恐竜の化石(5)
「他にも症状として、目の水晶体が剥離してしまうこともあるの。私は水晶体に問題なかったけど、視力が悪くて子供の頃からメガネをかけていたせいで馬鹿にされたこともあった。そんなことは大して気にも留めなかったけど、私のことを馬鹿にした生徒は一ヶ月以内に転校したの。
今思えば、父が何かしたんだとしか考えられないけどね。これらの症状が当てはまったからと言って、マルファン症候群だとは限らない。それでもこんなテストがある」と言ってダリヤは、親指と小指で手首の周りを一周させると、その二本の指は重なった。
ウムトも同じようにやってみたが、親指と小指は重ならなかった。
「これは診断方法のひとつに過ぎないけど、代表的なものよ。血管や、内臓に問題を抱えている人もいるし、私もその一人。命に関わることも、生活を制限する症状もある。アフメド医師の説明をあなたも聞いていたでしょ?大動脈を人工血管と交換するの」
ダリヤに恐怖や不安の色は見えなかったが、見せなかっただけかもしれない。
「この手術が成功したからといって全てが解決するわけではないけど、これは『重要なな手術』になる・・・」ダリヤが何を言いたいのか、その意図は明らかだった。父であるマルコがアフメド医師に何を言ったのか、知らなかったとしても何かを感じ取っているような印象をウムトに与えた。
ダリヤは幼い頃からずっと例えとか、比喩ではなく、死の影を感じ続けていたのかもしれない。
「神様は生まれる前に全ての子供に何かを授けるんだと思う。絵が上手く描けたり、勉強ができたり、スポーツが得意だったり。それとバランスを取るように、もう一つ別のものを与られる。それが私の場合は病気だったのかもしれない、この考えが正しいのかどうかは分からないけど、そんなことは大事じゃなくてそう考えると少し心が軽くなったの。
小さい頃は自分の手が嫌いで仕方がなかった。子供らしい可愛い手じゃなくて、大人みたいな長い指が嫌いだったの。そうやって他の子供と違うところを見つけては傷ついて、塞ぎ込んでいた時期もあった。
部屋から出れない日もあったけど、その日々が無駄だったとは思わない。深く自分の中に潜って見たくないものも全部見て、這い上がってきた時に、世界の景色は少しだけど変わって見えたの。そういったことが物語を書く根っこにあるのかもしれない。だからこの二つは切っても切れないんだと思う・・・」
ダリヤは空になったスーツケースを閉めた。ウムトはなんて言ったらいいか分からないまま突っ立っていた。
「少し話し過ぎたようね。今度はあなたのことを聞かせて、初恋の話とかあるでしょ?あなたの目は素敵よ。手伝ってくれてありがとう、またね」
少し疲れた様子だった。ベッドで休みたかったのかもしれない。これ以上ここに居ても何もできることはなかったし「また来ます」と言ってウムトは鞄を肩にかけて、病室から出た。
長い廊下を歩きながら、家に帰る道中も、家についてからもウムトは一つのことを考え続けていた。神様は自分に何を与えたのだろうか?ダリヤはその考えが心を軽くしたと言っていたが、ウムトは自分自身におけるその答えが知りたかった。




