11.セットク
リア:主人公。兄を探すと決め、RPGにログインすることを決めた。
実は自身がデータだった。
カトルシア:カトル。
ログインしたリアを最初に見つけ、街に連れ帰る。
樹上の街ラシュラン出身。
リアを好きになり、守ると決め、共に旅立った。
ルーシア:オレンジの髪、ルビーのような紅い瞳。
とあるカプセルを探して旅をしている。
男しか産まれない、風の街サンドラ出身。
リアに恋をしてしまうが、カトルとリアの関係を祝福している。
ダグラス:過去にカトルの父エルシア、母ユリと旅していた。
娘を襲われたことが原因でカプセルを嫌うようになったが、誤解だったのがわかって吹っ切れた。
クシィの父。
クシィ:宿屋の看板娘。
鈴の音のような声の美しい女性。
ダグラスの娘。
運命に抗うカプセルと共にいると思われる、彼に会いたいと思っている。
???:リアの兄。運命に抗うカプセルの仲間として動いている。
魔物の長を探していると言うが…
目覚めたカトルとルーシアは、怪我もなく元気だった。
戻ったあたしと兄を出迎え、二人は良かった良かったと喜んでくれるけど…。
祝福の言葉を貰いながら、あたしは考えをまとめられないでいる。
その様子に気付いたのか、二人は顔を見合わせた後、兄に向かって話を振った。
「…えーと、初めまして。俺はカトルシアといいます」
「俺はルーシアだよー。…お兄さんに聞きたいことがあるんだけどいいかなー?」
兄は困惑した表情をしたけど、やがて頷く。
クシィさんは、自分の用事は急ぐことじゃないからと家族で席を外してくれていた。
「…俺はサンドラ出身でねー、3年くらい前、お兄さんサンドラに来なかった?」
兄は眉を寄せ、まじまじとルーシアを見ている。
「もしかして、貴方は佳奈の恋人?」
それを聞いたルーシアは笑顔から一変、真剣な表情になった。
「…カナを知ってるんだね。やっぱりサンドラに来たのは」
「はい。俺です」
「カナは無事?」
「元気です。今は本拠地にいて、いつも貴方のことを気にかけています」
そこまで聞くと、ルーシアは苦笑した。
「恋人は俺の兄さんなんだけどね…。少し前までカナを待ってたんだ。でも…結婚を決めてね」
「…そうですか。二人を引き裂いたのは俺ですね…」
ルーシアは驚いた顔をして兄を見た。
「それは…」
「いえ、いいんですよ。でもおかげではっきりしました。俺が探していたのは…」
兄の目が鋭くなったのを感じて、あたしは思わず声を上げた。
「ま、待って!カトルの話も聞いて!?」
兄は眉を寄せ、身体の横できつく握った拳をゆっくり解いた。
…何で止める?
あたしに向けられた眼差しがそう問い掛ける。
あたしはただ見つめ返すのが精一杯で。
兄はため息をひとつこぼして、カトルを振り返った。
「わかった。じゃあ聞こう…カトルシア。お前の母親はカプセルだな?」
兄は低い声で言った。
カトルは突然の言葉に眉を寄せる。
「は、はぁ…そうですけど…」
ルーシアも、わけが解らないというように首を傾げた。
「…俺達、運命に抗うカプセルは、お前を探していた」
「…え?俺?」
「悪いけど…還ってもらう」
「!?」
突き出された拳を、カトルはもろに顔に受けてひっくり返った。
その反動で棚から書類がバサバサッと床に散らばる。
ルーシアが驚いてカトルに駆け寄ろうとすると、兄はその前に立った。
「…ルーシアさん、邪魔は無しだ」
「ま、待ってよ。理由は?お兄さん、カトルが何したっていうんだよ?」
兄は倒れたままのカトルを見下ろして、小さく言った。
「世界を守るために必要なんだ」
ゆっくり構える兄に、ルーシアは飛び付いて叫んだ。
「ちょ、それじゃあわからないって!リアちゃん!お兄さんを止めて!」
あたしははっとして、慌ててカトルに駆け寄った。
「カトルっ」
抱き起こすと、呆然としていた彼は顔をしかめ、口元を拭う。
口の中を切ったのか、血が垂れていた。
兄はルーシアを振り払おうとしていている。
「兄さん…やめて…カトルは、カトルは違う…違う!」
「理亜っ!」
「あたしっ…カトルが大事なの!大好きなのっ…だから、だからやめて!」
「…っ!」
兄は動きを止めた。
その瞳には戸惑いの色が滲んでいる。
握られた拳が、振り上げられたまま行き場を無くしていた。
「……お前…」
「あたし…カトルが好きなの!だから、兄さんがカトルを傷つけるなら、あたしは…カトルを守る…っ」
涙が溢れて、前が見えなくなった。
カトルをすぐに助け起こさなかった自分が、情けなくて、苦しかった。
ルーシアが呼んでくれなかったら、カトルがやられる様を、ただ見ているだけになるところだったのだ。
あたしはカトルをしっかり抱きしめ、涙を拭い、必死に声をあげる。
「カトルはあたしが守る!敵になってもいい…っ」
「お前…わかってるのか…?」
兄は、力無く呟いた。
あたしは高ぶった感情が、急激に冷えるのを感じる。
彼の落胆が、その言葉から痛いほどに伝わってきたのだ。
「お前はデータ…。その気持ちも…造られたものなんだぞ…」
「…!」
兄は息をつき、ゆっくり拳を下ろす。
「…俺達は長みたいに、最初から人だったわけじゃない。お前が言う好きは、本当に人と同じ好きなのか?最初からインプットされていて、それは感情って呼べるのか?お前に全てを受け止める覚悟があるのか?」
「…それは…」
「……カトルシア。お前を還すのはもう少し待っておく。理亜から全てを聞いて決めろ」
兄は吐き捨てると、背中を向ける。
ルーシアが離れると、彼はドアの前まで歩いていき、少しだけ振り返ってあたしに言った。
「理亜、俺は…この世界を守りたい。そのためなら手段は問わない。それがお前にとって不服なら、相手になる」
「兄さん…」
「でも…お前は俺の妹だ。データでも何でも構わない。お前と俺は家族だからな…」
「どういうことなの?」
兄が出ていった後、カトルの手当を終え、ルーシアが静かに言った。
カトルは何も言わない。
あたしは両手で身体を抱くようにしてソファに腰掛け、俯いていた。
「…あたし、今まで…すごい勘違いをしてたの」
声はからからで、か細い音。
目を閉じると、そのまま闇に溶けるような錯覚に陥る。
「…リア」
今まで何も言わなかったカトルが、不意に名前を呼ぶ。
あたしの意識は闇から浮上して、自分の腕が見えた。
それでも応えることは出来ず、その顔も見れないでいると、やがてあたしの左右が軋み、二人が隣に座ったのがわかった。
「大丈夫…。どんなことでも、受け止めるから」
「俺達は、リアちゃんの味方だよー」
その温かさは、あたしの心臓をわし掴みにする。
苦しくて、辛くて、胸がぎゅっとして…涙が溢れてくる。
この気持ちさえただのデータなんだと思ったら、余計に辛くなってしまう。
あたしは自分を抱きしめる腕に力を込め、身体があることを確かめた。
造られた身体…それがただの入れ物でも、データでも、あたし自身は生きているんだと信じたかった。
意を決して涙を拭き、あたしは言葉を紡いだ。
「…あたしは、二人やこの世界が…データじゃなかったことが、嬉しかった…」
途切れ途切れの言葉が、空気に溶けていく。
「でも、それは…自分が生きていることが前提だった…。でもね、あたし…あたしは、生きてなかった…ただのデータだったんだ…」
この世界に降り立った時、考えたっけ…。
笑ったり怒ったり…死んだりする、造られた人々は…生きていると言わないなら、何と言うんだろうと。
すると、二人が笑ったのが聞こえた。
苦しくて仕方なかったあたしは、どうしようもなくて勢いよく立ち上がり、二人を見下ろして怒鳴ってしまった。
「何で…!何で笑ったりするの!?あたしは…」
その先の言葉は、出てこなかった。
カトルもルーシアも、あたしを真っ直ぐ見つめて、微笑んでいたのだ…。
「馬鹿な奴。…データだから、何なんだよ?…どうして生きてないなんて言うんだ?…リアは、俺と…俺達と、ここで生きてるじゃないか」
「!」
息が詰まる。
「そうだよ。リアちゃん、君がデータだからって、何が変わるの?関係無いよ…俺は、どんなリアちゃんでも大好きだよ」
ルーシアが優しく同意する。
あたしはいつの間にか握り締めていた拳をといて、二人を呆然と見ていた。
あまりにも簡単に、あたしの不安が否定されて、混乱していたのかもしれない。
「ほら、座って。…リアは心配しなくていいの!良かったよ、消えちゃうとか、そういうんじゃないんだろ?」
「それは…うん…」
「すごい落ち込み様だったからねー。おいで、リアちゃん!」
あたしは戸惑いながら、そろそろとソファーに腰を沈めた。
すると、カトルがあたしの背中を抱いて、ルーシアがよしよしと髪を撫でてくれる。
「ほら…リアはここで生きてる」
「リアちゃんはあったかいよー。笑ったり、泣いたりするその気持ちは、リアちゃんのものだよ」
「う…うぅ」
あたしはポロポロと涙を零し、泣きじゃくった。
二人に嫌われなかったこと…データのあたしを受け入れてくれたことが嬉しかった。
…落ち着くと、カトルが言った。
「…それで、俺が探されてたのは何で?」
あたしははっとしてカトルを見た。
魔物の長かもしれないカトル…それでも、あたしは彼を守ると決めたけど…。
もしかしたら、あたしがデータでも関係無いと言ってくれたのは、それと同じ気持ちなのかもしれない。
それに今のカトルを見て、魔物の長だなんて誰が思うだろう。
「…えっとね…魔物の長は生まれ変わったって、兄さんは言ってたの。…それが、カトルだって…」
あたしはカプセルが魔物や長を倒すための力を持っていること、過去に魔物の長が追い詰められたこと、カプセルが子供を作れないこと、長の意識がどこかに飛んだことを説明した。
二人は眉を寄せ、真剣な面持ちで聞いていたけど、あたしが全てを話し終わると困った顔をした。
「ま、まいったねー。カトルが魔物の長?信じられないよー」
「俺…俺が魔物の長…。い、いきなり言われても、全然心当たりが無いんだよな…」
その通りだった。
一緒に旅してきて、そんなそぶりは無かったし…カトルは本当に優しくて…格好よくて…。
あたしはカトルをまじまじと見つめて、ドキドキしてしまった。
すると、カトルは居心地悪そうに身じろいだ。
「…あのさ…二人とも、そんなに上から下まで見ないでもらえると…」
「わ、わぁっ!ごめんなさいっ」
「うわっ、リアちゃ…っわわわ!」
一人でドキドキしていたのが恥ずかしくて飛び離れたあたしは、もろにルーシアに飛び付いた格好になる。
彼はあたしを抱き留めて硬直してしまった。
「きゃあ!ご、ごめんなさいっっ!」
「あーっ!だ、駄目だからな…わ、渡さないからなっ」
あたしが離れようとするのとほぼ同時に、カトルがあたしを引き寄せようとする。
ところがルーシアは何を思ったのか、反対にカトルを引き寄せたのだ!
「んむぁ!?」
あたしはカトルとルーシアに挟まれた格好になってしまう。
な、な、何!?
「言ったでしょー。俺は、カトルも大好きなの!そりゃ、リアちゃん独り占めしたいよー?でも、二人が幸せなのを見ると、俺も幸せなんだからねー。だから、ほら!これで3人幸せだよー」
「ちょ、待てって…ルーシア…く、苦しい」
見えないけど、ルーシアはあたしとカトルをまとめてギューってしてるみたいだ。
あたしは二人に挟まれたままぎゅうぎゅうされて、だんだん頭がくらくらしてしまう。
「う、うぅ…ふ、ふああ…くらくらするうぅ」
「うわぁ!ごめんリアちゃん!?大丈夫!?」
開放されたあたしとカトル。
ルーシアはあたしが無事なのを確認してから笑って言った。
「だから、もう俺のために泣かないでよー?」
ルーシア…。
そういえば兄に襲われた時、あたしはルーシアの気持ちを考えて泣いていたのだ。
カトルはそんなルーシアをぽかんと見ていたけど、意味を理解したのかにっと笑って、ルーシアに拳を突き出した。
「あぁ、わかった」
「約束だよー」
ルーシアはその拳に拳を付き合わせ、もっと笑う。
つられて、あたしも微笑んだ。
「…なんか、二人が仲良しだとあたし嬉しいかも」
「あ、リアちゃんわかるー?ほらほら、俺達こーんなに仲良しだよー?」
「うわ、や、やめろよっ!くっつくなよルーシアっ!」
「あははっ」
じゃれていたカトルとルーシア。
すると、カトルはふと真面目な顔をした。
「…なぁ、俺が魔物の長でさ。…もし、覚醒したら…」
ルーシアはぴたりと動きを止めて、カトルを見た。
「俺を、還してくれよな。…それから、リアを…」
瞬間、ルーシアが掌をカトルに向かって突き出す。
カトルは驚いて言葉を止めた。
「それ以上は言わないこと。俺がカトルを元に戻すよ。だから、そんなことは起こらない」
「ルーシア…」
「俺はカトルより強いからねー?ちょっとくらい痛くても我慢するんだよー?」
「ははっ、あぁ、頑張るよ!…じゃあ、その時は頼むよ、ルーシア」
あたしはそんな二人の関係が、少し羨ましいと思う。
カトルはルーシアにあたしのことを頼むつもりだったんだろうけど、あたしだってカトルを元に戻そうとするんだからね…。
ルーシアみたいに言えなかったけど、心の中でそう呟いてあたしは笑った。
「さて…じゃあまずは何からしようか…お兄さんはわかってくれるかなー?」
「…どうかな…頑固だし。でも…」
あたしは、兄の言葉を思い浮かべた。
『お前は俺の妹だ。データでも何でも構わない。お前と俺は家族だからな…』
「…あたしと家族だって言ってくれてたよね」
あの言葉は…兄の本心だと思う。
兄は自分達は造られたって言って、気持ちは本物なのか?感情と呼べるのか?って聞いてきた。
兄がそれを「造られたもの」と割り切れているのなら、あたしを妹と…家族と呼ぶのは、矛盾している。
つまり、兄も割り切れてないのだ。
「…俺、リアのお兄さんは優しいと思うんだ」
考えていると、突然カトルが言った。
彼は深く腰掛けて腕を組み、どこか遠くを見ている。
「俺に、リアから話を聞いて考えろって言ってくれてたろ?…あれってさ、リアを思ってるから言えるんだよな?」
「そうだねー。リアちゃんの想い人だからこそ…攻撃出来なくなったんだろうね…」
「…うん。だからさ、俺、ちゃんと話してみたいんだ」
カトルはこっちを見ると微笑んだ。
「リアのお兄さんだから…敵になんてしたくないしなっ」
「カトル…。うん、そうだね。まずは兄さんと話してみよう」
兄は別の部屋でダグラスさんやクシィさんと、誰かのことを話していた。
たぶんそれはクシィさんの想い人のことなんだろう。
3人の穏やかな表情から察するに、きっと元気なんだよね。
あたしに気が付いたクシィさんが、手招きをする。
怖ず怖ずと近付くと、クシィさんはあたしの両手を取った。
「彼、元気だって。…良かった…!リアちゃん、やっぱり貴女は私の救世主だったのかな…ありがとう」
嬉しそうな彼女は、本当に本当に綺麗だ。
…あたしは何もしていないけど、クシィさんが嬉しそうなのが嬉しかった。
その気持ちを込めて手を握り返すと、クシィさんはその手を見つめ、静かに微笑んでくれる。
彼女はその後少し視線を巡らせると、意を決したように言った。
「私は、このまま彼に会いに…運命に抗うカプセル達の本拠地へ向かうわ。軍も、私や父を追うでしょうから。おかしいわよね、悪いことなんてしてないのに」
一気にまくし立てた彼女はあたしの手を握る力を強くした。
「だけど、リアちゃんはどうする?…カトルのこと聞いたわ」
「!」
落ち着きはらったクシィさん。
その唐突な問い掛けにあたしはびっくりした。
「え、聞いたって…」
「カトルはカトルよ。魔物の長だったとしても、あんな優しい子が世界を滅ぼすだなんて誰が思う?」
クシィさんやダグラスさんにも話したんだ…。
そう思って兄を見ると、ただあたしを見つめ返してきた。
それがまるであたしにどうするのか聞いてるみたいで、困惑する。
「…と、取り敢えず、兄さんにカトルと話をしてほしくて…」
「そうよね!もっと話したら、カトルがどんな子かわかるわ!ねぇ、私考えたの。私は運命に抗うカプセル達の所で、カトルが絶対覚醒しない薬とか、方法が無いか探そうと思う」
クシィさんはあたしの手を握ったままブンブン振って、笑った。
「今度は私が、救世主になるわ!ね、父さん!」
「……」
ダグラスさんは興味が無さそうにそっぽを向いたけど、ずっとあたしが見ていると、観念したように肩を落とした。
「カトルシアは…エルシアとユリの子だ。あいつらの為であって、お前のためじゃないぞ」
うわぁ、うわあ!
あたしは感動が込み上げてくるのを止められなかった。
カトルは部屋で待ってるけど、聞かせてあげたくて連れて来なかったのを後悔してしまう。
「だ、ダグラスさん…クシィさんん~」
「泣くな、みっともない。…ほら、さっさとカトルシアのとこに行け!」
あたしはうんうんと何度も頷いて、涙を滲ませながら兄に向き直った。
「聞いての通りだよ。カトルはみんなに愛されてる!兄さんもわかると思う。だから、魔物の長としてじゃなく、カトルとしての彼と話してほしいの」
兄は少しの間目を伏せ、やがて言った。
「…そうだな。努力してみる」
「ありがとう…兄さん」
「ふ…理亜、お前なんか変わったな」
「え?」
「強くなったのかもな。…わかった、俺も少し…歩み寄ってみる。ただし、もしもの時は容赦しないから覚悟しておいてくれ」
兄はそう言って、あたしの頭にぽんと手を乗せた。
それは幼い頃から、あたしを気遣う時に彼がしていた行動だ。
「…」
何だか嬉しくなって、あたしは兄に抱き着いてしまった。
「おわっ!理亜、お前もう22だろ!?さすがにどうかと思うぞ」
ぴしゃりと言われて、あたしは膨れた。
「いいの!あたしはいつまでも妹だもん!」
「…はは、そうか。そうだな」
兄は優しく言って体を離し、言った。
「今日は遅いから、もう休め。明日必ずカトルシアと話をするから」
「あ…うん」
「軍の様子は俺が見てきます。お二人も心配しないで休んで下さい。…一応、本拠地までは俺が一緒に行く。理亜達も一緒に来るんだ」
兄の言葉にダグラスさん達は頷いた。
「じゃあ明日、朝迎えにきます」
そう言って出ていこうとする兄を玄関まで見送ると、彼は明日本拠地へ向けて出発し、その道中にカトルと話をすると約束して夜の闇に紛れていった。
あたしはカトルとルーシアにそのことを伝え、シャワーを借りてから部屋に戻り横になる。
…今日はいろんなことがあったな…。
ありすぎて、考えが追い付きそうにない。
でもあたしは兄に会うことが出来た。
それは、あたしがここに来た目的だったんだよね。
だから次にやることは決まってる。
この世界を、カトルを、守ることだ。
あたしは深く息を吸って、ゆっくり吐き出した。
カトルは世界が滅ぶことを心配し、憂いてたよね。
それを、あたしは守ると決めたんだ。
明日から…また頑張らなくちゃね…。
……
…
「理亜っ!」
けたたましい音をたて、兄がドアを開け放つ。
まだ寝ていたあたしは跳び起きた。
「きゃあ!?…っ、兄さん!?」
「最悪なことになった。すぐ出発する、カトルシアとルーシアさんを起こしてこい!」
「え、は、はいっ」
何がなんだかわからないけど、あたしは寝癖もそのままにすぐカトル達の部屋に向かった。
「カトル!ルーシア!」
ドアをノックする間も待てない程の緊迫感に、あたしは遠慮無しに部屋に押し入った。
「どうした!?」
あたし同様に跳ね起きる二人。
窓からは、まだ日が昇らない時の薄明かりが漏れている。
…夜が明けきってない時間なのだ。
「何かあったみたい…すぐ出発だって!」
あたしが言うと、ベッドから降りた二人はすぐに上着をがばっと脱いで着替え始めた。
「…っ!?」
あたしが硬直していると、二人が変な顔をする。
「どうしたリア?」
「リアちゃん…?」
だ、だ、だって!
二人の着替えなんて、目の当たりにしたことないもの!
「い、いきなり上着脱がないでよっ、ば、馬鹿ぁっ!」
逃げるように部屋を出たあたしは、自分の部屋に戻り、留めていた息を吐き出した。
「はぁーっ、もうっ!何であたしが照れなくちゃいけないのよ!」
あたしは誰に言うでもなく文句を言って、自分も着替え始めたのだった。
リビングに皆が集まるまで、10分弱。
兄も皮の袋を抱えていて、すぐに出発出来るようだ。
「…説明は後回しだ。サンドラに進路をとる。急いで」
それだけ言って歩き出そうとした兄を、ダグラスさんが止めた。
「待て。…ここは安全なのか?」
兄は驚いた顔をした後、すぐに察したように頷いた。
「大丈夫です。奥さんに危険はありません。…危険なのはもっと…」
そこで、彼が一瞬カトルを見たのを、あたしは見逃さなかった。
まさか、まだカトルが危険だとでも言うのだろうか?
何か言おうと思って足を踏み出しかけた時、クシィさんが言った。
「なら安心ね。行きましょう、何か差し迫った問題があるんでしょう?」
「…はい」
兄はふいと背を向けて出ていく。
ダグラスさんの奥さんは心配そうにそれを見ていた。
「何だかわからないけど…気をつけるんだよ?ほら。有り合わせだけど食事を持ってお行き。それから薬もいくつか調合しておいたわ」
「ありがとう母さん」
クシィさんがその包みを受け取り、ダグラスさんと連れだって出ていく。
あたしは奥さんに頭を下げ、お礼を言って家を後にした。
ふと気になって振り返った時、昨日は気付かなかった看板が目に留まる。
「クシィ薬草屋」
そっか…庭に生えたたくさんの植物は、みんな薬草なんだ。
部屋に家具が揃っていて宿屋に似ていたのは、ここで治療もしているからなのかもしれない。
薬草の知識をもっと聞いておけたらよかった…。
あたしはそう思いながら街を後にしたのだった。
お読みくださってありがとうございます。
既に書き上がっているお話のため、
順次更新します。
お付き合いいただければ幸いです。




