ユルマズとフルカン(3)
「どこでその香水の名前を知ったの?信じられないかもしれないけど、昨日、カウンターに座ってた白髪の男が使っていた香水よ」
つまりは、ウムトが口にしたその香水が、ヌルが思い出せなかった香水だった。
「いつどこで見たのか、誰がつけていたのか、全く思い出せないのに、名前だけはっきりと覚えてるなんて、なんか変な気分だけど、本当にそうなんだ」ヌルが言葉にした香水の印象がウムトの記憶からその名前を引き出したのかもしれない。
「珍しい香水よ、一般にはそんなに流通してないはず。ヌル、昨日どこへ行ったの?」ブシュラもその香水が気になっていた。最後に製造されたのがいつかは覚えていなかったが、ここ最近、名前を聞かなかったし、その男がなぜその古い香水を今も使い続けているのか、疑問だった。
「古くて、小さな、名のないカフェです」思い出せば、思い出すほど不思議な場所であり、不思議な人が集まっていた。「私も行ってみようかしら、どこにあるの?」ヌルは当然、答えなかったし、ブシュラがそこに行くことは何としても避けたいことだった。
「入り組んだ路地の先です。いまいち道を覚えてなくて、今度ガムゼに聞いておきます」「そう、分かったら教えて」それからもヌルはカフェを特定できてしまうようなことを言わないように気をつけながらコーヒーの味や、壁にかけられていた複製画について話した。
ウムトが会社に戻ると言い、ヌルは玄関まで見送ろうと席を立ち、廊下を歩くたびに木の軋む音がしたが、不快な音ではなかった。
「ここは古い建物だけど、素敵でしょ」ヌルは足元を見ながら歩くウムトに言った。
それから扉を開けて、外で二人は話した。降り注ぐ太陽が眩しく、暑くてもそのまま会話を続けた。
「本当にカフェの名前を知らないの?」ウムトも知りたかったし、確かめたいことがあった。
「本当よ、もう嘘はつきたくない。初めて会ったカフェに来て、そこで続きを話しましょう」
「分かった、遅くなっても怒らないでくれよ」
「少し遅くなるくらいなら怒らないけど。それじゃ、また後で」
アトリエに戻ったヌルが廊下を歩く木の軋む音が微かに聞こえた気がした。
会社に戻ってもフルカンがいないことに中々慣れることができず、不気味な静寂が気になったが、本来これが当たり前なのかもしれない。それに、フルカンが謹慎処分だからといって黙って家で休んでいるとは考えられなかった。
今度は何を調べているのか?知ったところでどうしようもなかったかもしれない。夕方、珍しくメルベが声をかけてきた。
「今いい?」
「大丈夫だけど・・・」
「フルカンが何を調べているの?何か知ってるんでしょ?」
「知らないよ、家でタバコ吸ってるか、賭け事でもしてるんじゃないか」
「本当にそう思ってるの?」
メルべの声には苛立ちがあったが、ウムトは本当に何も知らなかったし、それ以上言えることはなかった。
「私だって二人のくだらない喧嘩に加わりたくないけど、わたしはユルマズと働いているし、あなただってフルカンの部下でしょ?」
「だからと言って、全部話すつもりはないよ。フルカンを裏切りたくないとか、そんなことは思わないけど、何か話せばユルマズに手を貸すことになるだろ?」
「そうね」と言って机に腰掛けて、腕を組み、ため息をついた。
その瞬間、香水なのか、シャンプーなのか、甘い香りがウムトに香った。




