14.サンドラ
リア:主人公。兄を探すと決め、RPGにログインすることを決めた。
実は自身がデータだった。
カトルシア:カトル。
ログインしたリアを最初に見つけ、街に連れ帰る。
樹上の街ラシュラン出身。
リアを好きになり、守ると決め、共に旅立った。
ルーシア:オレンジの髪、ルビーのような紅い瞳。
とあるカプセルを探して旅をしている。
男しか産まれない、風の街サンドラ出身。
リアに恋をしてしまうが、カトルとリアの関係を祝福している。
ダグラス:過去にカトルの父エルシア、母ユリと旅していた。
娘を襲われたことが原因でカプセルを嫌うようになったが、誤解だったのがわかって吹っ切れた。
クシィの父。
クシィ:宿屋の看板娘。
鈴の音のような声の美しい女性。
ダグラスの娘。
運命に抗うカプセルと共にいると思われる、彼に会いたいと思っている。
ユーマ:リアの兄。運命に抗うカプセルの仲間として動いている。
魔物の長を探し、カプセルを助けながら旅をしていた。
カトルが魔物の長なのか確信が持てず、共に行動することを決める。
エルシア:カトルの父。
ユリ:カトルの母。
RPGに残ると決めたカプセル。
ワイバーンはとても優雅に飛び上がる……わけではなかった。
調度翼と翼の間に収まるような感じで何本も生えた角を椅子兼背もたれにして乗り、取り付けられた専用の紐に捕まるんだけど、それだけ。
その不安定さと言ったら堪らない。
ワイバーンがばさりと羽ばたいて浮き上がった瞬間、胃が浮いたような感覚がしてあたしは小さく悲鳴を上げた。
こ、この感覚、あたし知ってる…。
これは、ジェットコースターの、あの感覚だ!
ばさばさと羽ばたく度に身体が上下する。
浮いたり落ちたりする感覚に、両手に汗が滲んでうまく掴まれない。
いつの間にか景色は遠く、かなり高く上がっているんだとわかった。
そして、ぐいんと重力がかかり、ワイバーンが滑空を始めた時、あたしは悲鳴を上げていた!
「きゃあああーっ!」
た、た、高い!
落ちる!落ちるぅー!!
「うお、大丈夫ですかお嬢さん!?しまった、苦手だったか…」
「ラルバンカイヌ、出来るだけゆっくり高度を下げて!リアちゃん…ご、ごめん!」
「!」
あたしは半泣きのまま息を呑んだ。
ルーシアが後ろの角からあたしの所にするりとやってきて、手綱にしがみつくあたしの背にまわるとしっかり手綱を握り、あたしを支えたのだ。
「…これで少し、安定するからね…」
う、うわ…!
すっぽり包まれて、耳元で聞こえたルーシアの声に、どきりとする。
緊張して固まるあたしに、ルーシアも強張ったまま言った。
「か、カトルに怒られちゃうねー。は、はは」
翼を広げたワイバーンは、高度を下げる速度を緩めてくれていた。
しっかり抱き抱えられて安定したのも手伝って急降下する感覚は無くなり、風が強く頬を撫でるのを感じる余裕が出来る。
「…あ、ありがと…」
お礼を言うと、少しだけルーシアが身じろいだ。
「……うん」
街まではほんの数分だったけど、落ち着いたあたしは街を見下ろすことが出来た。
何のためかはわからないけど、建物と建物の間や樹木に紐が渡されて、そこではいくつもの小さくてカラフルな風車が回っている。
それは至る所に作られていて、まるで街中に花が咲いているように見えた。
人々はワイバーンが上空を抜けるのを見上げて手を振っている。
「風車がたくさんあるのね」
クシィさんが言うと、ラルバンカイヌさんは笑いながら陽気に応える。
「ワイバーンの通り道の目印なのさ!高低の目安にもなってる。そんでもってワイバーンは女性を乗せてくるもんだから、注目の的だ!」
「成る程…。あら、あれは?」
あたし達が出てきた洞窟とは反対の方角に目を向けるクシィさん。
その先には風車の下が巨大な門になった建物があって、そこから左右に壁が延び
ていた。
街は斜面に沿って上下に広く、壁は上手く斜面の切り立った岩場に繋がっている。
岩場を生かした防護壁になっているんだ。
「あの門はサンドラの玄関だよー。近道をしないで街道を行ってれば、あっちに繋がるってわけだね」
ルーシアが説明しながら、正面を指差した。
「見て、あの1番大きな風車が族長の屋敷だよ!」
遠くからでも目立つ、1番大きな風車。
ごうんごうん、と大きな音をたてながら、風車はゆったりと回っていた。
ワイバーンはその風車の羽の隙間からするりと中に入り込んだ。
ラルバンカイヌさんはワイバーンが降り立つとすぐにあたしとクシィさんに手を貸して降ろしてくれる。
クシィさんと二人、風に掻き乱された髪を手櫛で直し、すごかったねと笑う。
ルーシアが軽い足取りでひらりと降りるのを確認してから、あたしはぐるりと見渡した。
内部は岩壁で、ワイバーンでも悠々と動ける円筒型の広い部屋になっていた。
壁には等間隔で煌々とランプが灯り、ひんやりした空気に満ちている。
藁のような干し草が敷き詰められた場所に、のそり、と横になるワイバーンの鼻先を、ラルバンカイヌさんがゴシゴシと撫でて豪快に笑っていた。
「いいこだったな!あと一回だけ飛ぶから少し待ってろ!今日の飯は楽しみにしとけ!」
ワイバーンはトサカを逆立て、ベロンベロンとラルバンカイヌさんを舐めた。
喜んでる……のかな。
あぁ、あぁ…ヨダレまみれになってるよ!
クシィさんを見ると、彼女も顔をしかめていた。
「じゃあ行こう二人とも。族長はこの下の階層にいるよー」
「こっちですお嬢さん。さ、どうぞ」
ラルバンカイヌさんはベチョベチョのまま先導し始めた。
クシィさんと一緒に着いて行こうとすると、ルーシアがあたしの裾を軽く引っ張る。
「ん…?」
「あの、リアちゃん」
「どうしたの?」
「…ごめん、カトルにはいきさつも説明しておくからねー。心配しないでね?」
「あっ」
あたしはさっきの状況を思い出して、赤面しながら笑った。
「…うん、ありがとうルーシア!カトルなら、怒りながら許してくれるよねっ」
ルーシアは赤いルビーのような目を大きく見開いてから、そっと笑った。
「そうだね」
螺旋階段を下り、両開きのくすんだ朱色の扉の前に着いた。
扉は鳥のような紋様が画かれた金細工の行き渡ったもので、ラルバンカイヌさんがゆっくり手をかけて、ギ、ギ…と開けていく。
ルーシアが緊張した面持ちでそれを見ていて、あたしは自然と姿勢を正していた。
「ばァかもんがァー!!」
「ひぁっ!」
びりびりくる大きな声に縮こまるあたし達の先に、そのがっしりしたお爺さんはいた…。
ムキムキ…本当にムキムキなのだ。
鍛えられた肉体美…というか。
「…ヌォッ!?ルーシア、お前一人ではなかったのかァ!おぉ、おぉ…美しい娘さんじゃあないか!すまなかったな、ジジィの大声に驚いただろう!」
お爺さんは部屋の中央の丸い座布団?にどっかりあぐらをかき、手招きをした。
…部屋はやはり円筒型。
等間隔で窓があり、景色をぐるりと見回すことが出来る。
壁には扉同様の鳥が何体か画かれ、天井と床が壁と接する場所は金の細工が施されている…のだが、後はお爺さんの座る座布団だけ、という何とも殺風景な部屋だった。
お爺さんはといえば、白髪混じりのオレンジの髪を後ろで束ね、しわしわの広くなったエム字おでこを左手で摩りながらこちらを伺っている。
「ただ今帰郷いたしました…。族長は相変わらずお元気そうですねー」
さらっと流すように紡がれるルーシアの言葉に、ムキムキお爺さんはクワァッと目を見開いた!
「なんじゃァお前!相変わらずほっそいじゃァないか!全く最近の若い奴らときたら!」
「す、すみません…」
でもそれはムキムキすぎるよ、と、ルーシアが呟いたのが聞こえた。
「ルーシアよ、お前はわかっとらん!そもそも、そんな細い身体で女性を守れるかァ!」
うぅ。
鼓膜がビリビリする。
耳を塞ぎたいのを堪えていると、クシィさんが絶妙のタイミングで話題を変えた。
「あの、初めまして。私、クシィと申します。こちらのワイバーンに乗せて頂きました。友人のためにワイバーンをお貸し下さるんですよね?」
にっこり。
お爺さんは「ムォッ」と言った後、腕組みして数秒考え込むとポンと膝を打った。
「お嬢さんや、このおいぼれ、軍の横暴を見過ごすつもりはないんじゃが…、まずはその友人に会いたいと思うておる。もし信ずるに値しなければ…」
「祖父ちゃん!カトルなら大丈夫だよ!俺だって一緒にいるんだから!」
じ、祖父ちゃん…?
ルーシアはお爺さんにジロリと睨まれ、はっとしてこっちを見た。
「あ、あー…」
困っているルーシアを見て、深いため息と共にお爺さんは立ち上がった。
「ルーシアはワシの孫でのォ…。立場上、簡単に許可できないのもあるにはあるのじゃ。…しかし全く…なァにが祖父ちゃんじゃ、たわけものめ!」
「うわっ、ごめんって!でも族長って呼ぼうにもさ、やっぱり祖父ちゃんは祖父ちゃんだしねー」
「かァー!反対を押し切って旅になんぞ出おってからに!この放蕩息子…いや、孫がァ!」
「わわ!もう、祖父ちゃん!今はそんなことしてる場合じゃないんだよー!うわわ、リアちゃーん助けて~!」
「待たんかァ!」
逃げるルーシアを追い掛けて、お爺さんは部屋を駆け回る。
「元気ね…」
「そうですねぇ」
あたしとクシィさんはしばらくそれを眺めていたけれど、扉が開く音に振り返った。
「リア!」
飛び込んできたその人に、私はぱっと立ち上がる。
「カトルっ!」
どうやらラルバンカイヌさんはいつの間にかカトル達を迎えに行っていたらしい。
そういえば、いなかったなと思い出す。
「大丈夫?誰かに言い寄られたりしてないか?」
そばまで小走りでやってきたカトルは、あたしの髪を撫でながら心配そうな顔をする。
「ふふ、カトルってば心配しすぎだよ?誰にも…」
答えながらルーシアを思い出したあたしは、カトルを見ながら言葉を飲んだ。
「…リア?や、やっぱり誰かに!?」
「あ、ううん、そうじゃなくて」
「理亜、カトルシア。悪いんだけど後にしてもらえるか?話を始めよう」
「兄さん…」
後から入ってきた兄は告げると、どたばたしているルーシア達を見て瞬きをした。
「あ…はい、すみません…」
カトルはしゅんと肩を落とし、俯いてしまう。
兄はどう思ったのか、微笑むとあたしの肩をぽんと叩いてから前に出た。
「……お久しぶりです、族長」
「ムォッ!?」
ルーシアを追い掛け回していたお爺さん改め族長は、驚いてこちらを見遣り、眉を寄せた。
「お前…ユーマか!成る程……これは随分面倒な話になってるようじゃのォ」
「あれっ、祖父ちゃ…族長、知り合いなのー?」
「…追って話をしてやるから待っておれ!ラルバンカイヌ、人数分の座布団と飯を用意するよう申し付けてくれ!」
「はっ、承知致しました」
……
…
「いきさつを聞こうか。時間も惜しかろォ、他の者は食事をしながら聞くとよい」
「ありがとうございます」
兄はそう言って、あたし達に頷く。
目の前に並べられた食事は低い台に乗せられていて、見たことのない野菜のソテーやウインナー、擦りおろしたチーズだった。
それに袋状になったパンが添えてあるんだけど…どうやって食べるんだろう。
ちらりとルーシアを見ると、彼は擦りおろされたチーズをソテーにかけて混ぜ、パンに入れて食べ始めた。
あ、そうやって食べるんだ…!
皆も合点がいったのか、ルーシアを真似て食べ始める。
それを見てから、兄は族長に向き直った。
「ルーシアから手紙が行っていますね?…軍は騎兵を樹上の街ラシュランに派遣しました。…先程、仲間から手紙が着たのですが、どうやら軍は徹底してカプセルの制圧に乗り出すようです。カプセルに協力する街、人を武力で押さえ、狩りを正当化するつもりですね」
「ほォ…随分な策に討って出たもんじゃな。まだ街で暮らすカプセルもおるじゃろォ?」
「…はい…。迫害を受けず街に受け入れられているカプセル達も、疎外され孤立する可能性があります」
族長は難しい顔をして腕組みをして、呟いた。
「参ったのォ…。敵にすればサンドラの立場も危うく成り兼ねんな」
「じ、祖父ちゃん!」
「黙っとれ、たわけもの!」
「う…」
ルーシアを一喝し、族長はにやりと笑った。
「しかし…これはある意味チャンスじゃな」
「はい」
「軍の暗部をさらけ出し、糾弾するいい機会。民間人が巻き添えになれば尚更批判も増えるしのォ。その為にはラシュランの民を助け、各地で噂を広めてもらわねばなるまい」
「…そして、もう一つ」
「魔物の長じゃな?」
ぴくりと反応して、カトルはパンを降ろした。
「はい。…カトルシア」
「は、はい」
「彼が長かどうか、まだ確信に至りません。ただ、カトルシアの性格は…少なくとも信ずるに値するものだと考えています」
「!」
カトルは驚いた顔をした後、あたしを見てはにかんだ。
照れながら小さい声で「ありがとうございます」と言うカトルに、あたしも何だか嬉しくなった。
「それから、カトルシアと共に旅をしていたのは俺の妹で…。ルーシアも共に在ったのは偶然にしては出来過ぎです。…何か運命のように思います」
「…妹?」
左の眉だけ器用に持ち上げ、族長はあたしを見る。
「妹…ということは、お嬢さん、カプセルなのかのォ?」
「あ、はい…」
少し考えて、あたしは胸元のカプセルの印を見せた。
「ほォ…。しかし運命に抗うカプセルが運命を語るか。運命の悪戯とはこのことかもしれんな。ユーマ、他の首尾はどうなっておるのじゃ」
「魔物の長の覚醒に至った場合の為、運命に抗うカプセル達から精鋭が派遣されます。もちろん俺も共に。それから、各国の賢人に事情を伝え、指示を待ってもらっています」
あたしはぽかんとそれを聞いていた。
なんだかまるで、兄は軍を倒すために、各地に伏兵を潜ませていたみたいだ。
そしてどうやら、族長もその一人のように見える。
「…あの、兄さん」
声をかけると、兄は振り返って言った。
「ん、何だ?」
「兄さんは、軍を倒すために各地に伏兵を…?」
「伏兵…あ、いや。…何て言うのかなぁ、カプセルは確かにひどい事件を起こしたりしたけど、全員じゃないだろ。それを知ってもらうため、しいては差別を無くすための活動の一環で、各地で協力者を探して定期的に連絡を取っていたんだ。だから軍を倒すためではないんだけど…カプセルを迫害している核は軍だからな…。大きく見たら、倒すためにもなるのかもしれない」
「そのうちの一人が、ワシじゃったというわけじゃ」
族長さんは力こぶを作り、にやりと笑った。
「…あれ、俺、気が付いちゃったよ…。祖父ちゃん、ユーマと祖父ちゃんが知り合いってことは、だよ?カナのことも…」
ルーシアがまさか、という顔をする。
カナ…って、たしかルーシアの探していた、カプセルの名前だ。
「…その話は無しじゃ」
「なっ、やっぱり知ってたんだ!?何でだよ!一言もそんなこと言わなかったじゃないか!」
ルーシアは珍しく声を荒げてまくし立てた。
「カナが居なくなった後、兄さんがどんなだったか知ってるはずだろ!?なのに黙ってるなんて!」
「…」
「大体、俺がカナを探しに行くって言った時に止めただろ?あの時に話してくれれば!そうすればっ…兄さんだってっ」
「ルーシアさん…」
「ユーマは黙ってて!祖父ちゃん、答えてよ?」
「…」
「祖父ちゃんっ」
今にもルーシアが族長さんに掴みかかろうとした時、後ろから声がした。
「そこまでだ」
あたしははっとして振り返る。
…え、あれ!?
なんと…そこにいたのは、ルーシアそっくりの男の人だった。
ルーシアよりは体格がよくて髪は束ねてあり…服装はベージュのだぼついたズボンにシンプルなシャツという出で立ち。
ルーシアに比べたら飾り気は無いけど、その分男らしい強さがあった。
でもどう見ても、その顔はルーシア…ってことは、やっぱり彼がルーシアの…?
「族長に手を上げる気か?」
「にっ…兄さん…」
素っ気ない態度のそっくりさんに、ルーシアが困惑する。
や、やっぱりお兄さんなんだ…。
「これは失礼した、客人よ。…族長、準備が整いました。…では私はこれで」
「ちょ、それだけ!?弟が久しぶりに帰ったんだから、何か無いの!?」
ルーシアが言うと、ルーシアそっくりなお兄さんはじろりと彼を睨み、すぐ背を向ける。
「全く成長してないな、お前は」
そう言いながら何故かお兄さんはあたしをまじまじ見る。
「……そこの娘、少し付き合ってくれ」
…って、ええ!?
「あ、あたしですか…?」
「ええ!?兄さんっ、り、リアちゃんに何の用!?」
「黙れ。さぁ、こっちだ」
こ、恐っ…!
兄を見ると、うんと頷かれる。
あたしは恐る恐る立ち上がった。
隣にいたカトルを見ると、なんとも言い難い渋い顔だ。
あたしはとにかく着いて行くことにした。
さっきのワイバーンの部屋を抜け、さらに上に行くと屋上に出た。
気持ちのいい風が吹き、あたしの髪を撫でていく。
見晴らしよくサンドラを一望出来るその場所は、何故かルーシアそっくりなお兄さんを寂しそうに見せた。
「私の名はルータナ。ルーシアの双子の兄だ」
「あっ、リアです」
「リア…か。聞こう、ルーシアはお前を好きか」
「ええ!?」
「…やはりか。…あぁ、俺は手を出すつもりは無い。婚約している身だ、そう身構えるな」
「は、はぁ」
「あいつは、愛することが出来ているか」
「…え?」
「昔から女性はルーシアを持て囃したが、それが良くなかった。あいつは本当の恋を知らずに来てしまったからな。…だから、私の大切な人がいなくなった時、私の落ち込み様にあいつは驚いた」
あ…カナさんのことだ…。
あたしは自然と自分を抱くようにしていた。
さっき取り乱したルーシアを思い出して、悲痛な気持ちになる。
「そして、探しに行くと言い出してな。…本当に、我が弟ながらあいつは手に負えない…。私はいつか族長を継ぐ身だ。だからあいつが代わりに、と思ったのだろう」
「…ルーシアは…ルーシアは、あの…あたしが言うのはおかしいけど…恋してます、切ない程。あたしは応えられないけど…でも、優しくて、暖かくて」
「そうか」
少しだけほっと息をついて、ルータナさんは目を閉じた。
それを見て、あたしは何故か彼にルーシアを重ねてしまった。
「ごめんなさい」
ぽろんと零れたのはその言葉で、ルータナさんは目を開けて微笑んだ。
「いいんだ、リアが気にすることじゃない」
言い方は違っても、伝わる雰囲気や意味は変わらない。
あたしはそこに、ルーシアを見た気がした。
「実らなかった恋は枯れて肥やしになる。そして次の花を愛でる。それはあいつを育てるだろう」
そう言いながら遠くを見つめるルータナさんは、たぶん、まだどこかにカナさんとの思いを残している。
あたしはそれを感じて苦しくなった。
婚約者がどんな人なのかわからない。
ルータナさんの決断が、その人を喜ばせ、同時に哀しませているかもしれない。
ルータナさんは、幸せなのだろうか?
「…付き合わせて悪かったな。さぁ、ワイバーンの準備は出来ている。すぐ出発するだろう」
「え?族長さんはまだ決断なさってなかったんじゃ…」
「元より族長はワイバーンを出すつもりだったから心配するな。カプセルを狩る行為を俺も族長も許さない。…ルーシアを頼むぞ」
「はい、ありがとうございます!」
ルータナさんは一緒に戻らず途中でどこかへ行ってしまい、あたしは一人大きな扉を開く。
みんなはすでに準備を済ませていた。
「戻ったな、行くぞリア」
兄に頷いて見せると、族長さんが先導し始めた。
螺旋階段を下り、外に出て石造りの道で繋がれた風車の間を縫うようにして歩く。
ゾロゾロと着いて行くあたし達を、すれ違う人や窓から覗く人達が興味津々に見ている。
当たり前だけど、それはみんな男の人達だった。
カトルは何だか心配そうにあたしを見て、無言で手をとる。
それが嬉しくもあって、恥ずかしくもあって…あたしは俯きながらはにかんだ。
「あのぅ、リアちゃん」
そんな時声をかけられて振り返ると、ルーシアが不安そうにしていた。
「どうしたの?」
「兄さん、リアちゃんに何かしなかった!?っていうか、あの、変な話とかしなかったかなー」
「…ルーシアに似たお兄さんだったよ」
敬愛の意を込めたつもりだったけど、ルーシアは目を見開いてぽかんとした後、頭をぐしゃぐしゃしてぶんぶんと首を振った。
「えーっ!だ、抱き着いたりとか、手を握ったりとかだよねー!?」
「え!?そ、そんなことされたのか!?」
カトルが食いついて、話はどんどん大きくなる。
「リア、ぎゅーってされた!?ま、まさかキスとかされてないよな!?」
「に、兄さんは女の子の扱いを心得てるからねー」
あたしは慌ててカトルの手を離し、両手を振って否定した。
「ち、ちょっと!二人とも飛躍しすぎだよ!少し話をしただけ、触られたりしてないから!」
「やっぱり!愛を語ったりしたんだよねー!?」
「なっ…る、ルーシアみたいにハープとか使うのか!?」
「だ、だからーっ」
あたしは何故か恥ずかしくなって、前にいたクシィさんに助けを求めた。
クシィさんは美しい銀髪を駆け抜ける風に靡かせて笑う。
「もう大丈夫みたいだわ、ほら」
「え…?」
あたしはクシィさんの指先を追って、あ、と息を飲んだ。
前方に、仏頂面のルータナさんがいたのだ。
ルーシアとカトルは気付かずにあれやこれやと話しては勝手に混乱しながら前進していた。
「楽しそうじゃないか」
「全然楽しくないだろ!ルーシア、お前何言って…」
「お、俺じゃないよー!」
カトルはぎくりとしてそろそろっと振り仰ぐ。
笑顔すらない、完璧な無表情で、ルータナさんはもう一度言った。
「楽しそうじゃないか?」
「すっ…すみません!ごめんなさい!」
カトルは蒼白で頭を下げながら続ける。
「でもルーシアそっくりで…うう」
「ルーシアと、か。歓迎出来ないな」
「に、兄さんひどいよー」
ルーシアが眉を寄せた時、影があたし達を覆い隠し風が吹いた。
紐に通された風車達が勢いよくカラカラと回り、ワイバーンが5体、列を成して通り過ぎて行く。
その光景は壮大で、風を切り裂いていく大きな翼竜にあたしは足を止めて釘付けになった。
あの翼なら、きっとラシュランまではひとっ飛びで行ける。
騎馬隊なんかに負けないだろうし、そもそもワイバーン一体で馬なんて蹴散らしてしまうかも、と思った。
「…」
同じく立ち止まり見送るカトルが眉を寄せ、少しだけ不安を表情に出していた。
さっきまで微塵も感じさせてなかったけど、その気持ちは痛い程わかる。
故郷がどうなっているかわからない不安。
焦ってはいけない、みんなを心配させてはいけないと、一生懸命に振る舞っていたに違いない。
あたしはカトルのそばで、彼を支えるんだ。
隣に立つと、カトルははっと我に返り笑った。
「すごかったな」
その言葉に微笑み返すあたしに、彼はばつが悪そうだ。
それを見ていたルーシアは優しく言った。
「大丈夫、カトルには俺達がついてるよー」
目を見開いて、カトルはすぐにはにかんだ。
「ルーシア…ありがとう」
素直に表されたカトルの気持ちにどきどきする。
そんな場合じゃないのになぁ…。
でも、それだけあたしはカトルのことが好きなんだ…。
「立ち止まってる場合じゃないぞ。早く行け」
「あ、は、はい」
ルータナさんの声であたし達は前を行く兄達を追い掛けた。
どきどきはまだ胸に残っていて、先を歩くカトルの黒髪が揺れるのを見つめてしまう。
…あたしが。
何があっても、あたしがそばで守るから。
小さく呟くと、カトルは聞こえたかのように振り返って、手を差し出してくれる。
「リア」
「うん」
あたしはその手を取り、前を見据えたのだった。
お読みくださってありがとうございます。
既に書き上がっているお話のため、
順次更新いたします。
お付き合いいただければ幸いです。




