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サラの祈り  作者: 和正
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街の美しい場所(5)


「アトリエにも実は行ったんだ。一人で働いているのかと思ったけど、そうじゃなかったみたいだね・・・」


ヌルの顔にはまだ疑いが残っていた。「今調べているアフメド医師がブシュラさんと知り合いみたいで・・・」「誰だろう?聞いたことないけど」ヌルはアフメド医師について知らないのだろう。ブシュラとアフメド医師も久しぶりに話すようだった。


電話でのブシュラの声とか、話し方から伝わってくるものだった。そのまま時間だけが過ぎ、ヌルと何を話したのか、ウムトは家に帰ってからも思い出すことができなかった。何かが起ころうとしているような気がしてならなかったが、それが何なのか全く分からなかった。


ヌルはウムトと何を話したのか覚えていたし、途中から上の空で話を聞いていないのも顔を見て分かっていた。家に帰ってシャワーを浴びてから、夕飯を食べ終えると、いつものようにショパンのカセットテープを手に取ってカセットプレーヤーにセットした。心地よいピアノの音色が部屋を包んだ。


壁の大きな棚にはバッハ、ショパン、リストなどの作曲家のカセットテープが綺麗に並べられていた。大半はガムゼの働くお店から買ったものだった。カセットプレイヤーもガムゼが特別に割引してくれて一年前に買ったものだった。それ以来、毎日こうして仕事終わりに音楽を聴くのが日課になっていた。


明日もカフェに行けば、ウムトがいるだろうか?アフメド医師とブシュラの関係が気になりだしていた。ブシュラの口からその名前が出たことは一度もなかった。


カフェに行く必要もなく、思っていたよりも早くウムトと再会することができた。朝、目覚めるといつものようにカーテンを開けて朝日を浴びて体を起こした。さっさと準備を済ませると部屋を出てアトリエに行った。


ブシュラはヌルよりも早くアトリエに来ていたし、いつものことだった。チャイを飲みながら打ち合わせとして締め切りと、どの仕事がどれくらい進んでいるのかを確認した。それから白衣を着て仕事に取り掛かった。


昼を少し過ぎた頃、アトリエのベルが鳴り、ヌルは玄関に向かった。扉を開けると、そこには昨日と同じ服装のウムトがいた。他に服がないのだろうか?ヌルが一番最初に思ったことだった。


「ブシュラさんはいる?」「いるよ」と言ってウムトをアトリエに入れた。二人は昼休みにしようと思っていたところだった。ブシュラも、ウムトが近いうちにまたアトリエに来るだろうと思っていた。ウムトが訊きたかったことはアフメドについてではなく、ブシュラのことだった。挨拶を済ませるとウムトは何の前置きもなく質問してしまった。


「十五年くらい前に亡くなったのは誰ですか?」


簡単に答えられることではなかったし、ブシュラを動揺させた。ヌルにすらこのことについて話したことはなかった。もしかしたら話すべきことだったのかもしれないが、ブシュラは話す気にはなれなかった。


「友人です。このことについては話すつもりはありません。アフメドについて記事を書くんですよね?いきなりそんなことを訊くのは失礼だとは思いませんか?」


ブシュラは何一つ答えたくなかったし、話したくないのが本心だった。心の奥深くにある癒えない傷に触られたような不快感があった。


「すみません・・・」ウムトは後悔したが遅かったし、黙ったまま座っているしかなかった。ヌルも初めて見るブシュラの苛立った様子に顔を引き攣らせていた。



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