第八話 謁見
ホールの中央に敷かれた赤い絨毯の上を進むと、重たそうな扉が両側から開かれた。正面には大きな椅子に座る王と思われる男、左右には再びピカピカに磨かれた鎧を纏った王宮隊が並んでいた。王の近くには正装に身を包んだマグナスとその横には赤いドレスを着たアイシャが立っていた。彼女も偉い人物だったのだろうか。
従者は扉の近くで止まり部屋には入らずに下がったようだ。左右の王宮隊に目を向けながら、ぎこちない歩幅で歩みを進める。王に一番近い位置にラークはいた。反対側の大柄な男が王宮隊の隊長だろうか。
「止まれ!」
突然かかった号令に驚き体をビクリと震わす。
「王の御前だ。跪け!」
指示に従い、片膝を床につける。
隊長らしき人物は何か足りないと言わんばかりに咳払いをしたがどうしたらいいかわからない。
「まあよい」
話しだしたのは王だった。
「そなたは何者だ」
「ホープと言います」
少しの沈黙の後に、王は続けた。
「ホープよ、そなたは何者だ」
「俺は――」
自分は一体何者なのか。"遺物漁り"を今後も一人で続けるつもりなのか。身よりもなく家もない。簡単な問いに答えられない自分がいた。
ふと、アイシャが視界に入る。彼女と初めて会った時の会話を思い出した。
「孤児です」
「そうか」
王はさして気にすることもなく続ける。
「腕輪をつけているな」
「はい」
そう言って右腕を前に出した。同時にマグナスが歩み寄ってくる。そして右腕を掴み、聞き取れない言葉で何かを確認するように呟いていた。
「間違いありません。これは本物の"ヨルムンガンドの鍵"です」
マグナスの言葉を聞き王は頷く。そして隊長らしき男に目線を向けた。視線を受けた男は小さく頷き一歩前に出る。
「私は王宮隊隊長、グラッセンだ。いくつか質問がある。まずはその腕輪をどこで手に入れた」
ある程度は正直に答える必要があるはずだ。だがどこまで言っていいのかわからない。
「廃村に寄ったとき気がついたらついていました」
「何故あんな人気のない廃村にいたんだ」
「それは、旅をしていて迷い込んだんです」
「ではあの場に死んでいた盗賊たちは知らないと?」
「…盗賊? なんのことだか――」
会話を遮る程の大きな声を上げたのはマグナスだった。
「王の御前です。本当のことを話しなさい! 争ったどちらかの盗賊の一味なんでしょう。片方の盗賊団は名の知れた賊だと聞きました。それが全員ダガーで殺害されていたとも。あなたの仕業ではないんですか」
マグナスの発言に驚いた。だがこの彼らしくない発言だからこそ意図があると思えた。
盗賊と争ったことはマグナスには話していない。ましてやダガー1本で全滅させたことなど言うわけもない。つまり王宮隊の調査結果を聞いて、そう判断しているということだ。その判断は恐らく王宮隊も同じであろう。この場で嘘をついても無駄だとわからせるために言ったはずだ。
マグナスからの助け船なのだろう。「本当のことを話しなさい」という発言こそが、自分に向けたメッセージなのだ。
自分の中でマグナスのメッセージをそう解釈し、正直に話すことにした。
「はい。おっしゃる通りです。"遺物漁り"として村を探索して発見しました。賊に襲われ咄嗟にバングルをつけて――」
マグナスに目を向けると穏やかな表情でこちらを見ていた。
「それから、脱皮をしました。そしたら何だか分からないですが力が湧いてきて…。その後は仲間を殺した賊を返り討ちにしました」
マグナスは顎に手を当てて考えるような仕草をしていた。
グラッセンが再び話し始める。
「何故王都に来た?」
「呪いを解けるかもしれないと思って」
「腕輪を外したいのか」
別に腕輪が付いて困ったわけではない。気味の悪い力を持っているのが何となく嫌なだけだった。
「ホープ、君はその腕輪の力を知っているのか」
「脱皮して、力が上がるとか?」
グラッセンは少しため息をついたように見えた。
「その腕輪の力は、脱皮による成長ともう1つ――」
「実質的な不老だ」




