最強の兄には、チートな魔剣で戦います
正門を開けて庭に出ると、既にルークは屈伸を終えていた。
手には訓練用の刃のない剣。防具の類は一切なし。
決して油断しているわけではない。
ただ、それくらいの実力差があるだけだ。
「お、来たか!」
「やっぱり明日にしませんか? ほら、僕、病み上がりですし」
「ダメだ! こういうのは思い立った時にやるから良いんだ!」
……やっぱダメか。こうなると何を言っても無駄だ。
「はあ……分かりました。じゃあ準備だけするんで、少し待っててください」
俺は防具の入った袋を地面に置き、辺りを見回した。
ギャラリーは母上とミア、それにさっきのメイドを含めた使用人たち。
さらに、領地の開墾作業をしていた領民や奴隷たちも、手を止めてこちらを見ている。
兄上が、そんな連中に向かって手を振った。
「おーい! ちょっと休憩してこっち来いよ! 今からうちのテンセイの勇姿が見られるぞ! ちゃんと目に焼き付けとけよー!」
「ちょっ、やめてください!」
兄ルークの大声に釣られて、みるみる人が集まってくる。
娯楽の少ない辺鄙な場所だ。兄上の戦いが見られるとなれば、そりゃあ興味津々にもなる。
……ギャラリーがいる時の兄上、割と容赦ないんだよな。何せ、お調子者だから。
『テンブレード:起動中』
防具を装着しながら、視界の端に表示された文字へ目をやる。
どうやら正常に動作しているらしい。
俺がここから無事に戻るには、こいつの働きに期待するしかない。
「テンセイ様、素敵ー!」
「頑張ってー!」
領民の数人から黄色い声が飛ぶ。
……まあ、おばちゃんだが。
……ん? 起動中って、まさかあの“ハーレム補正”じゃないよな?
「そろそろ準備はできたか? 構えろ! テンセイ!」
「……本当に手加減してくださいよ。じゃあ兄上、行きます!」
——先手必勝。出鼻を挫く。それしかない。
踏み込む。
——そして、すぐに後悔した。
「フンッ!!」
ブンッ、と空気が裂ける。
兄上が剣を振り下ろした——ように見えた、次の瞬間、足元の土が抉れ、遅れて突風が身体を打った。
思わず足が止まる。
「流石テンセイだ! 行くと見せかけて、来ない。引っ掛かったぞ、ヌハハ!」
(えっ?何?怖いんだけど)
あぁ…… 成程。どうやら俺が遅すぎてフェイントに見えたらしい。
兄上がいつ剣を振ったのかすら分からなかった。
あとほんの少しでも踏み込みが早かったら、今頃は刃のない剣で首をへし折られていただろう。
やはり兄上は俺を溺愛するあまり、目が曇っている。
「今度はこっちから行くぞ!」
ルークが踏み込む。
——気付いた時には、もう目の前にいた。
「フン!」
あ、終わった。
太刀筋が、まるで見えない。
もし死んだら、神様、またモフらせてくれないかな。
そう思った、その時だった。
『テンブレード:オートパイロット起動』
『自動防御を実行』
身体が、勝手に動いた。
ギィン、と鈍い音。
気付いた時には、俺の剣が兄上の一撃を弾いていた。
「……は?」
何だ、今の?
兄上も、目を丸くしている。
だが次の瞬間、目つきが変わった。
肩の筋肉が、ぐっと膨らむ。
ブンッ!
横薙ぎの一撃。
——それも、気付けば上に逸らしていた。
さらにそのまま、自然と一歩踏み込む。
気付けば、兄上の懐の内。
このまま振り抜けば、俺の勝ちだ。
(かわいそうだが死んでもらうぜ。くらえ! 必殺の剣!!)
「うおおっ!」
振り下ろす。
ブン
虚しく空気を切る音だけが残る。
「いやぁ、ビックリしたぁー! 流石、俺の弟だ! 凄いぞテンセイ!」
大きく飛び退いた兄上が、満面の笑みで手放しに褒めてくる。
「だが、最後の攻撃はダメだ! 幾らお兄ちゃんが好きでも、あんなあからさまな手加減は相手に失礼だぞ」
……え?
今の、全力なんですけど。
真っ二つにする気持ちで振ったんですけど。
「皆見たか! これが俺の弟、テンセイだー! これからもみんなの事はこのテンブレット家に任せておけ!」
兄上が片手を掲げると、ギャラリーから歓声と拍手が沸き起こった。
マジでやめて欲しい。
「じゃあ、今日のところは俺の負けだ。弟に手心を加えられて、これ以上続けるのは兄のメンツに関わる。みんなもそれで良いよなー!」
ワーッ、とさらに歓声が上がる。
……いや、違う。違うんだ。
あれ?
魔王討伐とか行かなくても、もう兄上モテてるんじゃね?




