第八話 潜入
杖を持つ老人の宿に案内される。表の華やかさとは打って変わって、内装は適当な土壁で囲まれた雑な造りの部屋だった。
「お前さん、噂の騎士だな。お前さんにかかる賞金を貰えるのが一番儲かるんだがね」
「大したものは求めない。この辺りで地図を持っているやつを知っているか?」
「地図ね。心当たりはあるな。それじゃあ対価として宮殿を落として来てくれ」
「え?」
要求にあからさまに驚くと、老人は「へっへっへ」と笑った。
師匠は気にせず続ける。
「軍に手を焼いているか?」
「まあな、だがそれはいい。1つ頼まれてくれ。街の外れの行商が頼まれ事をしたのに金を払わねぇ。払わないと碌なことにならないと伝えてきてくれ」
場所を聞き、師匠と向かう。
「お前は離れたところで見張っておけ」
そう言われ師匠のやり取りを見守った。師匠が一言二言話すと、行商は怯えてお金を出した様だった。
見張りとは言われたが、恐らく僕がいると迫力に欠けるからだろうと思った。
「仕事が早いな。良いだろう。服屋の2階に変わり者の女がいる。骨董品を集めてるが古い地図も持っていたはずだ」
老人は瓶のまま酒を飲みながら、受け取った金を数えていた。そのままこちらに興味を示すことはなかった。
街の外で朝を待ち、服屋を訪れた。師匠が2階へ上がろうとするも、店主に止められる。
「そこから先は店じゃねぇ。勝手に入るんじゃねぇよ」
「上の女に用がある」
「あ? 上には娘のナディアしかいないぞ。お前なんかが用があるわけないだろう」
旗色が悪いので僕は通行人のフリをして、通り過ぎた。
店から離れたところで待つと師匠が歩いてくる。
「何故離れた?」
「僕なら説得出来るかもと思いまして。師匠、本を1冊買ってもらっても良いですか?」
師匠に武器を預けて、服屋を訪れた。無愛想に挨拶する店主の元へ近づく。
「ナディアさんに頼まれて、本を持ってきたんですけど。これで間違いないでしょうか?」
「ん? あんた見ない顔だが誰だ」
「ハリドです。お父様とも一度お会いしたことがありますが忘れてしまいましたか?」
「あぁ、ハリドか…。会ったのはだいぶ前だったか」
咄嗟にお父の友人の名前を出してしまったが、問題なさそうな反応だった。
「この本なんですけど」
「いや、本のことはわからねぇからナディアに直接聞いてくれ」
駄目で元々だったが思いがけず上手く行ってしまった。恐る恐る階段を登る。
2階には2つの部屋があったが、片方は扉が開かれ誰もいないのが見えた。
閉じられた扉を叩く。
「はーい。開いてるでしょう」
中から聞こえたのは若い女の声だった。その返事を聞いて急に緊張が高まった。師匠のように上手く立ち回れる気がしない。何故こんなことをすると自分から提案してしまったのかと後悔した。だがもう引き返すわけにもいかなかった。
意を決して扉を開ける。
扉の先の狭い部屋には見たこともない道具が、ところ狭しと並べられていた。そしてその奥の机に、細い工具を使い金属の箱を弄っている髪の長い女性がいた。
女性は手に持っていた物を大事そうに机に置き、こちらに向き直る。年齢は僕と同じくらいに見えた。鋭い視線だが目は大きく、不満気に小さな口を尖らせている。
「で、あんた一体誰なの?」




