったはずのあの新聞記者が部屋の前で立っていた。
「ここで何してるんだ?」「ジャケットを忘れてしまったんです・・・」アフメドは何も言わず、ただ勢いよく扉を開けた。ジャケットに気が付かなかった自分自身に、いつも急に目の前に現れるウムトに腹が立った。
ウムトは部屋に入ると、ジャケットからボイスレコーダーを取り出し、録音ボタンを押してからソファーの下に置いた。緊張で手が震えていたがまだやることがあった。ボイスレコーダーの近くにボールペンを転がしてから立ち上がった。部屋を出る時、苛立ったアフメド医師の視線を感じた。
「すみません、ありました・・・」と言ってウムトは逃げるようにその場を離れた。その際、テレビの画面ではなく初めてマルコを見た。たった一瞬ではあったが、その目に暗い何かを感じた。アフメド医師に伝えなければと思ったが、そんな余裕はなかった。
これでウムトの仕事が終わったわけではなく、話し終えたところで再びボイスレコーダーを回収する必要があった。部屋から出るときにソファーの下に転がしたボールペンはこのためだった。ボイスレコーダーを回収するために部屋に入る口実として今度はペンを忘れたことにするつもりだった。
即興だったが、この他に良い案が頭に浮かばなかった。ウムトは二人がその部屋で話すことが分かり、ボイスレコーダーを設置できたことに安堵を感じていたが、気を抜くのにはまだ早かった。
二回も忘れ物をしたと言って部屋に来ることは怪しかったし、アフメドが、もしくはマルコが床に何か落としてしまったら間違いなくボイスレコーダーに気がつくだろう、そうなれば疑われるのは間違いなくウムトだった。
振り返ってみると、廊下にはもう誰もいなかった。アフメドとマルコは何を話しているのだろうか?ひとまずロビーの適当な席に腰掛けて緊張と興奮の中で揺れている自分自身を落ち着けようとした。
「あの若い男は知り合いかね?」マルコは何の興味もなさそうにアフメドに訊いた。「新聞記者です。私について記事を書くそうで、少し話していました」「そうか・・・」と言うとマルコは深くソファーに腰掛けた。そのソファーの下にボイスレコーダーとボールペンが置かれていた。
マルコが連れてきた秘書かボディーガードらしき二人の男は扉の近くに立ったまま座ろうとしなかった。マルコは唐突に一人の医者の名前を口にした。アフメドの元同僚だった。「私は医者ではないから娘の病気について詳しいことは分からない。彼は君を優秀な医者だと言って私に紹介した」
それから、扉の近くにいる男に向かって手を伸ばすと、鞄から取り出されたファイルを受け取り、アフメドの前に置いた。「彼から君に渡すように言われた」アフメドがそのファイルに目を通していると、マルコがまた話し出した。




