守り切ったけど、なーんか引っかかる
「行くぞテンセイ!」
ルークが先陣を切って魔物の集団に突っ込んでいく。
俺は少し後ろから、ルークが取りこぼした魔物を1匹ずつ、確実に仕留める。
兄が化け物すぎて意識してなかったが、一応並の魔物相手ならそこそこ戦える事に気がついた。
足の震えは止まらないが、攻撃はよく見えている。
底辺貴族とはいえ、俺だって武功で爵位を勝ち取った家の次男坊だ。
「テンセイ様! 危ない!」
その時、後方からアイが叫んだ。
気がつくと俺は、三匹の狼型の魔物に取り囲まれていた。
(ヤバい、囲まれた!)
目の前の相手に手一杯で気付くのが遅れた。
ルークももう大分先におり、気付いていない。
後悔する暇すらなく、狼が一斉に俺に飛びかかった。
「くそっ!」
狼の牙が俺の腹を捌かんと迫る。
やられる——
その時。また頭の中にあの声が響いた。
『テンブレード:オートパイロット起動』
『自動攻撃を実行』
次の瞬間、牙が届く前にものすごい速さで剣が目の前を走ったかと思うと、目の前の狼が二つに裂けた。
目の前だけではない。
気がついた時には、両断された魔物の死体が三つ転がっていた。
「え?」
手に持った剣に、狼の血が滴っている。
どうやら目の前の死体は俺の剣によるものらしい。
「今回はテンセイ様がやる気だったので、自動攻撃機能が発動したみたいですね」
アイが眉ひとつ動かさずに解説する。
「何それ怖っ!」
「あれ? …って事はだよ」
「知ってたよな? 多分。……さっきの必死な、『危ない!』は何だったんだ?」
「雰囲気作りです」
「遊んでないでちょっとは手伝えよ!」
「……計算によると、ここはルーク様とケンセイ様がいれば十分です。私は、お屋敷の防衛についた方がよろしいかと具申します」
「うちはヤバいのか?」
「大型の魔物が接近中です。領主様も屋敷の防衛についておりますが、私が行かなければ、多少の被害は出るかと」
「じゃあ俺もいくよ」
「いえ、私1人で十分対処可能です。今後のためにも、テンセイ様は、ルーク様に良いところを見せる方を優先して下さい」
「それでは」
アイは俺に親指を立てて、屋敷の方に向かって行った。
緊急事態だからスルーしたけど、え?アイツそんなに強いの?
何にせよ、テンブレードの力は分かった。これで心置きなく突っ込めるってわけだ。
ルークの加勢に向けて、俺も走り出した。
「兄上!」
「来たか!」
ルークは、また一体斬り伏せる。
その背中は、変わらず大きい。
でも。
さっきまでとは違う。
英雄じゃない。
領主だ。
——守る者の背中だ。
「もう一踏ん張りだ、テンセイ。兄弟の絆の力、今こそ見せる時だ!」
「あっ、はい、そうですね……」
(いや、これ多分、俺のせいなんですけど)
俺と兄上は肩を並べて、夜通し戦い抜いた。
日が少しだけ登ってきた頃。
最後の一体を斬り伏せ、ルークが大きく息を吐く。
周囲には、倒れた魔物と、疲れ切った人々。
ルークの肩が、わずかに上下していた。
それでも、剣は一切ぶれていない。
「はぁ、はぁ…… 全員、無事か」
その一言で、空気が緩んだ。
「助かりました、ルーク様!」
「さすがです!」
歓声が上がる。
ルークは少しだけ苦笑したが、すぐにいつもの調子に戻った。
「当たり前だ! 俺達はテンブレット家の息子、ルークとテンセイだ! だが、お前らもよく戦ったぞ! これは俺たち、全員の勝利だー!」
ルーク! ルーク! テンセイ! ルーク!
みんなヘトヘトだったが、顔だけは朝日のように輝いていた。
(すげえ良い空気なんだけど、俺のせいだからめっちゃ気まずいなこれ)
居た堪れなくなって、ルークの方を見た。
だが、包まれるような歓声の中。
兄上のその視線は、どこか遠くを見ていた。
⸻
俺は、何も言わない。
言う必要もない。
もう——
分かってるはずだ。




