第四話 王都への道
進んでいた林道の向こうからガラガラとぶっきらぼうな音が聞こえてくる。半ば放心状態で歩いていた俺は、その音で我に返った気がした。すぐ近くの木の上に身を隠す。
何日間歩いていたのかもわからなかった。意識がはっきりしたことで、極度の空腹と疲労を急激に感じる。
少しすると音の主が道を進んでくる。何騎もの騎兵と馬車が連なっている。馬車には旗がついていた。教養のない自分でも見たことのある旗だ。
「あれは王都の騎士団か」
磨かれた銀の甲冑に身を包む騎兵や歩兵達がキビキビと歩いていた。
大きな音を立てて進むその様は何者も恐れないことの現れだ。
「本当に王宮隊が来るなんて、ビックスの聞いた噂は本当だったんだ」
服の袖を捲り、自分の右腕についたバングルを眺めた。王宮隊も、盗賊も、皆が狙っているのはこれに違いない。だが外すことができない。彼らに見つかったらどうなるのだろうか。
その時気配を感じ、息を止めた。隊列の誰かがすぐ近くで立ち止まっている。木の上に隠れてはいるが覗き込まれれば見つかってしまう距離だ。
長く感じたがほんの数十秒だろう。再び馬の足音が聞こえだし、ゆっくりと息を吐いた。
そっと木の陰から下を覗き込むと、肩にかかるほど長いオレンジ髪を揺らす男の横顔が見えた。
通り過ぎた王宮隊が来た方の道を警戒しながら進む。聖堂に行けば誰かから情報が得られるかもしれない。急に重くなった足取りで王都を目指した。
石造りの町並みが眼前に広がる。きれいに整列する白い壁の建物と、道の奥に見える巨大な聖堂が、昨日までとは別世界に来たかのように感じさせる。
王都へ来たのは2度目だった。"遺物漁り"の仲間と、手に入れた宝剣を売りに来たことがあった。その時は夜だったことと、"何かあった時"のために屋根裏からこっそりと立ち会うという役目だったから、王都を堪能する暇なんてなかった。
まずは空腹を満たすために、目についた飯屋で持っていた小銭を払い肉を食べた。ボロボロに汚れた姿が気になったのか、周りの数人の客はこちらを意識しているようだった。
見た目を気にするわけではないが、目立たないに越したことはない。残りのお金を使い、服を新調し、聖堂の裏手の川で水浴びをして着替えた。
古い服を捨て置き、立ち去ろうとした時だった。
「それ大事なの?」
驚き振り返ると、俺と同じくらいの若い女が塀の向こうからこちらを見ていた。
整った長い金色の髪は貴族の高い階級を思わせる姿だった。纏っている麻の服もシンプルではあるが庶民が着る安物には見えない。
「この服は捨てるつもりだ」
「そっちじゃないわよ。その腕輪。水浴びしてる時もつけたままだったでしょう」
ドキッとした。どこの誰かは知らないが、知られない方が良いと思っていた腕輪に早速言及されてしまった。
無意識に腰につけたダガーに手を当てて、グッと構えていると、そんなことを意に介さないように女は続けた。
「もしかして、今話題の呪いの腕輪だったりして」
「え? 呪いの腕輪って?」
思わず食いついてしまった。警戒よりも知りたい気持ちの方が圧倒的に勝っていたからだ。
そしてこの外せないバングルと力の事を考えると、恐らく女の無邪気な予想は合っているはずだ。
女は少し驚いた顔をしていた。
「知らないの? あなた何処から来た人よ」
そう言って塀から離れ、聖堂に向かって歩き出した。
「本物は多分王宮隊が手に入れてるはずよ。世界を救うアイテムだもの」
「なんだよそれ。教えろよ」
「だから教えるからついて来なさいよ」
そう言われ急いで女の後を追った。聖堂に裏手口から入る女を見て、ふとここから先は引き返せないような、そんな気がした。
だが選択肢はない。小さく開かれた木の扉から聖堂に入った。




