13.ドウクツ
リア:主人公。兄を探すと決め、RPGにログインすることを決めた。
実は自身がデータだった。
カトルシア:カトル。
ログインしたリアを最初に見つけ、街に連れ帰る。
樹上の街ラシュラン出身。
リアを好きになり、守ると決め、共に旅立った。
ルーシア:オレンジの髪、ルビーのような紅い瞳。
とあるカプセルを探して旅をしている。
男しか産まれない、風の街サンドラ出身。
リアに恋をしてしまうが、カトルとリアの関係を祝福している。
ダグラス:過去にカトルの父エルシア、母ユリと旅していた。
娘を襲われたことが原因でカプセルを嫌うようになったが、誤解だったのがわかって吹っ切れた。
クシィの父。
クシィ:宿屋の看板娘。
鈴の音のような声の美しい女性。
ダグラスの娘。
運命に抗うカプセルと共にいると思われる、彼に会いたいと思っている。
ユーマ:リアの兄。運命に抗うカプセルの仲間として動いている。
魔物の長を探し、カプセルを助けながら旅をしていた。
カトルが魔物の長なのか確信が持てず、共に行動することを決める。
エルシア:カトルの父。
ユリ:カトルの母。
RPGに残ると決めたカプセル。
洞窟は徐々に入り組み始め、分岐が出始める。
兄は記憶を確かめるように進んでいたけど、ルーシアが急にハープを取り出した。
「ユーマ」
「え、あ、はい?」
「任せてよー!」
ぽろろん。
ルーシアは淡い緑色に照らされながら、軽やかにハープを鳴らした。
…それは透き通った音色で、曲調は穏やか。
兄は不思議そうにそれを見ている。
ルーシアはにっこりすると、謡いだした。
我が身一つ 行く先は闇
水と交わり 身を清めたら
右手には剣 左手に安らぎ
我が身一つ 進めども闇
右から真中 身を屈めたら右手には奈落 左手に安らぎ
風の街からの使者が歌う
前を見よ 闇の中から
光を奏でる音がする
「…それは」
兄は驚いたようだった。
ルーシアは笑う。
「うん、洞窟の地図の歌」
兄は少し考えると、言った。
「水と交わり…は、最初の水脈ですね?…その後左手に進んでさっきは右だから…。次は『右から真中、身を屈めたら』の真中ですか?」
「正解だよー。まぁ、歌なんて無くても迷わないかもしれないけどね」
「いえ、心強いです」
そんなやり取りを聞いていたクシィさんは、ルーシアに言った。
「何か景気付けに歌ってほしいわ、ルーシア」
「うん?…じゃあ、そうだなー。やっぱりこれかな!」
ルーシアはくるりとあたし達やクシィさんを見渡し、軽快なリズムを刻み出した。
その曲に、あたしの口元が緩む。
「あはっ、ルーシアってば。その曲好きなんだね」
「まぁねー、さ、歌ってねー?…さんはい!」
『ねこふんじゃったーねこふんじゃったー』
歌い出したあたしは、声が重なったのにびっくりしてルーシアより先の兄を見る。
兄はにやりとして、さらに楽しそうに歌を紡ぐ。
「いいねユーマ!ほら、カトルも。ねこふんじゃった~ねこふんじゃった~!」
隣のカトルを見ると、なんとも言い難い渋い顔をしていた。
眉を寄せ、唇を引き結び、顎の辺りに手を添えて考えてるようだ。
「カトル?」
「猫踏んじゃった歌…って、なんか趣味悪くないかぁ?」
「ぷ、うふふ、そういえばそうだよね」
ルーシアの歌を頼りに、まる2日程洞窟を進んでいる。
暗い洞窟では時間はわからなくて、2回の睡眠でどれくらい眠ったのか定かではなかった。
その間、軍の騎馬隊がどこまで進んだのか不安な時はルーシアに歌を催促して過ごした。
今日一日あればサンドラまで行けるはずだ。
兄はその間、暇があると今までの話をしてくれた。
たくさんのカプセルを兄の手で助け、その大半が仲間になったらしい。
仲間になったカプセル達は、本拠地で研究や魔物退治、畑仕事から牧畜まで、様々なことをしながら過ごしているそうだ。
「そういえば、ログインカプセルが残ってるって聞いたわ」
あたしが言うと、兄は肩を竦めた。
「あぁ、あるにはあるよ。ただ、データ世界の受け皿が無いからな。なんの機能も無い」
「そっかぁ…。器が無くてもあっちに帰れる研究とかはされてないの?」
「もちろんされてるさ。予期せぬ事情で帰れない人もいるからな…。だからこの世界や俺達開発者を良く思わない人もいるよ。でもいくら嫌でも、現実問題カプセルは本拠地にいるのが1番安全だから、仕方なく一緒に居るって人も多いだろうさ」
あたしは顔をしかめた。
そうか…良く思わない人がいて当然だ。
この世界が嫌いなカプセル達は…最初に降り立った時何を思っただろう。
「…綺麗だと思ったはずさ。最初は」
兄はあたしの考えを見透かしたように呟いた。
もしかしたらそれは、自分に言い聞かせたのかもしれないけれど。
そんなふうに考えていると、ふわりと頬をくすぐる風に気付いた。
「…あ」
誰かが息を飲んだのが聞こえて、あたしは前を見る。
ずっと向こうが、うっすら明るいのだ。
風の街からの使者が歌う
前を見よ 闇の中から
光を奏でる音がする
「もしかして、出口なのかな?」
「そうかも!早く行こう!」
あたしとカトルは何かに急かされるように駆け出そうとした。
その時、兄とルーシアがあたし達を制した。
「待て」
「駄目だよ、二人とも」
驚いて振り返ると、ダグラスさんもクシィさんも苦笑している。
「え、え?」
「よーく聞いて。何か聞こえるでしょー?」
ルーシアが唇に人差し指を充て、シィ、と言った。
あたしとカトルは顔を見合わせて、耳を澄ました。
ヒュゥ、ヒュゥ…。
遠く…微かだけど、何か笛のような…。
ヒューゥ、ヒュゥ。
それは不規則で、鳴き声のようでもある。
なんだろう…。
あたしは音の主を探して、ふと少し上を見上げた。
「あっ」
さっきまで見ていた光とは違う光が、よじ登れば入れそうな穴の先でぼんやり光っている。
穴は緩やかな登り坂になっているみたいだった。
そしてどうやら、そこから音が聞こえるのだ!
「上にも光がある!そこから何か音がするのね」
指を指しながら振り返ると、
「うん、その音は風の国サンドラからの風の音なんだよー。正解は、そっち!」
と言いながら、ルーシアがにっこりした。
成る程、風が穴を通る時に、口笛の要領で音が鳴るんだろう。
そうこうしている間に、兄が穴をよじ登り、ダグラスさんが下からクシィさんを手伝って登らせようとしていた。
「あ、手伝います」
カトルが慌てて登り、兄と一緒に引き上げる。
クシィさんが登り終えると、ダグラスさんとルーシアがあたしを振り返った。
「早く登れ」
二人は腕を組み合わせてしゃがんだ。
その手に足を掛ければ、二人が上に押し上げてくれるのだ。
「い、いいですよっ自分で登ります!だ、だってあたし……重いし」
わたわた手を振ると、ダグラスさんは顔をしかめた。
窪んだ目元から鋭い眼光が…。
「馬鹿を言うな。時間が惜しいんだろう?」
「あ、あぅ…」
正論だ。
あたしは渋々と足を掛け、上で兄とカトルに手を取ってもらってよじ登った。
「ふぅ…」
はい上がり四つん這いになって息をつく。
ゴツゴツの岩肌が剥き出しになっていて、いくらか擦り傷になったみたい…。
見ると、汚れた腕や膝を手で掃っているクシィさんも、擦り傷からうっすら血を滲ませていた。
「結構擦りむけちゃいましたね」
あたしが言うと、クシィさんは鈴のようにコロコロと笑った。
「なんか子供に戻ったみたいよね!よく擦りむいて父さんに痕が残ったらどうするんだって怒られたわ」
…そっかあ、ダグラスさんはクシィさんが大事だったに違いないね。
「でも悪いって思っても、頭が重くて転んじゃうのよねぇ。リアちゃんも怒られたでしょう?」
ぎくりとしたのが自分でもわかる。
「もうすぐです。行きましょう」
兄の声にクシィさんが気を取られ、話は中断された。
後ろからダグラスさんとルーシアが登ってきたのがわかる。
「もう大丈夫ですから、ルッピーを休ませますね」
兄はルッピー達を呼び戻し、ランプの中に入るよう伝えながら、あたしに苦笑いを見せた。
…あ。
あたしのために話題を逸らしてくれたんだ…。
あたしも笑って見せると、彼は安心したように口元を緩め、先頭を歩きだす。
すると、カトルが隣に来てそっとあたしの髪を撫でた。
「…優しいな、ユーマさん」
「うん」
あたしは笑顔だったに違いない。
たくましくなったその背中に3年前の兄を重ね、寂しいような嬉しいような気持ちになった。
あたしも、もっと成長した自分を見せたいな。
「…っ」
2日ぶりに浴びる太陽の光がまぶしすぎて目に染みる。
空は雲が多少あるくらいでほぼ快晴。
太陽は高く、今がお昼頃だと推測出来た。
右手でひさしを作り目を細めて明るい世界に視線を移すと、その色の多さに圧倒される。
風が運ぶ空気は草の香りに満ちて、深呼吸すると体中に生気が溢れるような気がした。
急いでいることを忘れ、あたし達は立ち尽くしてしまった。
…洞窟を抜けたそこは、所々に岩肌が剥き出しになった高山地帯のようだった。
背の低い植物が鮮やかな花や実をつけていて、遥か上空を鳥の影が舞っている。
「見てー」
ルーシアが指差した方角は山脈のまだまだ先の方…尾根を行けば辿り着けそうなところだ。
見ると遠目にもはっきりと街が見えた。
「あれがサンドラだよー」
山肌に造られた街は風の街という名が似合う、風車の街だった。
風車は大きな物から小さい物まで様々で、ゆっくりと回っている。
「すごい!何だよあれ?」
カトルは身を乗り出すようにして言いながらそれを眺め、ダグラスさんもひさしを作ったまま目を細めていた。
「すごいでしょー?」
ルーシアが誇らしげに胸を張った時、あたしはカラカラと小石が転げる音を聞いて振り仰いだ。
後ろにあるのはあたし達が抜けてきた洞窟。
その上には大きな岩があり…さらにその上に…。
「ーっっ!」
声にならない声を上げてひっくり返りそうになったあたしを、兄が支えた。
すると、タイミングを計ったようにクシィさんが悲鳴をあげる。
「きゃーーーっっ!!」
…最初、それは岩のように見えたんだ。
それ程に大きかったから。
例えるなら白と黒の花崗岩みたいな感じ。
太陽の光を鈍く反射する堅そうな鱗が身体を被っているんだけど、その前脚は鳥類に似た翼になっていて羽が生えていた。
蛇のような口は開くと真っ赤で、鋭い牙がずらり。
その奥で二股の舌がチロチロと踊っている。
顔の大きさは裕にあたしの身長を越し、こちらを見る目は赤くて瞳は縦に長く、鋭い印象だった。
それはクシィさんの声でびゃあーっとトサカ?を立て、興味津々にあたし達を見下ろす。
トサカ?は何本かのカラフルな羽冠。
黄色の先がピンクになったもので、白黒の身体では驚く程に目立つものだ。
兄やカトル、ダグラスさんそれぞれが武器を取り構える。
金縛りのようにそれを見ていたあたしも慌てて剣を抜き放った。
な、何これ!?竜!?
「どう、どう!」
不意に誰かの声がした。
太い、男の人の声だった。
首をもたげた竜はその声に応えるようにゆっくりと頭を垂れる。
すると、ゆったりとした足取りで誰かが顔を覗かせる。
「…すまない、美しいお嬢さん達」
竜の後ろから、人…?
あたしはぽかんと口を開けてしまった。
その声はさっき竜を窘めた太いものだけど…。
武器を構えてることすら忘れてその容姿を眺めてしまう。
派手なオレンジ頭、目は赤く見える。
どう見たって、その容姿は…。
「…る、ルーシア。お知り合い…?」
恐る恐る聞くと、ルーシアは思いっきり両手を高く伸ばし、ぶんぶん振りながら言った。
「そうだよー!ラルバンカイヌ、久しぶりだね!」
「らるばん…何だって?」
カトルは番えていた矢をしまい、あからさまに戦意を喪失した顔でため息をついた。
まるで初めてルーシアに会った時みたいで、あたしは少し笑ってしまう。
「…話には聞いていたけど、あれがワイバーンなのか?」
兄も眉を寄せ武器を収めると、苦笑いしながら遠巻きに様子を伺う。
「ラルバンカイヌはワイバーンの世話係りのことなんだよ。ここに彼がいるってことは、族長のお許しが出たのかな…」
振り回した手を降ろし、ルーシアはそう言ってから竜に向かって歩き出す。
「よお、ルーシア!久しぶりじゃねーか!待ちくたびれたぞ」
「待ってるなんて知らないからねー。で、族長は何て?」
ラルバンカイヌと呼ばれた男の人は、容姿から見て間違いなくサンドラの民だろう。
ルーシアよりも遥かにがっしりした筋肉質の体型はこんがり小麦色。
服も何となくルーシアに似ている気がするし、それに…。
「まぁまぁ、そんな話よりも。綺麗なお嬢さん達、洞窟は暗かったでしょう。すぐに明るい街にお連れします。ささ、こちらへ」
…この感じ。
最初のルーシアそっくりだ!
何て言うか、女の子を特別扱いしている。
「ルーシアが増えた気がする…」
カトルがげんなりしているのを見て、あたしも笑いながら頷く。
「まずはレディから街にお送りするからな!男は待機!」
「ま、待ってよラルバンカイヌ!俺は先に行って族長と話を進めておきたいよー!」
ルーシアが慌てて言うと、ラルバンカイヌさんはガハハと豪快に笑った。
「それもそうだな!じゃあルーシアも追加だ!残りの3人は少し耐えろよな!」
その時、明らかにカトルが不満そうな顔をした。
様子を見ていると、拳を握り締めてカトルが声を上げる。
「ちょっと、らる…世話係りの、貴方です、貴方」
「オレか?ラルバンカイヌだ、男は見飽きてるから興味は無いんだが」
「うぐっ…お、俺だって興味無いですよ!」
「真に受けるなよ、冗談だ!がはははっ!で、何だ?」
「…駄目ですからね」
「ん?よく聞こえねぇな、もう一度頼む!何が駄目なんだ」
「リアに手、出したら駄目ですからねっ!」
『……』
か、か、カトル…。
あたしは恥ずかしさのあまりに俯いて、両手で頬を覆った。
全員がぽかんとしてるというか、ただ反応が出来ないでいるというか…。
も、もちろん嬉しいよ?
でも、人前だし、何よりラルバンカイヌさんとは初対面だし…。
ルーシアの時はお風呂だったからあれだけど。
知ってか知らずか、ルーシアは突然お腹を抱えて笑い始めた。
「あははっ、カトルは可愛いなぁー!お、俺、あはははっ」
「し、仕方ないだろ!?お前みたいにリアの裸見るかもだし!?」
「ひゃわああぁ!?ま、待ってよ!見られてないよっ!あの時はタオル巻いてたでしょう!?」
なっ、何て言い方するのよう!
「ルーシアさん、理亜を覗いたんですか?」
ルーシアは兄の問い掛けに弾かれたようにそっちを見、目を見開いた。
「えっ…?や、やだなぁ、ユーマ。そんな恐い顔しないでよー!見てないよー!
?り、リアちゃんもそう言ってるしね!」
あたしは「もう、この話おしまいっ!おしまいだからね!」と、先にクシィさんがワイバーンにまたがってるのを追い掛けた。
ラルバンカイヌさんは優雅にあたしを手伝い、ちゃんと捕まるように言う。
「がははっ、予約済ってわけか!まぁでも、覚悟はしとけ!ここは風の街サンドラだからな!」
「ぅえっ!?ま、待ってよラルバンカイヌさんっ…」
「行くぞ!男だけなのが不本意だがすぐ迎えに来るからな!」
カトルはぷーっと頬を膨らませ、どっかり腰を降ろした。
「じゃあ行くぞ!」
お読みくださってありがとうございます。
書き上がっているお話のため、
順次更新いたします。
お付き合いいただければ幸いです。




