戦いの次の日も、我が家はちゃんと働きます
次の日。
「はーい、みんな一列ずつで。配給はいっぱいあるんで、押し合わず順番に取りに来てねー」
明け方から俺たちは一睡もせずに、領民の対応に明け暮れていた。
調査の結果。
幸いにも、死者はゼロだった。
100匹以上の魔物に襲われて、これは父上曰く奇跡と言っても過言ではないらしい。
テンブレードが起こした災害で領民に万一のことがあったら、貴族として顔向けが出来ない。
控えめに言っても追放まっしぐらだった件、ってやつだ。これが俺にとっての唯一の救いだった。
だが。
村の外壁をはじめ、村の一部とはいえ被害は少なくなかった。
数件だが倒壊した家屋もあり、うちの敷地を含む田畑も踏み荒らされた。
復興までにそれほど時間はかからない。
だが、村が元通りになっても、領民の恐怖は簡単には拭えない。
昨日の夜の、呆然と立ち尽くしていた子供が頭をよぎった。
やはり、心の支えになる者が必要だ。
「テンセイ様、テンセイ様」
ちょいちょい、とアイが袖を引っ張る。
「どうしたアイ?」
「1人語りが長いです。退屈です」
「だから思考を読むなって」
屋敷の方もアイが駆けつけてくれたお陰で事なきを得た。
この華奢な、ふざけたメイドのどこにそんな力があるのかはよく分からんが、とにかく助かった。
なんだかんだ、家族の事では感謝してる。
「そんなふうに面と向かって言われると、なんだか照れますね」
「口に出してすらねえよ! だから勝手に心を読むなって!」
全く……俺は兄上の様子を見てくるから、アイは配給の方、このままよろしく頼むぞ。
「お任せください」
おお…なんかこれ、意外と便利かも。
これが心が通じ合ってる、ってやつなのか。
俺とアイとの絆、みたいな。
「……」
「え? 何その目? 何でそんな目で見るの? なんか喋ってよ」
村の状況を確認しながらルークを探していると、兄は外壁の補修にあたっていた。
ちょうど、昨日一緒に戦ったところだ。
「おう、テンセイ! せいが出るな!」
俺が近づくと、気付いたルークが声を掛けた。
両手には丸太が一本ずつ担がれている。
「兄上、ずっとここで作業してたんですか? 夜通し戦いっぱなしだったんだから、働くにしても、もうちょっと身体を休めてください」
俺の言葉に、一緒に作業していた領民も頷いた。
「テンセイ様の言うとおりですよ、ルーク様。気持ちは嬉しいけど、これ以上ご迷惑かけるわけにはいかねえです。せめてちっとは仮眠を取るなり、お休みになっていただかねぇと」
「何を言うか! 自分の領地を魔物に踏み荒らされて、休んでなぞいられるか! 俺たち貴族が有事にお前らより汗をかかんでどうする!」
まあ、言って聞くような人ではないよな。
心掛けが立派なだけに無理に止めることもできないし。
「そう言えば、さっき村娘が兄上の事を探してましたよ。弟を助けてもらったから、是非直接お礼が言いたいって」
「何! それは本当か!? 悪い、ちょっと用事を思い出したから行ってくる。それまではテンセイ、お前が残って手伝え。ちなみにその子はどっちだ?」
俺が方向を指差すと、兄上はガシャガシャと鎧を鳴らして元気よく駆け出していった。
まあ、全部本当のことだ。
これでちょっとは休んでくれるといいが。
「テンセイ様もありがとうございます。俺はこの村に来るまでは、貴族ってのは偉そうにするばかりで、下々の事なんか全く眼中にねぇと思ってましたけど、ルーク様みたいなお人も居るもんですねえ」
走り去っていくルークの背中を見ながら、男が言った。
全くだ。俺も前世では貴族ってのは二言目には、追放やら勘当やら言いだす生き物だと思ってた。
てか異世界テンプレのくせに、我が家は割と真っ当だよね。そこはあの、神様に感謝だな。
「まあ、兄はお調子者ですからね」
こともなげに言った。
訳がわからず目を丸くする男を見て、俺は少しだけ笑った。




