第20話:真実の再生(リアル・プレイ)
会場中央、九条拓馬が「神の目」による完全な統治を説く演説の真っ最中、突如としてすべてのマイクが激しいハウリングを起こし、数百のモニターが砂嵐へと一変した。
血まみれになった美波が、最上階のキャットウォークから、まばゆいスポットライトを浴びる九条を見下ろしていた。
「九条! 審判の時間よ!」
美波は背負ったラジカセの『再生(PLAY)』ボタンを、指の骨が軋むほどの力で押し込んだ。
ガチャンッ!!!
その瞬間。里香が自らの指を焼いて繋いだ回路を通じて、会場全体に、そして衛星中継を通じて全世界に、あの「音」が轟いた。
『――システムにバグなんてない。私が、意図的に人間を消せるように、その『穴』を作ったんだ。池田刑事、君も消されたくなければ……』
九条の、慢心と狂気に満ちた、生々しい肉声。
最新のAIでも、ディープフェイクでも絶対に再現不可能な、磁気テープ特有の周期的な揺らぎ、ノイズ、そして当時の空気の粒子そのもの。
それは、どんなハッキングでも消去できない、重厚な「歴史の鉄槌」だった。
「……なっ……なんだ、止めろ! 今すぐ止めろ!!」
九条が取り乱し、醜く絶叫する。
だが、その声さえもマイクを通じて全世界にリアルタイムで拡散されていく。
デジタルで塗り固められた彼の帝国が、一本の古いテープの「音」によって、砂の城のように崩れ落ちていった。
「殺せ! あの女を殺せ!!」
九条の断末魔のような命令が響き、私設兵が一斉に美波へ銃口を向けた。
美波は九条を射抜くような瞳で見つめながら、役割を終えた安得とともに、ゆっくりと、天を仰ぐように目を閉じた。
数発の銃声が、静寂を切り裂く――。
――だが、美波の身体を貫いたのは弾丸ではなく、完全な闇だった。
ドガァンッ! と里香が会場のメインブレーカーを強制爆破し、すべてを暗黒へと突き落としたのだ。
闇の中、ハルが影のように現れて敵の意識を奪い、里香が美波の腕を強く、折れんばかりの力で掴んだ。
「……美波! まだです、まだ終わらせません!」
里香の声が、絶望の闇の中で唯一の北極星となって美波を導く。
「……ええ、行くわよ!」
二人は九条の断末魔を背に、硝煙と水飛沫が舞う非常階段を、ただひたすらに、共に、一つの鼓動となって駆け下りた。
――新宿の夜。
街中のビジョンが九条の自白を繰り返し流し、偽りの平和が崩壊していく音が遠くで聞こえる。
すべてを晒し、死を笑い飛ばした二人の女。
美波の大きな瞳には、復讐の果てに見つけた、誰にも汚せない「自由」の光が、静かに、けれど強く、朝を待たずに輝いていた。
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