第十話 南の神殿
大きな鞄に見たことのある道具や、見たことのない道具を一通り詰め込んでいた。そして丸めた地図を渡され、僕はそれを手に持つ。
階段の下には服屋の店主が待っていた。
「ハリド、本は渡せたのかい」
僕が答える前にナディアが応じる。
「誰それ? レックスよ。私レックスと出かけるからしばらく家を空けるね」
「えぇ。急にどこに行くんだ?」
「太古の遺跡の謎を解いてくるわ」
ナディアは止める父を振り払い家を離れた。
少し離れた位置に師匠が待っていた。
「その子がナディアか?」
「うん。地図を見せてもらう代わりに、ついて来たいって言うんだけど。だめかな?」
布の隙間から見える師匠の目は変わらないが、明らかに怒っているのが伝わる。
「レックス。お前は遺跡の探索をお散歩か何かと思っているのか?」
なんて答えたら良いか迷っているところにナディアが割って入った。
「古代文字が読めるから偉そうにしてるのかわからないけど、私無しで難しい古代の地図を読み解けるのかしら?」
師匠が僕を睨む。ナディアは構わず続けた。
「それにどうやらここにいるレックス君は"災厄の王"の転生者みたいじゃない。私の地図を使って災いを起こさないかどうかを見張る義務が、私にはあると思いますの」
師匠が更に僕を睨んだ。
「何故話したんだ!」
「遺跡に辿り着くためと思い…」
「軽率だと思わないのか?」
師匠が大きくため息をついた。にこやかなナディアと師匠が睨み合う。
どうしようかと悩んでいると、ふと視線を感じた。後方を振り返る。
「師匠、剣を」
「感じたか、レックス」
師匠から武器を受け取る。
恐らく複数人に囲まれている。
「ナディアと言ったな。走れるか」
「体力には自信があるわ」
「街の入り口はだめだ。俺の後ろのテントを突き破るぞ」
師匠の合図で走り出す。その瞬間、数名の兵士たちが追ってきた。師匠が行商のテントを破り、道を作る。僕に続いてナディアも抜けた。
「あっちじゃ!」
街の入り口方向には、杖をついた情報屋の老人がいて兵士たちを誘導している。どうやら情報屋の老人に売られたようだ。
街を出てもなお、兵士たちが追跡してくる。
「あの岩場まで走るぞ」
「ちょっと待って。走るってそのレベル!?」
泣き言を言うナディアの荷物を、師匠がヒョイと取り上げる。
「これで少しは走れるか?」
苛立ちからか、声にならない叫びを出しながらナディアは走った。
「結局斬るなら最初からそうすれば良いじゃないの」
「あの場で戦ったら10倍の兵士を斬る必要があっただろう」
岩場に着いた後も、2人は言い争っていた。
「ここから目指すなら南の神殿か」
「良いけど、この神殿は街も近いわ。軍があなた達の目的を察してるなら兵士を配備してるでしょうね」
「構わん。行くぞ」
「あのねぇ…」
ナディアが言いかけて止まる。師匠の顔をじっと見ていた。
「レックス。あなたわざと嘘をついたの?」
何のことかわからなかった。
「40歳くらいですって。とんでもない。この人"鱗の騎士"じゃないの。本物なら300歳近いはずよ」
「えぇ!? 300歳?」
「正確には297歳だ」
師匠は大した話題ではないように答える。
「師匠、どういうことですか?」
師匠は袖を捲り腕を前に出す。そこには腕輪が巻かれていた。腕輪からは活力が感じられる。
「これは"ヨルムンガンドの鍵"と呼ばれる呪いだ。これのせいで俺は不老になった」
師匠の顔は少し寂しそうに見えた。
ナディアは腕輪にたいそう興味を示したものの、それ以上何かを聞こうとはしなかった。
予想の通り、南の神殿の遺跡には兵士が配備されていたが、難なく打ち破り周辺を探索する。屋根などは無いものの、西の神殿とは異なり、建物の土台はしっかりと残っていた。
「こっちだ」
師匠に続き、地下へ続く階段を下る。階段を降りた先は暗い。師匠がランタンに火を点ける。
そこには石の柩が等間隔で並べられていた。天井までの高さはあるものの、壁や柱が立ち並び、空間が狭く感じられる。
腰の剣に手を添えて、ゆっくりと歩みを進める。ナディアは壁や柩に刻まれた模様をキョロキョロと眺めながらついてくる。
師匠が立ち止まる。目の前の祭壇には、見覚えのある台座と置物が置かれていた。
「南の神殿は体を宿す、か」
その時、背後から階段を降りる重たい足音が聞こえる。3人が同時に振り返る。
暗がりの中、階段を照らすランタンの光が徐々に大きくなる。下りてきたのは、大きなマントを纏った大柄の兵士だった。




