12.テンセイ
リア:主人公。兄を探すと決め、RPGにログインすることを決めた。
兄と再会出来たが、実は自身がデータだったことを知る。
カトルシア:カトル。
ログインしたリアを最初に見つけ、街に連れ帰る。樹上の街ラシュラン出身。
リアを好きになり、守ると決め、共に旅立った。
ルーシア:オレンジの髪、ルビーのような紅い瞳。
とあるカプセルを探して旅をしている。
男しか産まれない、風の街サンドラ出身。
リアに恋をしてしまうが、カトルとリアの関係を祝福している。
ダグラス:過去にカトルの父エルシア、母ユリと旅していた。
娘を襲われたことが原因でカプセルを嫌うようになったが、誤解だったのがわかって吹っ切れた。
クシィの父。
クシィ:宿屋の看板娘。
鈴の音のような声の美しい女性。
ダグラスの娘。
運命に抗うカプセルと共にいると思われる、彼に会いたいと思っている。
ユーマ:リアの兄。運命に抗うカプセルの仲間として動いている。
魔物の長を探し、カプセルを助けながら旅をしていた。
カトルが魔物の長なのか確信が持てず、共に行動することを決める。
エルシア:カトルの父。
ユリ:カトルの母。
RPGに残ると決めたカプセル。
街を出て、街道を北西へ向かう。
右手に広がる山脈に遮られて、まだ日の光は届いていない。
しかし着実に昇る太陽は、空をどんどん明るく塗り替えていた。
「少し行ったら獣道に入って山を抜けて行きます」
兄の言葉にルーシアが感嘆の声を上げた。
「へぇ…お兄さん、そんな道まで知ってるんだねー」
そういえば、ルーシアが近道があるって言ってたっけ。
兄はちょっと振り返り、続けた。
「…はい。そういえば、ルーシアさんとカトルシアにはまだ名乗ってなかったですね。俺の名前は勇真です。理亜がお世話になりました」
「そんなにかしこまらないでよー。…わかった、ユーマだねー。歳はいくつなの?女の子じゃないとわからないんだよなぁ」
ぼやくルーシアに、兄は少しだけ笑った。
「26です。…サンドラの民は変な特技がありますね」
「あはは、よく言われるよー。リアちゃんとカトルとは4つ違いかー。クシィは27だから一つ違いだねー」
「ちょっと、ルーシア?さらりと人の年齢を暴露しないでほしいわね」
クシィさんが振り返りルーシアを睨むと、ルーシアは笑ってカトルの後ろに隠れた。
「あはは、クシィは恐いねーカトル!」
「うぇ!?俺に振るなよな!…え、えっと…」
「カトル、答えに困ってるー?クシィ、カトルがクシィは恐いってー!」
「まぁ!カトル、貴方そんなに薄情だったの?」
「う、うわっ!ち、違うって!ルーシアが勝手に…!」
賑やかな3人に、兄は優しい視線を送っていた。
あたしはそんな兄の隣まで歩み寄った。
「兄さん、さっき危険がどうとかって時にカトルを見たでしょう」
小声で言うと、彼はこっちを見て肩を竦めた。
「…見てたのか。…大丈夫だよ、今のカトルシアが危険だって言いたいんじゃないんだ…。ただ…」
その表情を険しくし、兄は唇を噛んだ。
「俺達が力を使うのに、感情が関わってるって言ったよな?」
「…うん」
「もし、長の覚醒も感情に左右されるとしたら…今回のことでカトルシアは危険に晒される」
「え…?」
「詳しい話は獣道に入ってからにするよ。こんな時間でも街道だし、誰かに聞かれたら困るからな…」
あたしは不安になってカトルを振り返った。
カトルはまだ無邪気にじゃれていて、見ているあたしに気付くと微笑んで手を振ってくれた。
「…」
無駄に心配させたくなくて笑い返すと、調度クシィさんがルーシアを追い立てて、巻き込まれるようにカトルも逃げていく。
一人、ダグラスさんだけが兄のように険しい表情だった。
「…ダグラスさん?」
「…。リア、お前は何があってもカトルシアのそばを離れるな」
「え…」
「…徒労だといいんだがな」
不精髭をさすり、ダグラスさんは前を行く兄の背中を見つめている。
ダグラスさんは、何が起こっているのか予想がついてるのかもしれない。
…一体何が起きてるんだろう…。
渦巻く不安を拭うように、朝日が街道を照らした。
山々の間から日の光が射したのだ。
やがて一際太い木が見えてくる。
「あの横から獣道に入ります」
あたし達は草を掻き分けるようにして、山脈へと入って行った…。
「サンドラでは、翼竜が飼い馴らされていますね」
山脈に入ってすぐに兄が言う。
「馬よりも速くスタミナも豊富だと聞いています」
足元の腐葉土は柔らかく、気を抜いたら滑り落ちてしまいそうだ。
話を聞きながら、集中出来ないでよろよろするあたしの手を、カトルが引いてくれる。
あたしはその手をしっかり握った。
…離れるな。
ダグラスさんの言葉が、重い枷になっていた。
「え、うん…。女性を招くのに使う移動手段として、街で世話をしてるよー」
ルーシアが訝しげに答えると、兄はさらっと言い放った。
「それを借りたいんです」
「え…えぇっ!?か、貸し出したなんて話聞いたことないしなぁ…第一、族長に話をしないと…」
「…緊急を要します。これから事情を説明します、それを踏まえて考えて下さい」
昨夜、軍の動向を伺い、兄は不安に思ったという。
駐屯している軍は何の緊張感も無く、警戒してる様子が無かったのだ。
…そもそも、軍がカプセルを娯楽で狩るのは極秘事項である。
その事実を広められたら困る軍は、ダグラスさんとクシィさんを始末する必要があるはずだ。
しかし、二人と行動を共にするのはあたし…つまりカプセルで、もしかしたらそれを逆手に、カプセルがデマを触れ回っていると片付けるつもりなのかもしれないと兄は考えた。
それでもこの緊張感の無さ…。
どうも不安が拭えずに、彼は鳩を送ることにした。
その鳩が、とんでもない情報を持って来たのだ。
兄は唇を湿らせてから、ひとつひとつ…噛みしめるように言葉に出した。
「軍は、騎馬隊を…樹上の街、ラシュランへ向かわせたそうです」
「……!!」
カトルの全身が強張る。
あたしはその手をぎゅっと握り、唇を噛んだ。
まさか…そんな。
「…ダグラスさんの友人であるカプセル…カトルシアの母親がいますね。そして理亜の登録情報も、ラシュランと繋がりがあった。カトルシアの母親を人質に捕るつもりか、それとも…いえ、とにかく、ラシュランに危険が迫っています」
兄は最後を濁し、無理矢理まとめた。
…カトルの感情を気遣ってなんだと思う。
軍は、虐殺を行うかもしれないんだと、あたしは理解した。
「俺っ…行かないと!」
「きゃ…っ」
急に踵を返すカトル。
繋いだ手が離れそうになって、あたしは体勢を崩しながら必死に掴まった。
「うわ、リアっ…」
ズルッ!
斜面を転がりそうになるのを、カトルが支えてくれる。
それをルーシアが手伝って、カトルを宥めた。
「カトル、落ち着いて。今から戻っても絶対に追いつけないよ。…だからサンドラのワイバーンが必要なんだよ。そうだよね、ユーマ」
「はい」
「え…あ…。ご、ごめん…」
カトルはその場に留まって、不安そうにあたしを見る。
あたしはそっと、そばに寄り添った。
大丈夫だとは言えない…。
でも、カトルにはあたしがいる。
みんながいる。
だから一人で不安を背負わないでほしかった。
「一緒にいるよ…」
「リア…。うん、ごめん…取り乱した…」
カトルは繋いでない方の手を自分の額に宛て、きつく目を閉じた。
「…ワイバーンなら、軍がラシュランに着くのに間に合うかもしれません。その為に、少しでも早くサンドラに着いて、少しでも早くワイバーンを借りることが必要です」
兄はカトルが落ち着いたのを確認して歩き出す。
「しばらくしたら、仲間に飛ばした俺の鳩が戻ってきます。そうしたら、ルーシアさんの名前でサンドラに飛ばしましょう。族長に事情を説明してほしいんです」
「…わかった。ワイバーンは俺に任せて。カトル、気をしっかり持つんだ」
「ルーシア…。あぁ、大丈夫。悪い」
カトルは不安げにルーシアを見据えた後、前を行く兄に視線を向ける。
「ユーマさん、軍がラシュランで虐殺することはありますか」
「っ!」
弾かれたように振り向く兄に、カトルは悟ったように肩を落とした。
「…くそ…。軍の奴ら…軍の奴らなんて…俺が…」
「カトルシア!」
「!、うわっ」
カトルを叱ったのはダグラスさんだった。
彼はカトルの頭にゲンコツを落とすと、言った。
「まったく!エルシアそっくりだ!自分一人で背負ってると思うな!原因は俺にある!お前がうじうじするな!」
身体の芯からビリビリくるような雷に、あたしもカトルも縮み上がった。
「ごっ…ごめんなさい!」
カトルが叫ぶように謝ると、ダグラスさんはもう一発ゲンコツを落とした。
「い、いってぇ!」
「わかったなら歩け!急ぐぞ!」
カトルは頭をさすりながら、少しだけ笑った。
「だ、ダグラスさん恐っ…鞭じゃなくてよかったよな」
「ふふ、うん」
カトルはすっかり落ち着きを取り戻していた。
…あの鞭で頬を打たれたのが、少しだけ懐かしい。
そして、あの美しい外観と、温かい人々の街…ラシュランも。
ユリさん、エルシアおじさん…どうか無事でいて。
あたし達は時間に急かされるように山脈を進んだ。
しばらく行くと、洞窟のような場所がぽっかり口を開けていた。
調度白い鳩が戻ってきたのもあってか、その前で兄は立ち止まり、5分休憩しようと言う。
休憩なんてしてる場合じゃないと思ったけど、カトルが不満そうなあたしに気付いたのか、言った。
「山じゃ、こうやって休憩を挟まないと身体が参っちゃうんだ。疲れてないと思うのは、気持ちが張り詰めてるからなんだって。…父さんが言ってたんだ、だからどんなに急いでても、休憩はしなくちゃな。…俺も、リアと同じ気持ちだよ」
「カトル…。そっか、エルシアおじさんが言ってたなら、そうしなくちゃね」
二人で微笑んでいると、鳩に手紙を結んだルーシアが割って入った。
「ずるいなー、俺も混ぜてよー」
「駄目!俺とリアの世界だからなっ」
「うわ、カトルっ…お兄さん恥ずかしいなー二人だけの世界とか言ってー!」
「う…。い、いいだろっ…別に…!」
カトルはルーシアに言って、その向こうにいた兄に気付くとみるみる赤くなった。
「見せ付けてくれるじゃないか、カトルシア?」
意地悪そうに微笑む兄。
ルーシアが声をあげて笑う。
「あははっ、ユーマ、カトルはすっごい可愛いんだよー、俺のリアをとるなーってさー!」
「へぇ…まぁ、俺の妹だけあって、理亜は可愛いからな!」
「はいっ、リアはすごく可愛いですっ」
え、えーっ!
言い放ったカトルに、あたしは両手で頬を覆った。
顔から火が出るんじゃないかと思った!
「ぶはっ…ふ、はははっ…大まじめに答える奴があるか!はははっ」
「お、俺、さすがに照れちゃうよー」
お腹を抱え笑い出す兄と、自分のことのように照れて赤面するルーシア。
カトルはますます真っ赤になって、わたわたと手を振った。
「ぇわ!?だ、だってさっ…否定するのもおかしいだろっ…」
「若いな…」
少し先の大きな岩に腰掛けたダグラスさんがポツリと言うのが聞こえて、クシィ
さんが吹き出す。
「やだ、父さんたら!母さんから大恋愛だったって聞いてるわよ?ふふ」
「え、えーっ!素敵ですダグラスさん!聞きたいです!」
あたしが食いつくと、ダグラスさんは嫌そうに眉を寄せ、立ち上がった。
「さあ5分だ!行くぞ!」
「あ、ずるいです!クシィさん、あたし聞きたいですー」
「お前、今度はゲンコツをくらいたいのか」
「きゃあ!ごめんなさい!!」
わいわいしている内に、いつの間にか兄がランプを用意していた。
中には…。
「あ、ルッピー!」
淡い緑に光る発光虫、ルッピーが『みっちり』詰まっていた。
「ち、ちょっと入れすぎじゃないかしら…?」
クシィさんが言うと、兄は頬をかいて言った。
「最初は少なかったんですけど…どういうわけか殖えまして…」
「まぁ、繁殖したの!?」
「え、ルッピーってそんなに繁殖するのか!?…一匹が長生きだし、家には俺が産まれる前から同じルッピーがいる気がする…」
カトルが目を丸くして言うと、兄は突然ランプの蓋を開けた。
「わ、わぁ!ユーマさん、逃げちゃいますよ!」
ルッピーがランプから溢れ出すのを見て、カトルが手を延ばす。
あたしも慌ててそれに手を延ばした…が。
「捕まえ…あれ?」
何故か、ルッピーは逃げるわけでもなく兄のそばを浮遊しているのだ。
「…え?」
兄は笑って、それぞれに何匹かのルッピーを振り分ける。
「いや、何だか懐かれてるみたいで。…頼むな」
その声に応えるように、振り分けられたルッピー達が上下に2回、ふわふわ揺れた。
みんな唖然とその光景を見ている。
「な、何これ…私、夢でも見てるのかしら…」
クシィさんは割り振られたルッピーを珍しそうに見て、指を延ばす。
ルッピーはまるで遊んでいるように、その指に触れたり離れたりしていた。
「か、可愛いわね…」
「はは、そうですか?そりゃよかったです。行きますよ」
兄は鳩を飛ばすと、先頭を歩き出した。
ルッピーを連れ、入って行くのは真っ暗な洞窟。
ここを抜けると街道よりまる1日は早くサンドラに着くという。
真っ暗でも、ルッピーがいるだけで幻想的な空間になる。
あたしは不思議な気持ちで洞窟を進んでいた。
奥に進むにつれ、足場に水が溜まった場所が増える。
空気も冷たくなって、少し肌寒い。
「足場が悪くなるから注意してねー」
ルーシアの声が反響して幾重にもなり、あたしはそれに気を取られてズルリと滑ってしまった。
「きゃ!?」
がしっ。
あたしを支えたのは、カトルとルーシアだった。
「大丈夫か理亜?」
先頭の兄が声をかけてくれる。
「だ、大丈夫…!ありがとう」
言うと、幻想的な明かりの中で二人は微笑んだ。
う、うわぁ…。
言うなれば、どこかの物語の王子様。
ふ、二人とも格好良すぎるのよ…。
一人そんなことを考えて赤面していると、二人は顔を見合わせて、それぞれがあたしの手を引き、歩き出したじゃないか。
「わ、わっ」
「危ないからな」
カトルが言うと、ルーシアもやんわり答えた。
「そうそ。カトルのお許しも出たし、たまには俺にも手、引かせてねー」
「今回だけだからな」
カトルが笑う。
そんなあたし達の間を、ルッピーが楽しそうに行き来する。
うう、なんか恥ずかしいなぁ。
すると、そんなあたし達の前でクシィさんがすてんと転んだ。
「い、いたた…」
「大丈夫ですかクシィさん!」
クシィさんは立ち上がると、ぷーっと膨れた。
「もう。ルーシアもカトルも薄情だわ~!私の彼がいたら、絶対もっと優しいんだから」
言いながら笑い出す彼女に、あたしも笑ってしまった。
「あはは、クシィさんたらのろけてる!仲良しなんですね」
「ふふ、わかるー?」
あたし達の会話に、残りの4人は口々に『女はわからないからなぁ』と言い出した。
笑い声がこだまして、洞窟はとても賑やかだ。
…みんな本当は不安だと思う。
それでも、その不安を紛らわせていられるのがありがたい。
あたし達は誰に言うでもなく、頑張ろうと口にしていた。
またしばらく進むと、水の流れる音がした。
「…水の音がする」
あたしが言うと、ルーシアが答えてくれる。
「地下水脈があるんだ。その水脈が集まって首都の方に流れて、あの湖になってるんだよー」
「そうなんだ、すごいね!」
話していると、兄が言った。
「この先でその水脈と道が交差するんだ。そこで食事にして、水を補給しておこう」
そういえば朝ご飯もまだだったなぁ。
あたし達は返事をして、少し早足でそこを目指した。
水脈は思ったより深く、広範囲を流れていた。
ルッピーが照らしてくれるからわかるけど、その水はどこまでも透き通り底の岩の形まではっきり見える程。
食事はダグラスさんの奥さんが詰めてくれたものを食べた。
有り合わせって言ってたけど、どれも美味しい。
あたしは特に、おにぎりに喜んでいた。
「おにぎりなんて久しぶりだなぁ、兄さんは?」
「俺もだ。…美味いな…なんだか変な感じだよ」
「…うん、あたし達のいた場所はデータだったのに…食べ物は同じだったりするのね」
「そうだな…。美味いって思うこの気持ちもデータなんだろうな」
「ちょっと待ってユーマさん、俺、思うんです」
カトルがおにぎりを飲み込み、兄に言った。
「データで出来てたって、気持ちは本物です!リアだってユーマさんだって、生きてる!俺はデータが何かよくわからないけど、悲観することじゃなくて…ええと…生まれた街が違うだけっ…ていうか…!だからそんな言い方、し、しないで下さい…」
力説していたカトルは、恥ずかしくなったのか尻つぼみになって座り直した。
「す、すみません…」
聞いていた兄は、少し困った表情でカトルを見ている。
その手に持ったおにぎりから、お米がぽろんと落ちた。
「…ありがとうカトルシア。…でもな、一つだけ知っていてほしいんだ…。データである以上、俺達は自分を書き換えられるんだよ」
「え?どういうことですか?」
「俺は、RPG…この世界にリンクするための道具を作る手伝いをしてきたんだ。…だから、わかる。データの俺達は…記憶や性格、性別まで、簡単に書き換えたりコピーしたり出来る」
あたしは、はっとして俯いた。
…兄は初期開発者の元で、共にRPGを作っていた。
それは同時に、自分や他の人の人生を解析するようなものだったんだ…。
「データを読み解けば、自分の思考回路がわかる。何か選択を迫られた時、自分がどんな優先順位でそれを選ぶかがわかる。…俺は、それが苦痛だ。誰かが俺のデータを書き換えれば、知らないうちに俺は記憶を失うし、性格だって変わる。それに、若返ることだって出来るんだぞ?自分で言うのも変だけど、自分て存在がただの造り物だって実感してしまうんだ」
ルッピーがまるで心配しているように、表情を曇らせる兄の頬を滑っていく。
兄はそれを手で受け止め、また空中に放った。
「ただのデータっていうだけで、俺達は生きてるはず…それは、本当のことだと思う」
兄は続けると、力無く笑った。
「運命に抗うか。…俺は、狩られそうになったり迫害されているカプセルを助けるだけじゃなく、真実を話して、仲間になってもらうために行動してる。この世界に生を受けながら、データになろうなんて馬鹿げたことをした魔物の長を、一発殴りたいんだ」
そしてじっとカトルを見つめ、ため息をついた。
「もし…もしも転生が可能なら…。自分がカプセルだ、データだってことを忘れて、この世界に産まれたい」
あたしはそれを聞いて、まじまじと自分の身体を見た。
…造られた身体。
この身体が壊れた時、あたしの意識は何処へ行くんだろう。
あたしも生まれ変わることが出来るのだろうか?
「…。俺が魔物の長だったとしたら、俺はデータなのかな…」
カトルがぽつんと呟いた。
兄は首を振った。
「…違う。少なくともお前は血を流し、死んだら腐る身体だよ。お前を『還す』場所が俺には見えないからな、何度やっても」
「それ…リアや母さんにもある力のことですね?…じゃあ、俺は転生出来たってことになりますか?」
「……」
兄は眉を寄せ、黙ってしまう。
それは何か考えているようだった。
やがて兄は確認するように話し出した。
「カプセルの身体は、データで出来てる。…でも、構造はこの世界の人とそう変わらないように造られてるんだ。食べ物を食べれば消化するし、殴られれば痛い。…だから、もしかしたら…そこから人を生み出すのは可能かもしれないな…。後はどういう状況で、お前の母親がお前を身篭ったかわかれば、もしかしたら」
「…俺の身体、調べたら役に立ちませんか」
カトルは真面目な顔でそう言った。
兄は驚いて顔を上げ、苦笑する。
「…カトルシア。必要になったら協力を頼む。…ただ、今は…気をしっかり持ってくれ」
「え?」
「俺達カプセルの力は、感情に左右される。もし、お前の魔物の長としての力もそうだったら、ラシュランを見て、お前が壊れるかもしれない」
そう言うと、兄は立ち上がった。
「お前は…思ったよりいい奴だよ、カトルシア。話しすぎた。すぐ出発しましょう。各自、水の補給を忘れないで」
カトルを見ると、彼は真剣な表情で前を見ていた。
あたしはカトルのそばに行くと、その背中をぽんと叩く。
「わ…リア」
「大丈夫、あたしも、みんなも、カトルのそばにいるよ。カトルは大丈夫だよ」
「…うん。なぁ、俺…耐えられるよな。…何があっても」
「うん。…だからまずは、ラシュランに急ごう」
カトルは小さくありがとうと言って、あたしを抱きしめた。
それはほんの一瞬だったけど、優しくて温かくて、幸せな気持ちになる。
「行くぞ」
「はい!」
カトルは返事をすると、先に歩き出した。
その背中を、あたしは追い掛ける。
そんなあたしに、カトルは少し振り返り、そっと手を差し出してくれたのだった。
お読みくださってありがとうございます。
書き上がっているお話のため、
順次更新します。
お付き合いいただければ幸いです。




