再会(2)
玄関で見覚えのない焦茶色のビジネスシューズが目に入り、泥棒とか疑うことなく、真っ先にフルカンが頭に浮かんだ。つまりは部屋の照明も、鍵も閉め忘れたんじゃなかった。
ただ、そこにいる背中を向けた男は本当にフルカンなのかと疑わずにはいられなかった。カフェのカウンターにいた男と同じ濃いブルーのスーツだけでなく、白髪の長髪もそっくりだった。
「フルカン?」恐る恐る名前を呼んだ。
「どうしてあそこにいたんだ?」聞き覚えのあるフルカンの声だった。
ただその白髪の長髪と、スーツは依然として謎のままだった。フルカンの髪は短かったし、ほとんど白髪はなかった。振り返ると同時にフルカンは頭に手をやって引っ張っると、その長髪の下からいつものフルカンの黒くて短い髪が姿を現し、手にあるその白髪のカツラを捨てるように床に投げた。
「カフェのカウンターに座ってたのは・・・」
「そうだ、俺だ。あの女は誰だ?今日が初めてじゃなかったぞ」
疑っているようだったが、そんな必要はないことを伝えた。
「ヌルです。調香師のアシスタントで、友達と行ったことも聞きましたよ」
「偽のボイスレコーダーをお前に渡した女か?」
「女って言うのやめてもらえませんか?」
まだ状況がいまいち掴めていなかったが、とにかくカフェのカウンターに座っていたのは変装したフルカンということだった。
「お前より肝の据わった女だな」
フルカンに何を言っても無駄な気がしてならなかった。
「もうあそこには来るな、それだけ伝えにきた」
「待ってください、メルべとユルマズがあそこで話していることを聴くためですか?」
フルカンは、わざとらしく目を見開いて、ウムトを馬鹿にするように「それ以外何かあると思うか?お前が来ると分かれば、他の場所に行っちまう」と言った。
「二人から何を知りたいんですか?」
「ユルマズの計画。少しはお前にも伝えておくか」と言って、床に投げ捨てた白髪のカツラを拾い、不自然なくらい丁寧に被ってから説明しだした。
二人が『名のないカフェ』に通っていることを知ったのは二ヶ月前くらいらしく、仕事を終えてからそこに行くには遅かったし、仕事を休んでまで、そこに行く必要があるかどうかと思いつつも、何度か試したが、二人がカフェに来るとは限らず、収穫は少なかった。
時間が足りないまま、このためだけに長期休暇は取るのはバカバカしく、ユルマズが何も勘づかないはずがなかった。
偶然にも、ウムトがボイスレコーダーを壊したことがきっかけになり、即興で怒り狂う上司を演じ、見事に謹慎処分という名目で時間を確保することが出来たと、獲物を捕まえることができたハンターみたいな目で語るフルカンを見ながら、ウムトは今までしてきたことが全てが水の泡になるような無力感から自然とため息が漏れた。
あれだけ悩んでボイスレコーダーを壊す決断したのにも関わらず、ボイスレコーダーはそもそも偽物で、さらには病院送りにされたのもフルカンの計算の内だった。
フルカンはその時点でボイスレコーダーが偽物であることにも気がついていたし、あそこで自分をを殴る判断はもしかしたら間違っていなかったのかもしれないとすら思えてくるほどに、ウムトは自分の無力さを感じていた。




