水の中にあるもの(2)
病院にあるカセットプレーヤーは、リサイクルショップで購入したものだった。店員はその古くて壊れそうなカセットプレイヤーに興味を抱くアフメドを理解できなかった。もっと状態の良いカセットプレイヤーを店員は勧めたがアフメドは見向きもしなかった。
それはあの日、置き去りにしたカセットプレイヤーとは違っても、その年代に発売された似たモデルだった。このアフメドの一連の行動は、他の人には理解し難いものだったかもしれない。
家にそのカセットプレイヤー置いてみたが、病院で多くの時間を過ごすために音楽を聴く時間はほとんどなかった。二、三日もしないうちに病院に持って行った。その古いカセットプレイヤーを何度も修理に出しながら、音楽を聴き続けることは、枯れた花に水をやりながら再び活き活きと咲くことを望む哀れな行為だろうか?無意識に彫刻に命が吹き込まれることを望んでいたのか?
一日のどこかで音楽に浸れる時間があれば、ストレスをほとんど感じることなく手術に臨むことができた。その旋律の中にアフメドの過去が埋まっていた。この都市に逃げてきたあの夜、アフメドは十二歳だった。トラックを乗り継いで辿り着いたのが、今も住んでいるイスタンブールだった。大きな不安に苛まれながらトラックの荷台で過ごした冷たく暗い夜を忘れることはなかった。
もし逃げないであそこに残っていたら死んでいたかもしれないことを、テレビと新聞からアフメドは知った。トラックの荷台に友達はいなかった。一緒に走り回って遊んだ友達の何人かは犠牲になっていたかもしれない。
友達もいない、知らない言語の土地で生活することは、アメリカに留学する上で役に立った。一から新しい言語を学ぶことにアフメドは自分なりのやり方を見つけていた。初めて学校に行った日、何一つ知らないアフメドに手を差し伸べてくれた親切な一人の女子生徒がいた。
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一人で外を漠然と外を眺めているアフメドに声を掛けてくれたのがブシュラだった。緊張しながらも、アフメドに手を差し出した。新しく教室に放り込まれ、一人で座るアフメドを見て、道端に捨てられた猫のように放って置くことはできなかった。
見て見ぬ振りをすることで嫌気を感じるくらいなら、どうなろうと声を掛けてしまった方がスッキリすることは分かっていた。これほど長く付き合いが続くとも、こんなにも優秀な医者になるとも思っていなかった。その新聞記者はアフメドの『過去』について知りたいようだった。
その新聞記者がアトリエにまた来ることは分かっていた。アフメドの過去を紐解いていけば必ず一人の女性に辿り着くはずだった。それはサラだった。あの日、アフメドを噴水で見つけると、隣に見たことのない女性が座っていた。違う高校の制服だった。それと不思議な目をしていた。色とか、形ではなく、黒く凛とした瞳は見たことのない光を包含していた。




