第十二話 巣食うもの
砂埃が舞う中、柩を飛び移り崖の上に辿り着く。
「早く離れるぞ。あいつはまだ死んじゃいない」
師匠の言葉を受け、遺跡を離れる。無敵だと思っていた師匠と対等以上に戦える人がいた事にショックを受けていた。
「あいつは一体誰だったんでしょうか」
「は? 知らないの? どう見てもラシュバル将軍じゃない」
「宮殿に仕える軍のトップだ。今の俺に渡り合える人間がいるとは驚いた」
遺跡の外には、敵兵たちが乗ってきたと思われる3頭の馬が、繋がれていた。僕たちは馬に乗って移動をする。
小さなオアシスに着いたのは数日後だった。商人や旅の人で賑わっていた。
水などの物資を補給し、岩場で夜を迎える。
ナディアが、ふと立ち上がる。
「決めたわ。私宮殿に行ってくる」
僕と師匠は同時にナディアを見る。
「短い期間だったけど、あなたたちが《《そこそこ》》良い人ってことはわかったわ。その目的もね。でもそうなると、"鱗の騎士"に対する対応や"予言の子"の伝承と矛盾するの。つまり宮殿の言ってることがおかしいって事になる」
小声で「私の中ではね」と付け足した。
「宮殿が歴史改変をしてるとしたら大ごとだわ。だから私が調べてくる。もしかしたら裏で操ってる奴がいるのかも」
「一人で行くなんて危ないよ。一緒に行こう」
「一人だから良いんじゃない。あんたたちが宮殿に近づいたら、衛兵に捕まってビンタされて牢屋に入れられて蹴っ飛ばされた後に処刑されるわよ」
師匠はどうでもいいといった様子で、捕まえたサソリを串刺しにして焚き火で焼いていた。
「だから私一人で行くわ」
何を言ってもナディアを止めることは出来なかった。彼女は物資を半分持ってあっという間に旅立ってしまった。
「師匠。行かせて良かったんですか?」
「むしろついて来ない方が安全だ。それに――」
師匠は地面に突き刺した折れたショートソードを見つめていた。
「数年前から宮殿の様子がおかしいことは間違いない。使命が無ければ俺が調査しているところだ」
ひと月かけてようやく東の神殿の跡地を見つけたが、東の遺跡は損壊が酷く、全てが砂に埋もれていた。ところどころ砂から顔を出す柱を数日かけて辛うじて見つけたが、それ以上の収穫は無かった。
「仕方ない。最後の神殿を目指そう」
僕らがナディアと別れて2ヶ月が経つ頃、4つの神殿の最後となる、北の遺跡がようやく見えてきた。周辺の遺跡群も残っており、神殿の付近には、元々町があったようにさえ思えるほどだ。
「砂の流れが急だ。流されるなよ」
この辺りは乾燥が進んでおり岩場もほとんど無い砂砂漠だった。丘のように盛り上がった砂の山が多く、その表面は生きているかのように、常に砂が流れている。
流れる砂の一部を見つめていた。まるで周囲の砂が集まる様な箇所がある。やがてその砂を吸い込む点は移動し、近づいているように思える。
「師匠!」
吹き荒れる砂塵で数歩前を歩く師匠へも声が届かない。
いつの間にこんなに風が吹き荒れていたのか。何かがまずい気がする。
その時、足元の砂が爆ぜる。そして自分の足元の砂中から巨大なワームが姿を現した。
警戒が一歩遅れた。砂の上を転がり、体勢を立て直す。目の前のワームは、砂から出ている部分だけでも自分の身長の3倍はある。目は見当たらないが口は大きく、間違いなく僕をひと飲みに出来るだろう。
ワームが僕に襲いかかる。間一髪のところで、躱したが、次の瞬間体が後方に引っ張られる。振り向くとワームはその歯で僕の荷物に食らいついていた。荷物ごと持ち上げられ、ワームは地面へ身体を引っ込める。
何が何だか分からないまま、砂に飲まれる。息が出来ない。砂の中を埋もれていく感覚だけが続く。何も見えない。自分がどの方向に進んでいるのかも分からない。
突如、僕は硬い場所に叩きつけられて意識を失った。
僕はどこかで目が覚める。視界はあるが痛みで体が動かない。どうにか首を動かし、辺りを見渡す。見たことのない薄暗い場所にいた。
頭上には炎の光が揺らめいている。地面に映る炎の揺らめきと、背中に感じるその暖かさで安心したのか、僕は再び眠りについた。




