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蛇になりて  作者: 毛布巻男
第二部 砂漠を渡る風

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第一話 招かれざる客

「レックス。もう飯だ。中に入れ」


 お父《とう》の呼ぶ声に応じて、家に入る。粘土で固めた壁や天井に囲まれた、扉すら無い簡素な家だ。訓練用の剣を入り口に置き、小さな椅子に座った。

 机には大きな鍋が1つ置いてあり、中はほとんど具の入っていないスープで満ちていた。それを木製の匙《さじ》でお椀に掬《すく》う。


 火付け場から焼いたトカゲを持ったお父が正面の椅子に座る。


「お前もとうとう、16になるな」


「そうだね。どうかした?」


 トカゲを受け取りながら答える。


「お前が生まれる前の話だ。盗賊団が村を襲ってきたことがあった」


「よくあることじゃない?」


「昔は珍しかった。それに今の、こそ泥たちとはわけが違う。奴らは人殺しだ」


 スープを飲み込み、お父の顔を見る。いつになく真剣な顔をしていた。


「危うく俺もお前のお母《かあ》も殺されるところだった。賊の1人がこの家に入って来た丁度その時、そいつも現れた」


「そいつ?」


「リザードヘッドだ」


「え? あのリザードヘッドに襲われたの?」


「違う。助けられたんだ! あいつが賊をあっという間に皆殺しにしてくれた」


 リザードヘッドは最近目撃証言の多い魔獣だ。でも見間違いも多く、実在するかどうかは半信半疑くらいの伝承話のようなものだ。


「そんな話、信じられないよ。何でリザードヘッドが来てお父たちを助けるんだ」




 お父の表情は変わらない。真面目なお父が嘘をつくとも思えないがにわかに信じられない。


「レックス。お前、魔獣を乗りこなすのが上手いよな。それだけじゃない。魔物の位置も察知している」


「それは、耳が良いからだって」


「普通は耳が良くても魔物が何キロも先から向かってくるのを察知できるやつはいねぇ。魔獣を呼んで乗るやつを他に見たことがあるか? お前の力は特別なんだ」


 お父が何を言おうとしてるのかさっぱりわからない。


「リザードヘッドはお母を、お前を守りに来たんだ。お前は――」


 その時、村の入り口辺りに何者かがいる気配がした。


「お父。村の入り口に誰かいる。複数人だよ」


 お父は鋤《すき》、僕は訓練用の剣を持ち、家の入り口から外を覗き見る。

 数人の男が見えた。頭にターバンを巻いておらず、賊には見えない。それどころか、皆が同じ良質な革の装備を身に着けている。


「軍隊?」


「まずいな。レックス。裏から逃げるぞ」


「何で逃げるの? 別に捕まることはないでしょう」


「あぁ、捕まらない。殺されるぞ」


 そう言いお父は、家の地面の下の収納から布に巻かれた細長い物を取り出した。そして、裏手の入り口から辺りを覗く。


「こっちだ。ついて来い」


 お父に続き裏手の道を隠れるように進む。村を取り囲む岩場に近づいた所で、お父を止める。


「待って。この先に誰かいるよ。多分、2人いる」


「こっちはどうだ?」


 それは道ではないが、亀裂の多い崖だった。この村に慣れ親しんだ人は皆この崖を知っているが、外の人たちには通れるとは思えない場所だ。


「そこは大丈夫」


 2人で崖を登る。丁度人がすっぽり隠れるような亀裂のお陰で遠くからも目立たない。何とか崖を登り切り、這いつくばるように村の様子を見た。


 兵隊の様な男たちは全部で10人ほどいた。家々を回っている様だが、争っている様子はない。


「お父。やっぱり思い過ごしじゃ――」


「静かに! 見ろ」


 いくつかの家から出てきた兵隊が集まり、僕らの家の前に立っていた。そして、武器を構えて家の中へ突入した。

 その光景を見てゾッとする。敵意を持っているのは明白だ。


「兵隊の他に気配はないか?」


「え? うーん、特には」


「期待したのが間違いか。行くぞ。ここを離れる」


 そう言ってお父は村とは反対方面に崖を下り始めた。この先は少しの岩場があるが隠れる場所は少ない。バザールまで行けば人に紛れることは出来そうだが一晩では辿り着けない。

 ちらりと振り返ると、家の裏手から槍を構えた兵士たちが出てきた。散り散りになり僕らを探しているようだった。


 その時遠くに強い気配を感じる。この感覚は、魔獣の群れか!


 崖を降りてお父を呼ぶ。


「お父! こっちだ」


 お父は瞬時に意図を理解し、方向転換し西側へと2人で走った。

 振り返ると、高台に乗った兵隊がこちらに気づき仲間に声をかけているのが見える。

 まずい。だが、もう少しだ。砂に足を取られながらも懸命に走った。


「レックス。まだか!?」


 少し後ろを走るお父のペースが遅くなる。


「もう少しだよ!」


 そう言った瞬間、自分の横を矢が掠《かす》めた。


「レックス! ジグザグに走れ」


 言われた通り左右に移動しながら進む。矢は容赦無く周囲の砂に突き刺さった。


 近い。ここだ!

 指笛を鳴らし、振り返る。数え切れない矢が飛んで来る。その矢が到達する前に、爆発したように砂の柱が高く舞い上がった。砂の勢いで矢は全てかき消された。そこには4匹のサンドバードの姿があった。


 近くにいた1匹に跨《また》がる。


「お父!」


 サンドバードの登場で、体勢を崩していたお父に、砂を駆けるサンドバードの上から手を伸ばす。お父を掴み、自分の後ろに乗せた。


 まだ矢は飛んでくるが、サンドバードは軽々とそれを躱《かわ》す。砂の上を泳ぐ様に、僕らは村から遠ざかった。

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