チャット天の声、悪質なサブスクだった
バタン、と扉を閉めて、そのままベッドに倒れ込んだ。
——はぁ〜、疲れた。
兄上との模擬戦が終わって、ひと段落ついた頃。
夕食までの間、俺は自室でアイと過ごしていた。
「……っていうかアイ。さっきのあれは何だ?」
「テンブレード第5の機能。全自動戦闘ですね。それが何か?」
「それが何か? じゃねーんだよ! 知ってたら先に言えよ! マジで死ぬかと思ったわ!」
「失礼しました。言わない方が盛り上がると思いまして」
「お前の中での話だろ……それ」
ベッドから起き上がって、窓を眺める。
畑を耕す領民たちの姿が見える。
さっきまでの喧騒がなかったかのように、みんないつも通り、平和そのものだ。
「一応、兄上が勝ちを譲ってくれたけど……最初からこうするつもりだったのかもな」
自分がいなくなった後も、みんなを安心させるために。
……まあ、あの兄の事だから、何も考えていない気もするが。
魔王討伐に行くなとは、ついぞ言えずじまいだった。
「……なぁアイ。魔王討伐っていっても、単身乗り込むわけじゃないんだろ?その辺りの話について、何か知ってるか?」
「少々お待ちを」
両手の指をこめかみにあてて考え込む。おお、検索してるのか。
ようやく、ちょっとアンドロイドっぽいぞ。
「チーン。出ました」
「え? 今のが検索音?」
「魔王討伐は、低〜中位の貴族の慣習として、昔から定期的に行われているもののようです。テンセイ様の元の世界に当てはめると、いわゆる兵役みたいなものですかね」
「じゃあ、兄上の他にも討伐に出てる貴族がいるって事?」
「はい。このガッバーナ王国だけでも数十人規模でいると思われます」
「……もしそいつらと兄上がパーティを組んで共闘したり、途中で成長した場合、勝率はどのくらいだ?」
「そういったイベントを経て適切にストーリーが進行した上で3%程度です」
「たぶん」
「たぶん付けるなよ!!」
「所々引っ掛かるけど……まぁ、要は込み込みで3%って事ね」
やっぱり行かせるわけにはいかない。
……でも、どうすりゃいいんだよ、これ?
「フッフッフ……きましたこの流れ。悩んでますね」
「……今度は何だ?」
「今こそ、テンブレード第9の機能、天の声システムを使う時です」
「は? 何それ?」
「使用者が判断に迷ったり、ピンチに陥った時、テンブレードに組み込まれた賢者が自動で正解を導いてくれます」
「賢者っていうな!あと間違っても大をつけるなよ!」
「ただし、検索には膨大な魔力を消費しますので、質問は一日一回までとなります。それ以上使う場合は有料プランに加入していただきます」
「え?金取るの?」
「一回の質問につき、1年の寿命をいただきます」
「え、何それ怖……」
「複雑な質問の場合は、2年いただきます」
「もう普通に悪質じゃないか?」
「とりあえず、お試しで使ってみては? 使う場合は私に手をあてて、『天の声システム起動』と話してみてください」
「そのクソダサい口上言わないとダメ?」
っていうか、アイに触るのか……
いやいや、何でここで躊躇するんだ、俺。
恐る恐る、アイの肩に手を置く。
「ひゃあ」
「変な声出すなよ!」
「すみません。テンセイ様の手があまりにも……」
アイの目が揺れた。
思わず唾を飲んだ。
「湿ってて気持ち悪かったので」
「待って。それ普通に傷つくからやめて」
……気を取り直して
「『天の声システム起動』!」
(天の声、お願いします。ここから兄が、魔王討伐を諦めるにはどうすればいいか教えてください)
「——いい質問です。ここ、物語の“格”が決まる分岐点です」
ん?なんか今、雑に褒められたぞ。
てか、アイ(おまえ)が喋るんかい。
「——ルークに討伐を諦めさせるには、「危険だからやめろ」ではなく、より重い責務を与えることが有効です。領地防衛や王命など彼にしか担えない役割を示し、「残る方が価値ある選択」と認識させます。答えは押し付けず、最終的に彼自身に選ばせることで自尊心を守れます」
おお……コイツ、頼りになりそうだぞ。
「はい、しゅーりょー。いつまで触ってるんですか」
「え? 終わり? 多分まだ触りしか聞けてないんだけど」
「これから先は有料になります」
「……やっぱ悪質だわ、これ」
その時。
——コンコン
「テンセイ様、ご夕食の用意が出来ました」
「はい、今行きます」
とりあえず、やるべき事は決まった。
「行くぞ、アイ」
俺は立ち上がって、自室のドアを踏み出した。




