第十一話 決着
レッドドラゴンは天に向かって大きな咆哮を轟かせる。大きな牙と、魔力に満ちた邪悪な目がこちらに向けられた。
脱皮によってある程度回復したはずの顔の傷が疼き、全身に戦いの前の緊張感が走る。
体をバネのように縮めて筋肉を固くする。頭を揺らしながら敵の出方を見る。
レッドドラゴンは前足を上げて、勢いよくこちらに叩きつける。
くるりと体を回転させて、後方へ避ける。レッドドラゴンの攻撃で、私が構えていた場所の地面が割れた。その瞬間、レッドドラゴンの首に向けて噛み付く。
レッドドラゴンは瞬時に頭を下げて躱し、そのまま体を回転させながら、尻尾で私の胴体もろとも払い飛ばした。
体を伸縮させて衝撃を和らげるが、体が両断されたかと錯覚するほどの衝撃を感じる。
大きな音を立てながら地面を転がり、体勢を立て直す。レッドドラゴンからは距離が離れてしまった。
その隙を見て、レッドドラゴンは大きく息を吸い込む。急いで回避すると同時に火球が放たれ、私の尾を掠める。
体が焼ける感覚を覚えつつ、地面を這い接近する。
レッドドラゴンは小さく飛翔し、前足を叩きつけるように、私に向かって落下した。
すんでのところで躱しながら左の前足に噛み付く。レッドドラゴンの硬い鱗を突き破り、私の歯が食い込む。
瞬間、レッドドラゴンの咆哮が聞こえ、反対の足で私の体が踏みつけられる。
体が圧力で潰されるのを防ぐように全身の筋肉に力を込める。その時、目の奥から何かが溢れ出るのを感じた。
鼻先を通し、溢れ出るものを解き放つ。レッドドラゴンは再び、大きく吠えて飛び上がった。
足に喰らいついたまま、体が地面を離れるのを感じる。体に力を入れ、飛んでいるレッドドラゴンの首にまとわり付く。空中で暴れるレッドドラゴンから振り落とされないように、じわりと体を巻き付ける。首を締め付けながら、左足に噛み付く牙を抜き、今度はレッドドラゴンの首元に噛み付いた。
力を込めて先程も感じた目の奥から滲み出る物を排出する。口の中に知らない味が広がる。
レッドドラゴンが痙攣をするように震え、やがてその羽ばたきが遅くなり、そのまま私とレッドドラゴンは地面に落下した。
高い位置から地面に叩きつけられ、意識を失う。
どのくらい倒れていたかわからない。
目覚めると、目の前には、血を吐き息絶えるレッドドラゴンが横たわっていた。
体が痛むがどうにか動くことは出来た。
私は横たわるレッドドラゴンの胴体に噛み付きその肉を食べた。味のしない硬い筋肉質な肉を貪る。
魔界の門へ向かうための最後の食事かもしれない。
体に異変を感じた。短期間に何度も脱皮をするのはいつ以来だろうか。そんなことを考えながら、体を捩り皮膚の裂け目を広げる。頭からゆっくりと皮の外に這い出た。
首をもたげ、火山を見渡す。また一回り大きくなった体を実感する。レッドドラゴン以上の魔物はいないはずだ。恐らくもう脱皮することもないだろう。
最後の皮を見つめ、そして火山へと進んだ。
火口から少し下りた先、洞窟のようにぽっかりと空いた穴からその場所へ入っていく。
息をするのも苦しいほどの熱さに耐えながら進んだ先には、石造りの巨大な門がそびえ立っていた。その開かれた重い扉の隙間からは、禍々《まがまが》しい光を放つ魔界の空間が、底知れぬ深淵を覗かせていた。




