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サラの祈り  作者: 和正
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カモミール(4)


「医師として患者を救いながらアフメド医師が本当に心から望んでいるのは何ですか?もっとはっきり言うならば、アフメド医師が救えなかったその人は誰なんですか?」


アフメドはこの二つの質問に答えられず、唾を飲み込み言葉に詰まった。動揺するアフメドに構うことなくダリヤは続けた。


「声や、視線、ふとした瞬間に見せる表情の中にその人の存在がいつも見え隠れしていて見ないふりをするのはもう限界でした。どんな人だか知りませんがとても大切な人だということだけは分かります」


サラについてダリヤの前で口にした覚えはなくても、深く沈殿している感情の破片がダリヤの目には透明な水の中を覗くようにはっきりと映し出されていたのかもしれない。アフメドはダリヤを見ながらも何も言えないままだった。


「前にも言ったかもしれませんがマルコは自分にとって邪魔な人間を容赦無く切り捨て、比喩ではなく消し去っていました。死体が見つからなければ死を証明するのは難しいようです。こんなことを言いたくはありませんが、スエズ運河のコンテナに見られては困るものを次から次へと隠しているようです」


あまりにも衝撃的な内容を簡単には受け入れられず、どう答えていいのか分からないままただ時間が過ぎていた。マルコから感じた不吉な影の正体はこれだったのだろうか?


「アフメド医師が狂い、感情の赴くままに行動することマルコは望むはずです。何があっても自分を見失わないようにしてください、それが破滅への入り口ですから。情を揺さぶるようなことを言い出すかもしれませんが、信じてはいけません。あなたが心に仕舞い込んでいるその女性の名前がマルコの口から漏れたとしても心を開いては駄目です。マルコがその女性を知るはずがないんですから、何を言っても絶対に信じてはいけません」


ダリヤの琥珀色の瞳には他の人が見ることができないものまで映るのだろうか?真っ直ぐな視線はアフメドを通り越してその後ろにある過去に向けられていたのかもしれない。


「分かりました、忘れないでおきます」それから仕事に向かわなければならないと言ってダリヤの病室を逃げるように離れたことをアフメドはすぐに後悔したが手遅れだった。


ダリヤも動揺するアフメドを見ながら、ただ部屋から出ていくのを目で追うことしかできず、ドアが閉まると同時にカーディガンの上に置いてあった本に手を伸ばしページを開いて気を紛らわすように読んだ。


アフメド医師のためにできることは何かと考えた末に上手くいくかどうかは全くもって確信を持てないダリヤと『彼』の計画が少しずつ進んでいた。たとえ現実的ではなくても、それをどうにか解決してくれるかもしれない『彼』に頼るしかなかった。


そのまま本を読み続け、自然に訪れた眠気に身を任せるように本を閉じ、カーディガンの上に戻すと、ベッドの照明を消した。明日も晴れれば中庭のカモミールに触れたいと願っているうちに暗闇と静けさがダリヤを夢の世界へと誘い、そのまま深い眠りに落ちていった。



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