第二話 恩人の剣
サンドバードたちに身を任せて走り去ったので軍隊から遠ざかることは出来たが、自分たちの場所は見失っていた。
「たまたま通りかかってくれて助かったよ」
自分の胴体ほどある大きな頭を撫でると、サンドバードは体を翻し、水に飛び込むかのように砂に潜っていった。
すっかり夜は明けていたので、ここからは昼の暑さに備える必要があった。
「この岩場だけでは厳しいな。植物があればいいんだが」
「ここがどの辺りかわかるの?」
「あぁ、夜が明ける前に星を見ていた。バザールを越えて、宮殿に近いはずだ」
「それじゃあ軍隊が…」
「こんなところまで接近してるとは逆に思うまい。交易路のオアシスがあるはずだ。当面はそれを探そう」
急に家を飛び出したが、お父が水入りの皮袋を持ってきてくれたお陰で、この日はどうにかなった。日が落ちて、まだ辺りが暗くなりきる前に僕らは出発した。
夜は急激に寒くなるので、凍えない様に布を体に巻きながら歩く。時々、お父が空を見上げて位置を確認しながら進んだ。昔にも星の見方を教えてもらったが、お父の様に正確に位置を把握するのはまだ難しい。
朝になっても歩き続けた。町に辿り着けないのは死活問題だ。目や感覚を研ぎ澄ませながら進む。
不意にお父が立ち止まる。
「見ろ、あの岩場。人の形跡がある」
それは遠くに見える小さな岩場だった。
「ただの岩場にしか見えないけど。どうしてわかるの?」
「あそこに生えているサボテンは複数本で一緒に育つ。小さいのだけあるのは恐らく誰かが採ったんだろう。それから内側の岩の削れ方が隠れるに都合が良すぎる。人に削られたんだろうな」
警戒しながら近付くも、人の気配は無かった。
お父は何箇所かの岩場の陰を確認している。
「レックス、手伝え」
2人でやっと持ち上げられるくらいの岩をずらすと、その下に木の蓋が見えた。お父を見ると、ニヤリと白い歯を見せている。
力を込めて蓋を引き剥がすと、中には酒と水が蓄えられていた。
その夜、あの晩の話の続きを聞いた。
お父の話によると、リザードヘッドは、生まれる前の僕を守ろうと現れたらしい。そして、16歳になるまで武術を鍛えるよう言い残し、去っていったという。
「これはお前に渡すように言われていた」
お父が布から取り出したのは、1本の剣だった。銀色に輝く刀身と、無駄のない装飾はこの辺りで見かける武器とは異なっていた。
手に持ってみる。しっかりした重みがあるが剣のバランスが良いからか、軽々と扱える気がした。
「凄く手に馴染むよ」
「そうでなくちゃ困る。訓練用の剣を準備するのに苦労したんだからな」
言われて納得した。見た目は全く違えど、訓練に使っていた木刀と感覚が近いのだ。切っ先を地面に向けるとその長さにもしっくりくる。ぐるりと剣を回す。
「まさか、長さも重さも?」
「またお父を見直したか?」
「うん、凄いや」
小さな村だったし剣の師はいなかった。全て独学で学んだ。独学の剣術など役に立たないだろうと思っていた。だからせめて自分の思い通りに剣を動かせる様にはなっておこうという気持ちで、剣の真似事を続けていた。
「なんか、僕にはもったいない気がするね」
自分の発言で前の話題に頭が切り替わる。
「リザードヘッドは何で僕の為にそんなことしたの?」
お父は深くため息をついた。そして意を決した様に伝えた。
「時が来たらお前を預かりに来ると言っていた。彼と共に果たすべき使命がお前にはあるんだとな。それが何を意味するかは、俺にもわからない」
「だが彼は命の恩人だし、成人してからなら仕方ないと承諾したよ」
更にお父はこう付け加えた。
「お前は"予言の子"なんだそうだ」




