第十一話 神殿の死闘
赤いマントの男は迷うことなくこちらに歩み寄る。そして左手に持ったランタンを近くの柩の上に置き、長い剣を抜刀した。
師匠が前に出る。狭い空間ということもあってか、大剣ではなくショートソードを抜いた。
「あいつは俺が相手をする。他の奴らに警戒しろ」
そう言われ周囲を見渡す。マントの男の後ろ、暗闇に紛れて2人の人物が物陰に身を隠すのが見えた。
剣を抜き構える。ナディアはいそいそと台座の後ろに隠れていた。
広場に大きな金属音が響き渡る。師匠とマントの男が鍔迫り合いになっていた。
師匠と対等に戦える相手は初めてだった。男は長い剣を使っているとは思えない素早い動きで斬撃を叩き込む。師匠は受けにまわっていた。
戦いに見惚れていると、近くの物陰から気配を感じる。剣に反射したランタンの光がちらりと見え、体を横に躱す。背後の壁にナイフが突き刺さった。
相手は複数ということを考えると、守勢にまわるのは得策ではない。ナイフが飛んできた方向へ、ダッシュで駆け寄る。その場を離れようとする人影に剣を振るう。剣は受け流されたが、その勢いで人影は後ろに倒れた。すかさず追撃する。相手のダガーによる反撃が見える。わざとすんでのところで躱し、空振りした相手の脇腹に剣を突き刺す。
剣を引き抜くと同時に相手は床に倒れ込む。その瞬間、引き抜いた剣が強い力で引っ張られた。
剣を見ると、鉄球のついた鎖が巻きつけられている。その先には顔を布で覆った兵士が鎖を引っ張る姿があった。
剣を奪われない様に踏ん張る。だが相手の力が強くだんだんと体ごと引き寄せられていく。あと3歩という距離まで迫る。鎖を引く相手の片手にはダガーが握られている。剣を使えない状態でどう対処するかに頭を巡らせる。
その時、相手の足元にカラカラと奇妙な模様の入った金属の球体が転がって来る。危険な予感に、剣を手放し後方に伏せた。
それと同時にパンッという小さな爆発音が聞こえ、バラバラと何かが飛び散る音がする。振り返ると兵士の全身に、無数の金属の杭の様な物が突き刺さっていた。兵士は叫び声を上げ、胸や顔に刺さる杭を抜く。足元には僕の剣が転がっていた。
足元の剣を拾い上げ、そのまま床を滑るように兵士に接近する。兵士がダガーを拾うよりも早く、その喉元に剣を突き刺した。
倒れる兵士を横目に台座の方を見ると、ナディアが興味津々な顔で台座の横から顔を出していた。
「うまくいくもんだねぇ」
「先に言っておいてよ。避けなかったら僕にも当たってたよ」
「まあでも結果避けられたわけだし」
呑気に笑いかけるナディアに呆れながらも窮地を脱したのは間違いなかったのでお礼を言う。
ドスンという音が聞こえ振り返ると、師匠が壁にぶつかるところだった。押されている師匠に駆け寄ろうとする。
「来るな。お前はやるべきことをやれ!」
師匠の指示に従い、台座へ走る。
「何? 何する気なの?」
「良いから少し離れてて!」
好奇心が最高潮に高まっているナディアを引き離し、台座の上の球体に触れた。その瞬間球体が強く光り出す。
「信じられない…」
「気をつけて、罠が発動するかもしれない」
柩を見渡す。開いて石像が飛び出して来るかもしれないと思い、剣を構える。ナディアも隣で警戒していた。
ゴゴゴゴと低い地鳴りが響き始める。やがて地鳴りは大きくなり立っている足場も揺れ始めた。壁や柱もボロボロと崩れ始め、潰されない様にナディアを守りながら安全を確保する。
ランタンが地面に落ちて割れ、そのまま砂と共に地面に吸い込まれる。
「何よこれ。毎回こんなことしてんの?」
「知らないよ。前はこんなんじゃなかった!」
遺跡の崩壊などお構いなしに、台座の上の球体は光り輝いていた。
「床よ!」
ナディアの声に、地面を見ると、床が崩れ落ち始めていた。台座まで下がるも、周囲の地面も次々に崩壊していく。
「レックス。あれ!」
ナディアの指差す方には、何もない。
「柩よ。あの柩。動いてないわ」
他の柩が揺れたり崩れたりする中、固定されたように動かない柩があった。
「僕が先に行く!」
そう言って崩れた穴を飛び越え、柩に飛び乗った。ナディアの方へ手を差し出す。思いっきりジャンプをしたナディアだが、跳ぶ瞬間足元が崩れ、あと一歩届かない。
体を乗り出して、落ちそうになるナディアの手を辛うじて掴んだ。
「はぁ、はぁ、貸し借りはまだ私がプラスよね?」
天井も崩壊が進み、暗かった周辺に光が差し込む。師匠とマントの男は柩の上を飛び移りながら戦っていたが、崩壊が進み2人の乗る柩の距離が開く。師匠はいつの間にか折れていた剣をしまった。
マントの男が、何か悪態をつく。男の乗っていた柩が崩れ落ち、男は師匠を見つめながら砂に飲まれていった。




