第九話 予言の子
不老だと? そんな話は初めて聞いた。マグナスを見ても変わらずに考え事をしている様子だ。老いないとなると、死はどうなるのか。まさか不死になったわけではあるまい。
「呪いを解きたいということだが、司教マグナス。解く方法はあるのだろうか」
マグナスは顎に手を当てたまま答える。
「解く方法も無くはありません。その方法は私たちの目的と共通しています」
「なるほど」
グラッセンは少し考え、
「もしくは死ぬか…だな」
と付け足した。
グラッセンの発言は、こちらの出方によっては殺すとも取れる内容だったが、不安になるどころかホッとしていた。"死ぬことは出来る"のだ、と。
「剣は使えるか?」
グラッセンがおもむろに近づいて手に持っていたショートソードとロングソードを前に差し出す。ダガー以外の武器はほとんど使うことが無かったが仕方なくショートソードを手に取る。
「ラーク。頼んだぞ」
グラッセンが声を掛けるとラークが一歩前に出た。そして腰にかけた剣に手をかけ俺の前に立った。まさか決闘でもするのだろうか。ここで後れを取れば殺されるのか。
「始める前に一つ聞かせてほしい」
剣を抜く前にラークは尋ねた。
「お前、我々と会ったことがあるか」
ドキリとしたが、表情を変えずに少し考えるフリをした。
「昨日の凱旋を街で見ていたので、その時には――」
「いや、もっと前だ」
廃村からの林道での出来事を思い出していた。やはり気付かれていたのか。だが、顔は見られていないはず。
「いえ、会った覚えはないですね」
「廃村から出てどの道を通って王都に来た?」
嫌な質問をしてくる。ひと目見た時から警戒心が強い人物だとは感じていたが、想像以上に鋭い。敵対するには相当厄介な人物なのかもしれない。
「真っ直ぐ林道を通って、でも何度も森の中や川沿いに逸れて休んでいたのでその時にすれ違ったのかも」
「俺たちが林道を通っている前提か…」
ラークは独り言の様につぶやいたが、特に言及することもなく、質問を終えた。
「殺す気で打ち込んでこい。適当なところで止めにする」
そう言いながら長い剣を抜いた。甲冑と同じく刀身が銀色に輝いている。切っ先を真っ直ぐこちらに向けた。力を抜いているが隙のない構えだ。
見様見真似でショートソードを構える。ダガーのように片手で持つには重く、両手で構えるが、しっくりこない。結局片手で持ち上げ肩の上に背負うように構えた。
周りの視線が一気に自分に集中する。
足に力を入れる。普通なら3歩は必要な間合いだが、今の自分なら届くはず。剣は慣れていないがこの力があれば、あわよくば。
小さく切っ先を揺らすラークに向かい飛び掛かる。その速度に乗せて剣を上から叩きつけた。ラークが直前まで動かず表情すら変えないのがよく見える。このまま剣が届く。そう思った瞬間に剣の軌道が変えられた。そしてラークが剣を回したように見えたその直後、俺の持っていたショートソードは床に転がり落ちていた。
何が起きたのかわからず硬直している俺の肩に、ピタリとラークの剣が乗せられる。
直後にラークは自分の剣を納刀した。
「身体能力のみですね。剣はイチから学ばせる必要があります」
それは俺に向けられた言葉ではなく、グラッセンに対しての報告だった。いつの間にか手合いは終わっていたのだ。落ちたショートソードもラークが拾い回収していた。
どうなるのか、そんな心配をよそにグラッセンは少し微笑み、王に向かい「王宮隊への同伴を認める」と報告をした。
それが合格通知だということに気がつくまで少し時間がかかった。
王が再び口を開く。
「ホープよ。そなたに任を命ずる。王宮隊と共に『予言の子 アイシャ』を連れて静寂の孤座にて、継承の儀を執り行え」
アイシャが、"予言の子"だと?
驚きを隠せずにアイシャを見ると、この反応を期待していたかの様にイタズラに笑った。




