恐竜の化石(3)
「ウムト、まだ分からない?私は今まさしく話していた作家よ、物語を書いてる。それに、あなたが手に持っているのは小説の原稿、一週間くらいしたら出版社に送るつもりなの」
ウムトは何を言えばいのか、どうしたらいいのか、とりあえず手に持っている原稿をそっとベッドの上に置いた。その様子があまりにも可笑しくて、ダリヤはまるで少女のように笑いながら「触ったからって壊れたりするものじゃないでしょ?」と少し意地悪な声で言った。
「本当に作家なんですか?」
なぜかすぐに信じることができず、変なことを言ってしまったと後悔したがダリヤは困惑するウムトの様子を楽しんですらいるようだった。
「嘘つくと思うの?」
ウムトの顔を覗き込むように見てから言った。
「そう言う意味ではなくて・・・」
「何を知りたいんだっけ?」
「どうやってインスピレーションを得ているんですか?」
「少し考えさせて」
そのダリヤの顔をウムトはよく知っていたし、さっきまで見せていた少女のような表情は何だったんだろうか?どんな人の中にも幼さは消えることなくただ長い眠りについていて、時にその長い眠りから目覚めて姿を現すのだろうか?
「作家それぞれのやり方があると思うからこれから説明するのは、あくまでも私のやり方になるけど、とても小さなことから全てははじまり、繋がっていくの。
誰かが道に落とした手袋とか、すれ違った人の会話、それから不思議な線を描きながら舞う蝶を見て書き出したこともある。どんなことでもアイデアになり得るし、大事なのはそういうきっかけを見逃さないことかもしれない。
ある程度書きたいことの輪郭が浮かんんできたら、その分野に関する本を読んだり、リサーチするの。そうやって物語を具体的にしていきながら抽象的な部分を消していくんだけど、消しすぎると途端に物語はつまらなくなってしまうことがあるから、そういう大事な線は消しゴムで消さないように気を付けないといけない。
その過程で初めに考えていた構想はが変わることもあるし、全く違う物語になるというか、視点がぐるっと変わってしまうこともあるけど、受け入れることにしてる。
確かに作者は私かもしれないけど、書き終えたら不思議とそんな気はしないわ。そこにあるもの私が見つけて取り出したような感覚ね。だから、どれだけ綺麗に、傷つけることなく取り出せるのかが重要で、それが物語の完成度に大きく関わってくるの。
例えるなら恐竜の化石を掘り起こす考古学者のようかもしれない。ティラノサウルスみたいな大きな物語になる可能性もある。最初に見えている部分はとても小さいのよ、どう?色んな喩えを含めて説明したから答えになっていないかもしれないけど」
確かにダリヤの話した全てを完璧に理解できたとは言えないかもしれないが、それでもウムトは『どうやってインスピレーションを得ているのか?』というダリヤ自身の答えには触れることができたと確信していた。




