第十八話 新たな船出
師匠との旅を終え、半月が経った頃、街には妙な噂が広まっていた。
僕は砂船に荷物を乗せて、それに飛び乗る。
「親父さんは置いてきて良かったのか?」
「大丈夫です。すぐ戻りますし。それに師匠が行ってしまう前に急がなくては」
ファリスの気遣いに感謝しつつも、出発を急いだ。砂船の帆が大きく膨らみ、少しずつ砂の上を滑り出す。1つ目の丘を越えたところで、船は一気に加速した。
「歓楽の街は軍も多いぞ。どうする気だ?」
「必要とあらば斬り伏せますよ」
ファリスは茶化すように、ひゅぅと口笛を吹いた。
師匠はこの地でやるべきことが終わり、遥か遠い大地を目指して旅立つとのことだった。僕はその地を感覚としては知っていたので、向かうとなったらもう会えないと思っていた。
師匠の旅の目的を理解しているので仕方ないことと受け入れていたが、バザールで最近の宮殿の横暴を聞き状況が変わった。今度はこちらの都合で師匠に手助けをしてもらおうと考えたのだ。
僕らの読みが正しければ魔物の制圧にも繋がることであるため、師匠にとっても有意義なはずだ。
ナディアに約束させられた、地図と遺物を届ける為に、師匠は1人歓楽の街に向かっていた。順調に行けばもうとっくに到着しているだろう。
「それにしても砂船は快適で良いな。最初からジンの力があれば、"彷徨える回廊"もあっという間に見つかったろうな」
ファリスは船の進む先を眺めながら、そんなことを呟いていた。
ジンの力は強力だった。強く念じることで、風を起こし、炎を発生させる。反動なのか体力を激しく消耗するが、見返りとしては十分だった。
歓楽の街に近付くにつれて、周囲に砂塵が立ち込め始めた。
「何かが、います」
船の周りを注視する。砂上を高速で移動する船と並走するように、砂が盛り上がる。突如、そこから巨大な魚が飛び出してきた。
船に向かって飛んでくる魚を咄嗟に剣で弾く。船にぶつけないように何とか受け流すが、自分と同じくらいの大きさの魚は重たく、弾いた反動で船に倒れ込んだ。
ファリスは魚を躱しながら剣を突き刺す。魚は叫びながら船を飛び越え、砂の上に叩きつけられた。胴体には剣が刺さったままだった。
「俺の剣が…」
「また来ます!」
ファリスは剣の代わりに船のオールを持つ。僕は剣を構えつつも帆を引き、船を旋回させた。
飛び込んでくる魚は船を掠める。
進行方向に岩場が見えた。
「ファリス、あの岩場に向かいます」
ファリスはオールで魚をはたき落としながら、ため息をついた。
「速度は落としてくれよ」
その願いも虚しく、船は速度を保ったまま岩場に突入する。ガタガタと揺れ、そのまま岩の上を滑りながら船は横倒しになった。辺りには積み荷が散らばっている。
「早く、岩の後ろに!」
2人で岩陰に隠れるのとほぼ同時に複数の魚が岩に打ち上げられた。ほとんどが岩に激突し、のたうち回っている。
倒れた魚たちをよく見ると、細長い口には鋭い牙が並んでいた。そして、小さな後ろ足のようなものが生えている。それはまるでカエルになりかけのおたまじゃくしのような姿だった。
急いで魚の方へ駆け寄り、頭を剣で切り落とす。ファリスもそれを見てオールで魚たちをぶちのめしていた。
止めが間に合わずに2匹の魚が起き上がる。そして口を大きく開け威嚇してきた。
「陸に上がっちまえば魚なんか怖くない」
ファリスはオールで魚の横っ面に一撃を入れる。魚は倒れバタバタと苦しみそのまま息絶えた。その光景を見た残りの1匹は、逃げるように砂に潜っていった。
「この魚って魔物だろう。どうしてこんなところに魔物がいるんだ?」
「わかりません。何か良からぬことが起きてるのかもしれません」
岩場から歓楽の街の方面を眺める。遠くの空は薄暗い砂嵐に包まれていた。




