第七話 王宮隊の凱旋
大きな魚と動物の肉が盛られた皿が運ばれてくる。その上にはカラフルな草が散りばめられ黒っぽい液体がかけられていた。どれも見たことのない料理だ。
ナイフで削ぎ落とし恐る恐る口に運ぶ。今まで味わったことのない味に思わず目を見開いた。
「うさぎ焼きより、うめぇ…」
マグナスの従者が思わず吹き出す。
「王都の食べ物はどんな料理にも負けませんよ」
バカにされた様な気がして従者を一瞥するが、そんなことよりも腹を満たしたい気持ちが優先されナイフを持った手を動かす。
あの後、従者を付けるという条件で大金を貰い自由に出歩くことを許された。監視されているのは明らかだったが、廃村から金目の物を持ってこなかった俺には願ったり叶ったりだ。
満腹まで飯を食い、革製の装備を整え、武器も新調した。古いダガーは聖堂から少し離れた場所にある墓地の大きな木の根本に刺して置いてきた。そこなら"遺物漁り"の仲間たちがきっと見つけられると思ったからだ。
何日か王都で過ごすと目新しさも無くなった。マグナスから半ば強引に押し付けられた本は、まだ文章が読めず、従者との退屈な文字の勉強にもうんざりして、一刻も早くどこか遠くへ行きたい気持ちになっていた。
その日は市場がざわついていた。店の人に聞くとどうやら王宮隊が帰還するとのことだった。
通りの野次馬に混じり王宮隊を待った。しばらくして現れたのは数週間前に見かけた隊列に間違いなかった。甲冑は多少汚れてはいるものの隊員たちは堂々と歩いていた。改めて見るとほんの20人ほどだろうか、決して大きな隊ではない。だが数週間の遠征のあとにも関わらず、微塵も疲れを見せないその姿は、彼らが心身ともに強いことの現れだ。
見学の目的だった男は隊列の最後尾にいた。さらさらのオレンジの髪が目立つその男は、20代前半くらいの若い隊員だった。街の女たちが騒いでいる様子からどうやら人気があるらしい。
騎馬が前を通り過ぎる瞬間、オレンジ髪の隊員は急にこちらに顔を向けた。険しい表情で俺のいるあたりを睨み何かを探している。驚いたが平静を装い近くの従者に話しかけた。横目でオレンジ髪の隊員が去るのを見て、少しホッとした。
「一番後ろで馬に乗っていた人は?」
「あぁ、ラークですか。見ての通り彼は人気ですよ。あの若さで副隊長を任されるほどですから」
翌朝、宿に兵士が来て従者と会話をしていた。どうやら王宮に召喚されるらしい。使命の事だろう。兵士に連れられ王宮へ向かった。
王宮は聖堂と比べても巨大であったが、まるで遺跡と思えるような古さを感じる。石の壁には動物のような装飾が彫り込まれている。建造物などに詳しくはないがきっと歴史ある建物なんだろう。
そんな古さとは裏腹に、赤い絨毯や金ピカの飾り台など権力や繁栄を象徴するような飾りが多く置かれていた。
「こちらの控室で待たれよ」
兵士は去り、広い部屋で従者と待っているとすぐに勢いよく扉が開かれる。
「間に合いました」
そこにいたのはマグナスだった。
「思ったより早く召喚されてしまいましたね。まだ隊が戻って1日も経っていないので油断していました」
マグナスは息を切らしていた。
「良いですか。王の指令には全て従ってください。ここは交渉の場ではありません。先に結果を伝えると、これからホープさんは『予言の子』と呼ばれる人物と旅に出る事になります。あなたにその旅が出来るかどうかを見極めようと、色々と問われるので、うまく答えてください」
「うまくって。そういうの得意ではないんだけど」
マグナスはこちらの回答を無視するように踵を返し部屋を出ていく。何で無視するのかと思った矢先、その理由を理解した。オレンジ髪の騎士ラークが入れ替わりに入ってきた。
昨日の凱旋で見た時の汚れた実戦向きの兵装とは違い、王宮の中を歩くに相応しい飾り付きの甲冑を着ていた。胸元には勲章のようなものをいくつもぶら下げている。
ラークは表情を変えることなく、こちらへ近付く。
「時間だ。ついて来い」




