兄上、勝率3%ですけど大丈夫ですか?
ドアが開いた。
「テンセーイ!!無事か!?」
声がデカい。屋敷が揺れた気がした。
入ってきたのは記憶通りの男。
長身で鍛えられた体。いかにも騎士。
そして、無駄に明るい笑顔。
「兄上」
「おう! 大丈夫か!? 急に倒れたって聞いてな!」
肩にがっしりとした手が置かれた。
兄上はこういう人だ。
心配するときは、本気で心配してくれる。
ただし、力加減はしない。
「心配したぞぉー!」
「ちょ、兄上!? 強い強い強い! 首取れる!」
「ルーク! テンセイの顔が白くなってるわよ!」母が青ざめた。
「あっ、悪い!」
…ハッ!? 今一瞬ケモ耳ロリが見えたぞ。
尊敬すべき我が兄……ルークは、相変わらずの馬鹿力だ。
「だ、大丈夫です。少し疲れていただけですので」
「無理すんなよ!お前は俺が守るからな!」
出た。この人、こういうの素で言う。
たった今、俺を◯しかけたのはさておき、いい人なんだよな。お調子者だけど。
「兄上」
「ん?」
「来週からの魔王討伐、本気なんですか?」
胸に支えてた事を聞く。蘇ってきた記憶が確かなら、もうあまり時間がない。
「当たり前だろ」平然と言ってのける。
「……理由を聞いても?」
ルークはニヤッと笑った。
「簡単だ」
「魔王倒したらモテるらしい」
「理由それですか!?」
思わず声が出た。
「団長が言ってたんだよ。“魔王討伐成功したらモテモテだぞ”ってな!」
誰だよそんな適当なこと吹き込んだやつ!
「フフン、よく考えろよ」
兄は指を折る。
「強い、名誉ある、金も入る、で、モテる」
「完璧だろ?」
…だからって、そんな危険な事はやめてください!
「思考単純すぎでしょ!?」
「テンセイ様、逆になってます」
「大丈夫大丈夫。俺、地元じゃ負け知らずだし。そうだろ?」
「そのフレーズで説得力出ると本気で思ってます?」
「……それにな」
兄の表情が、少しだけ変わる。
「このままじゃ、この家は先細りだ。父上は忙しい。俺は外に出る」
「だから」真っ直ぐ、俺を見る。「俺がいなくなった後、この家を守れるのは——」
「お前だけだ、テンセイ」
……重い。
普段が軽い分、余計に重い。
「……兄上」
前世の記憶が蘇る前の、兄上と過ごした日々。
お調子者で不器用だが、決してそれだけの人ではない。
「だからよ」
兄はいつもの調子に戻った。
「その前に鍛えとこうぜ!」
「……はい?」
「模擬戦だ!」
「いやいやいや、無理無理無理!」
いや、流石に急すぎるだろ!
「俺、一度も勝った事ないですよ!?」
「大丈夫だって!軽くでいいからさ!」
記憶を辿る。
確かに何度か打ち合った事はある。
そしてその度、骨折をはじめ、大怪我を負わされた事も思い出した。
「そう言っていつも死にかけてるんですけど!?」
「大丈夫大丈夫、怪我しても母上が魔法で直してくれるさ」
一縷の望みを持って、マリア……母の方を見ると、母上はにこにこと微笑んだまま、小さく頷いた。
……どうやら、止める気はないらしい。
兄上の気質は間違いなくこの母譲りだ。
「……少し考えさせてください」
「おう!庭で待ってる!」
兄はそう言って、ドアをバンと閉めて出ていった。
「お兄ちゃん、がんばれー!」
俺にエールを送った後、ミアと母も一緒にドアを閉めた。
足音が遠ざかる。
「……アイ」
「はい」
「兄上が無事に魔王討伐出来る確率、どのくらいか分かるか?」
アイは即答した。
「3%です」
「低っ!いや……高い、のか?」
「この世界の人間にしては破格です」
「フォローになってねえ」
3%。
兄上の強さは知っている。地元で負け知らず、どころか、王国でも剣の腕は五本の指に入る強さだと聞いている。
だが、相手は魔王だ。
普通に無理だろ。
「……で、俺は?」
「現時点で67%です」
俺は立ち上がった。服を着替える。
「模擬戦を受ける」
「推奨しません」
「だろうな」
でも。
「……勝てば、止められる」
「それに、俺にはチート武器がある」
右手を掲げて、唱える。魔力が集まる気がした。
「来い!……魔剣、テンブレード!」
……来ない。
あれ?おかしいな?
「傑作ですね」
アイが口の端を歪めた。
顔が耳の端まで熱くなるのが分かった。
「いやいやいや、主人の呼びかけに応じるのが魔剣なんじゃないの?てか何で君笑ってるの?サポートAIだよね?サポートしろよちゃんと」
「テンブレードは自動アシスト機能搭載なので、必要な時しか出てきません」
「それもう主導権そっちだよね?アシストじゃないよね?」
……え? 何? チート武器なしであのフィジカルお化けと戦うの? 俺?
「……俺が兄上に勝てる確率は?」
少しだけ間。
「エラーを検出、算出不能」
「は?」
「聞かない方がよろしいかと」
「……最悪だな」
でもまあ。
「……やるしかねえか」
こうして俺の転生後——初戦闘が決まった。
相手は、地元じゃ負け知らずの兄。
勝率は不明。
頼れるのは、俺の意思を無視するチート剣。
「……まあ、流石に死にはしないだろ」
そう呟きながら俺は庭へと向かった。




