第二十話 宮殿の真実
酒場のカウンターの奥から地下の倉庫へと続く階段を下りていく。倉庫は広く、たくさんの物資が置かれていた。
倉庫の奥には小さな木の扉があり、その扉の先は広い洞窟に繋がっていた。
「この町は巨大な鍾乳洞の上に出来てるの。昔、湖の研究をしてた時に知ったのよ。町の人達もほら、あっちに避難してるわ」
ナディアが指差す方には洞窟の広いスペースがあり多くの住民が集まっていた。
住民たちを素通りし、更に奥に進む。洞窟の中にも湖があり、その近くに布が置かれている場所があった。布の上には用途不明な金属製の道具がいくつも並んでいる。
僕は聞くまでもなくナディアのスペースなのだと理解した。
そのスペースでナディアの授業が始まる。
「結論から言うわ。宮殿のお偉いさんたちは人間じゃない。もう魔物に乗っ取られているわ」
「えぇ!?」
僕もファリスも同時に大きな声を出した。
「宮殿は魔物だらけってこと!? 大混乱じゃないか」
「表向きは違うのよ。人間に擬態できる魔物がいるの。魔人とでも名付けましょうか」
焦る僕をたしなめるように手をひらひらとさせ、ナディアは話を続ける。
「宮殿側にもまだ人間はいたわ。入り混じっているのよ。でも国の中枢を担う役職や、軍のトップの人たちはことごとく魔人だった」
「どうやって見分けた?」
堪らずファリスが口を挟む。
ナディアは振り返り、ガチャガチャと何かを探し始めた。そして2つのレンズが付いたゴーグルの様な古い遺物を持ち上げた。
「これよ」
そう言いながらナディアはそれを自分の頭に装着する。目のレンズ部分は薄い緑色に光を反射させていた。
「まさか、それをつけて出歩いていたの?」
ナディアはゴーグルをつけたまま僕を睨みつけた。
「そうよ! 何か文句でもあるのかしら?」
そう言ってナディアは硬直した。
「あなた…。レックス?」
「そうだけど…」
ナディアが座り直して説明をする。
「この遺物はね。魔物の持つ力が見えるのよ。私は魔力と呼んでいるわ。今までは魔力の有無で人間と魔人を判断していたんだけど…。あなたのその魔力。人間?」
ファリスが納得したように少し笑った。
「レックスはもう人間じゃないぞ」
「おい!」
「どういうこと。ちゃんと説明して」
ナディアに儀式の話と、精霊ジンの力の話を共有した。代わりにナディアから宮殿で確認したことや、魔物に乗っ取られた町や、軍の部隊の情報を聞いた。
「そんな。俺たちの隊は間違いなく皆人間だったぞ」
「あなたたちはそうでしょう。階級の高い人たちが取って代わられているようね」
動揺するファリスにナディアは続けた。
「でもだからこそまだ希望があるわ。各地に散らばっている軍の兵隊は人間なの。彼らにこの事実を周知して味方してもらうの」
理屈は分かるが頭がついていかない。一体誰がどうやって説得して、その軍を率いるのか。
そう考えた時に、それをやってのける人物の顔がふと浮かんだ。そんなことをできるのは一人しかいない。
「ナディア、師匠なら出来るかもしれない」
だが思いに反して、ナディアは首を横に振った。
「魔人の話をするのに、見た目が魔物みたいな"鱗の騎士"にはこの役は合わないわ」
「じゃあどうするつもりなの?」
ナディアはファリスと目を合わせた。ファリスは理解して頷く。
2人の視線がこちらを向いた。
「あなたがやるのよ。"予言の子"レックス」




