兄上、魔王討伐やめるってよ。
その日の夕食はいつもにより更に質素だった。
「暫くはこのくらいの量になる」
と、父上が言った。
理由は言わずもがな、先の魔物の襲撃のせいだ。
致命的な打撃、というほどではないが予定外の備蓄を放出したため暫くは倹約モード、という事らしい。
勿論、うちの家族で文句を言うものはいない。
「そしてルーク、テンセイ」
エリオットが続ける。
「……よくやったな」
短い言葉だった。
だが、俺たちは知っている。
父がこういう風に言う時は、言葉に尽くし難い、最大限の賛辞だということを。
早い話が口下手なのだ。
俺は兄上と目を合わせて、お互いにニヤリとした。
「それに、アイも良くやってくれた」
「屋敷を襲ったオークを3体も返り討ちにしてくれた。お前がいなかったら、家族やメイド達にも被害が及んでいたかもしれん。改めてきちんと礼をしたいが、先ずはこの場で伝えさせてくれ」
「ケンセイが真っ直ぐに育ってくれたのは、或いはお前のお陰かも知れんな」
「ありがとうございます」
アイがスカートの端を持って、綺麗なお辞儀をした。
こうしてみると、全てが整っている完璧なメイドだ。
だが、こいつのお陰で真っ直ぐ育った、は断固反対する。
…ってかこいつ、俺が思い出すまではどんな奴だったんだっけ?
アイがジロッとこちらを見たが、無視した。
「その件ですが、父上」
頃合いを見計らったように、ルークが切り出した。
意識がそちらに向く。
少しだけ、場の空気が緊張した。
「魔王討伐の件、考え直す余地をいただけませんか」
ピク、とエリオットの眉が動いた。
「どういう事だ?」
「今回の件で気付いたんです。自分が何を守りたいのか」
「いずれは両方やるつもりです。だけど、今はこの手でみんなを守りたい」
「なので、勝手を承知でお願いします」
「ふむ……」
エリオットが考え込むように腕を組んだ。
「お前の件はもう国王陛下にも進言してある。騎士団の方にも話は付けているはずだ。今更取りやめるとなると、分かるな」
少しだけ、沈黙。
ルークの瞳が少しだけ揺らいだが、目は逸さなかった。
「……なーんてな、冗談だ」
エリオットがくっくっと笑った。
父の笑った顔を見るのは久しぶりだった。
「よく言ったな、ルーク。流石は俺の息子だ」
「父上」
「別に、今すぐ結論を出さなくても良い。焦らずとも魔王は逃げぬ」
「守る事も強さだ」
「国王陛下には今回の襲撃の件と合わせて、私から上手く言っておこう」
エリオットはそういうと頷いてから、椅子に深く座り直した。
「その件ですが、父上。俺に名案があります」
元気を取り戻したルークが、いつもの調子で立ち上がった。
「こら、食事中ですよルーク」
母上が嗜めたが、ルークは続けた。
「すみません母上。ですが、これを言わせてください。魔王討伐は我が弟、テンセイが引き継ぎます!」
またまた、沈黙。
「は?」
エリオットがフォークを落とした。




