ユルマズとフルカン(5)
初めて会った時と同じテーブルに座っていたから、ヌルを見つけるのはそう難しくはなく、ただ不機嫌そうに腕時計の針を見ている姿がどこかで目にした絵画を思わせた。ウムトに気がついても、見る対象が時計の針からウムトになっただけで、表情は変わらなかった。
「待たせたよね?」と申し訳なさそうな声でウムトが恐る恐る声を掛けても、ヌルの態度は変わらず「そうね、人を待たせるのが好きなの?」とだけ言い、ヌルがどれだけここで待っていたのかは知らないが、テーブルの上のグラスは空だった。
「仕事があったんだ、知ってるだろ?」
「私もよ、知ってるでしょ?何か言うことがあるんじゃやない?」
「ごめん」
「もういいから、私はケーキが食べたい」
ウムトが財布を取り出そうとすると、その手首を掴んで「行きましょう、何も言わないで私の言う通りにして」と早口で席を立ち、カフェの出口にウムトを引っ張りながら向かった。
リードを繋がれた犬のようにウムトは手首の自由を奪われたまま、レストランや、カフェの照明に照らされた道をひたすら歩いた。「どこ行くの?」このウムトの質問に答える素振りを見せることなく、ヌルはひたすら歩いてどこかに向かっていた。
向かっている場所の見当がつかなかったし、ぐいぐいとウムトの手首を引っ張りながらも、ヌルは、その場所を正確に覚えていないかのように、道を間違えたり、同じところを通っているのにウムトは何となく気が付いていた。
急に立ち止まり、狭くて暗い路地の先を眺めてから、また歩き出した。怪しかったし、通りの街灯や、飲食店の灯りが届いていなかった。
「大丈夫なの?」不安そうなウムトに見向きもせず「いいから、来て」とだけ言って、そのまま奥へと進み、ヌルは豪華な木製の扉の前で止まると、ウムトの手首を放した。
「ここから中が見えるでしょ、どう?メルべとユルマズはいる?」メルべがそこにいないことは中を覗かなくても想像にできたし、そもそもヌルと会う前にメルべと話していたことが遅れた原因だった。ウムトが会社を出る時も、メルべのデスクはライトが点いていたから、まだ会社にいるだろう。
その小さな窓からカウンターに座って新聞を読む男性が目に入り、白髪の長髪がここがどこなのかをウムトに理解させたが、ヌルがここに連れてきた理由は理解できないままだった。
「二人はいないけど、もし来たらどうするのさ?ここが思い出せなかった香水のカフェでしょ?」
「そうよ、いいから入りましょう。私はここのケーキが食べたいんの」
ウムトは何も言い返すことができず、仕方なくその木製の重い扉を開けた。
「そのまま奥のテーブルに向かって」言われるがままにウムトはカウンターを通り過ぎて奥のテーブル席まで足を運んだ。
カウンターで新聞を読んでいる男性以外に客はいなかった。丸テーブルにつくと、店主の息子が面倒臭そうにメニューをテーブルに置き、わざとらしくヌルを見ながら「いらっしゃいませ、今度はボーイフレンドとご来店ですか?」と不機嫌なヌルをさらに煽った。
ヌルはメニューを開けることなく、コーヒーとケーキを二つずつ注文し、そのギャルソンの質問には答えず、睨みつけた。わざとらしく怖がったような目をしてメニューとともにカウンターの裏に戻っていった。
ウムトはその馴れ馴れしい、そして度胸のあるギャルソンとさらに不機嫌になったヌルを交互に見ながら、コーヒーとケーキがすぐに運ばれてくることを願っていた。




