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お家再興で、ワンチャン魔王討伐するらしい

 目を開けたら、天井があった。


 木製。ちょっと古い。ひび入ってる。

 うん、豪華ではないな。分かりやすく“そこそこ”だ。


「……え、ちょっと待て」


「俺、生きてる?」


「定義上は生存です。おめでとうございます」


「うおっ!?」


 横を見ると、メイド服の少女。


 無表情。整った顔。なんか無機質。

 昨日の――いや、さっきの声の主か。


「ナビゲーターAI、アイです。起動に成功しました。たぶん」


「“たぶん”って言うなよ。不安になるだろ」


「改善を検討します」


「絶対変わらないやつだろそれ」


 身体を起こす。


 軽い。めちゃくちゃ軽い。

 三徹明けの身体とは別物だ。これなら百メートルダッシュできそうだぞ。


「……え、なにこれ。めっちゃ調子いいんだけど」


「坊ちゃまは今16歳です。ただ、つい先程お倒れになったのであまり調子に乗らないでください」


「16歳?最高か?後、坊ちゃまはやめろ」


 手を見る。細い。若い。肌つるつる。

 あのくたびれた28歳の手はどこいった。


「……転生、ガチで成功してるな」


「成功です」


 鏡を見る。

 艶のある黒髪。目鼻立ちのくっきりした整った顔立ち。スラリとした手足。


「いやこれ、普通に当たり引いてない?」


「現時点では当たりです」


「“現時点では”やめろ」


 部屋を見渡す。


 広い。けど質素。家具も古い。

 ……ああ、これ思い出した。


「……うちか」


「はい。辺境貴族です。そこまで裕福ではありません」


「ハッキリ言うなよ。お前も一応うちのメイドだろ」


 そうだ。アイは俺が物心ついた時から我が家に仕えているメイドだ。それにしては、一切外見の変化がない。


 まあ、細かいことはいい。


 俺はテンブレット家の次男、テンセイ・テンブレットだ。



 ……は?



 ちょっと待て。


「えーと、アイさん?」


「何ですか?」


「……何となく思い出してきたんだけど、まだ記憶があやふやみたいだ。悪いが、自分の名前を確認したいんだが」


「テンセイ・テンブレット様です」


「やっぱりその名前か……雑すぎだろ、この世界の名付」


「現在、テンブレット家は魔王討伐による一発逆転を狙っています」


「いきなり語り出すな……って、何その設定怖っ!」


 ……いやいやいや、急に人生ハードモードじゃん。


「候補は長男、次男あなた、長女です」


「妹は却下な」


 即答した。てか子供が行くんかい!


「通常は長男です」


 何だ、俺じゃないのか。


 兄貴の記憶はある。ちゃんとある。

 あの人は、強くて、優しくて——


「……お調子者だろ」


「はい。非常に」


「だよなあ」


 あのテンションで魔王行くの、逆にすごいな。


「で、俺は?」


「現状は戦力外です」


「ですよねー」


 納得しかない。


「ただし」


「来たな“ただし”」


「テンブレードにより覆ります」


 来た。ケモ耳少女から雑に渡された剣だ。


「……あー、はいはい。チートね」


「チートです」


 視界にウィンドウが出る。


『テンブレード:起動中』


『各種能力を自動発動』


『使用者の意思は参考程度』


「最後おかしいだろ!俺の意思無視かよ!」


「仕様です」


「ロクでもない予感しかしないんだけど」


「強いです」


「……と、言われてもなぁ」


 前世では喧嘩すらしたことないんだが。どんだけチート剣とか貰っても、そもそも戦いたくないんだが。


「テンセイ様が魔王討伐に出た際の成功率は、何と、脅威の67%です」


「残りは?」


「死亡です」


「3回に1回死ぬ方がよっぽど脅威なんだが? どういう意味で言ってるのお前それ」


 そもそも、何でお家再興が魔王討伐なんだよ。

 もっと、なんかこう、あるだろ。


「テンセイ様、思考が雑です」


「思考を読むな思考を」


 その時。


 コンコン


 遠慮がちなノックの音。


「坊ちゃん、起きていらっしゃいますか?」


 メイドの声。


「イベントです」


「その言い方やめろ」


 返事をすると、ガチャリ、とメイドが入ってくる。

 こちらに近づいてくる。


 ……近い。


 いや、近い近い!


 距離が近い。殆ど耳元だ。


「お体大丈夫ですか? 心配しました」


「ひゃい! あー……はい、大丈夫です」


 自然に敬語が出る。

 これ、今世のクセだな。


「急にお倒れになられたので、大変心配いたしました」


 息が耳にかかる。いや、どういう距離感だよこれ!

 また倒れそうなんだが。


「だ、大丈夫です。アイ…も付いてますので」


「そう、ですか……。何かあったら、いつでもお呼びくださいね」


 メイドは名残惜しそうに横目で見ながら、頭を下げて出て行った。

 てか、めっちゃ優しかった。


「はあ……どっと疲れた。なんか距離おかしくなかったか?」


「正常です」


「正常?」


「テンブレードによる第三の機能、ハーレム好感度補正が正常に機能しているようです」


「勝手に何してんだよ! あの剣!」


「なお」


「……まだあるの?」


「母、妹にも適用されます」


「絶対やめて!」



 ——ドタドタドタ


 何か近づいてくる。今度は何だ?


「お兄ちゃーん!!」


 そう思った矢先、ドアが開いて妹が突っ込んできた。


「グエッ! いや、近い近い近い!」


「心配したんだから!」


 この世界での我が愛しの妹——ミアが、潤んだ瞳で俺を見上げる。


「分かった分かった」


 頭を撫でる。


 ……あれ、ちょっと可愛いな。

 いつもこんなんだったっけ?


「お兄ちゃん好き!」


「はぁい」


 いやまあ、これは全然悪くはないけど。

 なんかバグってる感はある。


「テンセイ、起きたのね」


 母が入ってくる。

 自然に肩に手を置く。


「無理しなくていいのよ」


「はい、母上」


 ……こっちも近いな。


 いや、元々優しかったけど。

 明らかに一段上がってる。


「アイ」


「はい」


「これもバグってるよな?」


「仕様です」


「最悪だな」


 でもまあ。


 正直。


「……悪くないかも」


「はい、本音が出ました」


「うるせえ!」


 家は貧乏。

 魔王討伐で逆転狙い。

 兄はお調子者。妹はデレデレ。

 俺はチート持ち。


 状況としては、だいぶカオスだ。


 だが――


「でもまあ、退屈はしなそうだ」


 口に出た。


「高確率で面倒になります」


「お前が言うな」


 そのとき。


「テンセーイ!!!」


 廊下の向こうで、重い足音が近づいてくる。


「今度はなんだ?」


「新規イベントです」


「だからその言い方やめろって」


 ドアが開く。


 そこに立っていたのは――


 いかにも強そうな男だった。

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