窓辺で手紙を読む女(6)
その日は満月だったことを理由もなくアフメドは覚えていた。
「アフメド、私にとって祈りは一人でするものなの。そのために、朝早く起きて窓辺にいたの。誰にも祈る姿を見られたくないの。それが愛する人だったとしてもね。難しいかもしれないけど、わかって欲しい」
サラはアフメドの目の奥深くにある何かを探すように覗いていた。サラの瞳は黒く深かった。何かを隠しているような暗闇がそこにはあった。何を隠しているのか、または隠したいのか、その最も深いところにあるものを知ることは不可能だった。
窓辺で祈ることを本当にやめてしまったのだろうか?もっと早く起きていたのか?もしくは別の場所で祈り続けていたのか?目覚めると、隣にサラが眠っていないことが何度かあった。アフメドは気になっても、サラに言われたように探すことはしなかった。
空港のカフェでの告白は、サラから祈る場所を奪ってしまったのではないかと罪悪感に駆られた。サラにそのことを打ち明けたことを後悔しても、打ち明けたことは間違いではなかっただろう。
サラの祈る姿を忘れることはなかった。アフメドはいつでも鮮明に思い出すことができた。目の前にある薄められたような味のコーヒーを飲み終えると、ほとんど話すことなく家まで帰った。
サラは花が好きだった。本好きの人が本屋に行くように、サラも花屋によく足を運んでいた。もし歩いている最中に花屋が目に留まれば、そのまま通り過ぎることはなかった。花屋に寄るたびに花を買うわけではなかったが、気に入った花が見つかれば、映画館に向かう道中であっても花を買っていた。
サラが映画を観ながら、手にある花を眺めていたことにアフメドは気がついていた。映画が終わって、サラの口から最初に出た言葉は映画の感想ではなく、その花をどの花瓶に生けようかだった。サラは幸せそうだった。花よりも彼女の方が何倍も美しかった。
「ただ花が好きなだけじゃなくて、何か特別が理由があるように思えるけど?」
「何かを好きになるために必ずしも理由が必要かしら?花は必ず枯れてしまう、だからこそそこにある美しさを見逃したくないの」
「悲しくない?」
「悲しいかもしれないけど、花は枯れるものなの。変えられないことだし、変えちゃいけないことだと思う」
「造花だったら枯れないよ」
アフメドはサラが納得するとは思ってなかった。ただ、この問いに対するサラの答えが気になっていた。




