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第6話:廃墟の誓い、美波の熱

 一瞬にして激しい煙に包まれる図書館。


 美波は敵の初動を鋭い体術で封じ込めると、里香の細い腕を強引に掴んだ。


「逃げるわよ、里香! ここはもう、私のせいで『安全な場所』じゃなくなった!」


「貴重書が……! 私がこれまで命懸けで守ってきた、人々の記憶が……!」


 里香が、初めて悲痛な悲鳴を上げる。


「本ならまた集めればいい! 記録なら私が覚えててやる! だから今は、あんたの命を私に預けなさいよ!」


 美波は里香を半ば強引に横抱きに抱え上げ、非常階段を猛スピードで駆け下りた。

 背後からは、ハルが敵を凄絶な肉撃で食い止める音と、火炎瓶が割れて炎が爆発する音が響く。

 佐伯は腰を抜かしそうになりながらも、美波の背中を必死に追った。


 ――逃げ込んだのは、新宿の地下に広がる迷路のような廃トンネルだった。


 里香は、美波の背中で荒い息をつきながら、自分を抱える美波の腕の圧倒的な暖かさに戸惑っていた。

 警察官を辞め、泥を啜りながらも輝きを失わない美波の体温が、里香の凍てついた心を内側から溶かしていく。


「……下ろしてください。もう歩けます」


「無理。あんた、唇が真っ白じゃない」


 美波は足を止めない。

 その胸に宿る情熱が、里香の冷徹さを完全に圧倒していく。

 地下道の隅で、四人はようやく身を潜めた。

 里香は、泥で汚れた眼鏡をそっと拭い、美波をじっと見つめた。


「美波。……あなたは、なぜ私を助けるのですか。私はあなたを利用し、あなたの人生をさらに壊した女ですよ」


「……利用されたっていいわよ。あんたが私のことを『記録』してくれるって言ったから」


 美波は里香の頬の掠り傷にそっと手を触れた。

 指先から、ドクドクと熱い鼓動が伝わる。


「九条が街の記憶を書き換えるなら、私たちはそいつを書き換え返すだけ。……共犯者でしょ? 里香」


 夜。


 雨が再び降り始める中、四人は一時的な拠点となる、放置されたコンテナ倉庫に集まっていた。

 佐伯は暗い隅でガタガタと震え、ハルは無言で銃の整備をしている。

 美波と里香は、小さな窓の外に見える遠いネオンを見つめていた。


「里香、ごめん。あんたの図書館、燃えちゃったね」


 美波が申し訳なさそうに、けれど力強く微笑む。

 里香は、自分の肩にかけられた美波の革ジャケットを少しだけ愛おしそうに引き寄せ、静かに首を振った。


「……本は知識の器に過ぎません。……本当に大切な『記録』は、ここ(頭)と、あなたのそのしつこいほど真っ直ぐな瞳の中にバックアップされていますから」


 里香は美波の顔を覗き込み、その大きな瞳の輪郭を白い指先でそっとなぞった。


「……美波。一つだけ約束してください。もし、私が九条に飲み込まれそうになったら。……私の記録を、あなたが消して。他の誰でもない、あなたの手で」


「消さないわよ。何があっても」


 美波は里香の手を、骨が軋むほど強く握り締めた。


「あんたの記録は、私が一生背負ってってやる。……さあ、反撃の準備、始めましょうか」


 二人が交わした「呼び捨て」が、硝子の破片と硝煙の中で、本物の絆へと完全に昇華した。

 元刑事の探偵、美しき情報屋、気弱な元後輩、そして寡黙な運び屋。

 新宿の深い闇の中、絶対的な支配者である九条拓馬を墜とすための、歪で美しい「新しい家族」が今、産声を上げた。


『三番目の書庫の蒐集家』をお読みいただきありがとうございます!

本作は全22話、10日間でスピード完結します!


普段は、毎日12:10に異世界ファンタジー長編小説『最強の美少女賢者 アスカの「最適解」』を更新中!ストック400話以上、エタりません。こちらもぜひ!


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