第七話 歓楽の街
最後の石像の攻撃を躱し、頭部に剣をねじ込む。ギリギリと音を立てた石像はそのまま崩れ落ちた。
石像を倒せたものの、不注意による落下や、勝手に置物に触れて罠を発動させた事など、叱られる要素はてんこ盛りだった。
恐る恐る師匠を見る。だが予想に反して、師匠の目は台座に釘付けだった。
「西の神殿は力を宿す。4つの神殿が交わる場所に、風の神殿は存在し、王の力により導かれる」
「師匠、これ読めるんですか?」
「ああ。昔、嫌というほど勉強させられた。それより、この"遺物"。何か感じるか」
台座の上の光り輝く置物を見る。吸い込まれる様な力を感じる。
「魔力が備わっていそうとかですか?」
「恐らく、"予言の子"にしか感じられない何かがあるはずだ」
遺跡をあとにした僕たちは、他の神殿の跡地を探す。遺跡の情報は大きな街にはあると考えた。ここから最も近い街、歓楽の街へ向かった。
1つのオアシスを経由し、歓楽の街へ辿り着いたのは2週間が経った頃だった。
「これは、凄い!」
街中にランタンが灯され、夜だというのに通りは多くの人で賑わっていた。
「離れるなよ」
顔を布で覆い街を進む。ちらちらと軍隊の姿が見えたが、皆酔っているのかこちらを気にする人はいなかった。
その時、突然腕を掴まれる。
「お兄さん、若いわね。こっちで遊んでいかない?」
驚いて振り向くと、肌を露出した女が近くのテントに引き込もうと腕を引っ張っていた。
「え、いや。僕は――」
「俺の連れだ。失せろ」
師匠が女の手を振り払う。女はべーっと舌を出し手をヒラヒラさせてまた別の男に声をかけた。
「構うな。行くぞ」
理由はわからないが、全身に汗をかいていた。師匠に助けられホッとする。
入ったのは大衆向けの飯屋だった。飯屋と言っても多くの客は、酒を飲み大声で話しているので酒場に近いのかもしれない。
客は20人くらいはいるだろうか。中には軍の兵隊も座っている。師匠はカウンターに座ったので、横に座った。
「堂々としていろ」
周りを確認しようと思っていたところ、先に釘を刺された。
店主が何も言わずに近づく。
「エールと水。それから肉料理だ」
店主は何も言わずに立ち去る。
師匠は僕の方へ向き直る。師匠と目が合うと、視線はこちらにあるが意識は店内に向いているのがわかる。なるほどと思い、体を師匠の方へ向けた。
僕の視界の先にはカウンターに1人、後ろのテーブル席に2人組が2組。カウンターの男はこちらをチラチラ気にしているようだった。
ゴトンと水とエールが置かれる。師匠はエールを一口飲み、大きくため息をついた。
「故郷が恋しいか」
「うーん、お父には会いたいです。でも師匠との旅は新鮮で正直楽しいって感じます。だから今はまだ故郷へ帰りたいとは思わないです」
「そうか」
師匠の表情は変わらなかったが、何となく笑っているように思えた。
店主により肉料理が運ばれてくる。なんの肉かわからないが、大きな塊肉の丸焼きの様だ。
師匠はそれをナイフで切り取り、そのまま口に運んだ。
「さっさと食っておけ。いつ店を出ることになるかわからんぞ」
言われる通りに急いで肉に食らいつく。
奥のテーブル1組が店を出た。師匠がエールを飲み干し、追加で注文をする。
「振り向くなよ」
師匠に言われ、意味はわからなかったが従う。2杯目のエールを持ってきた店主に向かい師匠が尋ねた。
「賞金首の情報はあるか?」
エールを持った店主の動きが止まる。そして、店主は入り口の方へ視線をやった。そのまま酒を置き、何も言わずに店主は元の仕事に戻った。
ようやく師匠の指示が理解できた。そして急いで水と肉を頬張る。
その直後、案の定師匠は席を立った。
「行くぞ」
どうにか食べきって後を追う。
大きな杖をついた男が、店から出ようとするところだった。店の外に出た瞬間に師匠が問いかける。
「あんた情報通だろう。金になる仕事をこなす代わりに教えて欲しいことがある」
杖の男は振り返り師匠の顔をまじまじと見た。
「ほうほう、なるほど…。良いだろう。ついて来い」




