第十二話 ホープの旅
はるか昔に聞いたことがある。大きな力を得る代わりに魔物を呼び込んでしまった門があると。
その"魔界の門"と呼ばれる門に今ようやく辿り着いた。初めて見るはずだが、どこか懐かしい気もする。扉の向こうからは緑とも紫とも取れる瘴気のような煙と、光が射し込んでいた。
扉の前でとぐろを巻く。どうすれば良いかはわかっていた。
石の門と扉にゆっくりと体を巻き付ける。ぐるぐると何周も回る。そうしてそのまま体に力を入れていくと、重い扉が大きな音を立てて動きだした。石の扉に体が食い込む。体全体に石の冷たさが伝わる。
周囲の魔力が揺らぎ、収束し、温かいような冷たいような、いくつもの感覚を覚えた。
体から力が抜けていく。恐らくこの体にも魔力が満ちていたのだろう。
世界から魔力が失われるというのがどういうことなのか、改めて今実感した。
門が閉まっていくにつれて、どんどんと意識が遠のいていく。
その時、どこからか小さな声が聞こえた気がした。
それは本当に聞こえているのか、自分の中だけで響いているのかわからない。微かに、だが確実に届いていた。
意識は混濁し、もう誰の声なのか、思い出せない。それでも自分を励まし、応援してくれるその声が大切な誰かであった感覚だけは残っていた。
その声が動かない体を突き動かす。力を振り絞った。
最後の僅かな隙間を塞ぎ、門は大きな音を立てて完全に閉ざされた。
暗闇と静寂が訪れる。
突然、自分の尻尾に冷たいものが走る。体を締め付けられるような強烈な感覚に、失いかけていた意識が少し戻った。
ガリガリと石を擦り合わせたような音と共に、その感覚は体を上ってくる。同時に体の感覚が完全に失われていく。
自分の体が石になっていることを理解した。
私は元々何者だったのだろうか。この使命のために、長い時間、世界をひとり彷徨ってきた。自分を石にしてまで何がしたかったのだろうか。
そんな思いが頭をよぎった。
その時、門の前に3人の少年少女が立っているのが見えた。
1人は、その明るい性格で皆を照らし、繁栄に導いた少女だった。
1人は、素直さと正義感を持ち自由を勝ち取った私の弟子だった。
1人は、運命に囚われず真理を見抜き、勇敢な判断を下した少年だった。
「あぁ、そうか。共に歩んでくれていたのだな」
声を出せているのかどうかもわからない。門の前で微笑む3人の顔を見た途端、涙が溢れてきた。
「アイシャ。レックス。ツェン。――」
溢れ落ちた涙の雫が、地面に跳ねる。
それと同時に門に巻き付いた巨大な蛇は石となり、永遠に動かなくなった。
これは、ある1人の少年が世界を救った物語である。
『蛇になりて』 完
「蛇になりて」をお読み頂きありがとうございます。
10万字を超える長いお話にも関わらず、最後まで読んで頂けてとても嬉しく思います。
私の中でも初めての長編でしたので思い入れも強い作品でした。
新しい作品も少しずつ執筆を進めておりますので、またどこかで皆様とお会い出来ると嬉しいです。
改めて、最後までのお付き合い本当にありがとうございました!




