第六話 遺跡の罠
「あの岩陰に2人。手前に1人かな」
「俺が引きつける。手前の1人を任せる」
言い終わるやいなや、師匠は隠れていた遺跡の残骸の陰から素早く飛び出し、岩場へ向かう。僕はタイミングを見計らい、別の方向に走り出す。岩陰から兵士が飛び出し、師匠は囲まれるが、振り向くことなく、奥の2人に斬りかかる。それに合わせて、手前の1人の兵士を背後から斬り伏せた。
師匠が戻り、僕が斬り伏せた兵士に止めを刺す。
「位置が浅い。もう一歩溜めを作れ」
「はい」
師匠と旅に出てから3ヶ月が経とうとしていた。僕らが目指すのは幻の神殿とも呼ばれた、"彷徨える回廊"だ。遥か遠くの砂漠に現れるとの噂があったが、日々形の変わる砂漠で目印もない神殿を見つけるのは困難な事だった。
「この遺跡で休もう」
兵士が陣取っていた遺跡へと足を運ぶ。兵士たちが保管していた物資を漁り、調達した干し肉を食べた。
何か使えるものは無いかと、遺跡の奥に進む。遺跡はほとんど砂に埋まっており、目ぼしいものは見つからない。戻ろうとしたその時、柱の間の裂け目から砂が流れ落ちていくのが見えた。
砂の流れる先を覗く。暗いが柱の下に空間がある様に見えた。
「師匠。この先に降りられる場所がありそうです」
師匠は、注意深く覗き込む。
「なるほど、このあたりの遺跡は"彷徨える回廊"とも近いはずだ。見つけるためのヒントがあるかもしれない」
師匠はロープにランタンを結びつけ、柱の隙間からゆっくりと下ろしていく。一緒にそれを覗き込んだ。ランタンが照らす空間は想像以上に広い。
奥を覗き込もうとした時、地面の砂が一気に流れ落ちた。足が取られる。
「おい。レックス!」
咄嗟に目の前のロープに掴まる。その勢いでロープは急激に引っ張られ体ごと隙間に落ちていく。
床に落ちる少し手前でロープは止まった。
恐る恐る、上を見上げる。
「不注意にもほどがあるぞ」
師匠の声が空間にこだました。
「すいません。でも何かあるみたいです。確認してみます」
そう言って、ランタンを拾い上げる。地面に落ちていたが幸い割れてはいなかった。ロープからランタンを外し、中を歩いた。
そこは想像以上に広い空間だった。祭壇が見えるので、大勢が集まって儀式でもするような場所だったのだろうか。壁には壁画のような模様がそこかしこに描かれ、兵隊を模した石像が等間隔で並べられていた。
ゆっくりと辺りを照らしながら奥の祭壇へと歩み寄る。祭壇の上には石の台座が置かれている。
「これは、文字?」
台座の周りには見たこともない文字が描かれていた。そして、台座の上には大きな皿に乗せられた、丸い置物が置かれている。危険なものには見えない。
そっと置物に触れた瞬間、球体の置物が激しく光りだした。
「うわ、なんだこれ!?」
その時、周囲の壁からガラガラと音がする。ランタンを向けると並んでいた石像の表面が割れて石が剥がれ落ちていた。そして、石像の目や甲冑の隙間からほのかな光が溢れている。
「嘘でしょう…」
遠くから師匠の声が空間に響く。
「大丈夫か! 何かあったか!?」
「石を触ったら、光って。そしたら石像が割れて。動いていて。よくわかりません!」
歩み寄ってくる石像を見て、ランタンを置き剣を構える。左右を見渡すと、6体の石像がこちらへ向かっていた。
「えっと、まずは囲まれない様に」
幸い石像の動きは速くない。間を駆け抜ければ通れるはず。
入って来た穴の方向に走り出す。それに応じて、2体の石像が持っていた剣を振り上げる。まずい。
急いで足を踏ん張り、前進を止める。石像の振るった剣が前髪を掠めた。
のそのそ移動しているが、踏み込みや剣のスピードは相当素早い。
通り抜けられないのであればとりあえず1体から。近くの石像1体の正面に立ち、剣を構える。半身になり剣を左右に揺らす。
「流れるように。力を抜いて」
師匠の教えを小さく唱え、素早く石像へ飛び込む。大きな剣が自分に向けて振り下ろされる。切っ先で剣を横に流し、剣をぐるりと回す。石像の剣を弾き落とそうとしたが、剣は硬い手首に当たり、回しきれない。
「あれ?」
不測の事態で体勢を崩す。石像が振り向き、横薙ぎに剣を振る。すんでのところでしゃがんで躱し、返し刀で胴体に斬撃を叩き込む。
激しい金属音が響き、剣は弾かれた。
「まずい」
転がりながら元いた位置へ飛び退く。
これ倒せるのか。
「後ろだ!」
師匠の声に反応し、後方から接近していた石像の攻撃を躱す。咄嗟に剣を振ると、石像の腕の付け根の光が漏れていた場所に突き刺さる。グッと踏み込み力を込めると、石像の右腕はドスンと音を立てて床に落ちた。
石像の仕組みを理解した瞬間、後ろから音が聞こえる。振り返ると、2体の石像を師匠が斬り伏せたところだった。




