第二十三話 鍵の使命
温かい茶が置かれ、それを手にする。野性味の無い甘い香りがして、どちらかというと嫌いな味だった。マグナスは慣れた手付きでそれを飲み、静かに器を戻す。
「ホープさんが最後に向かうのは"魔界の門"です。この門を閉じることがホープさんに課せられた使命であり、世界を救うことです」
マグナスが指し示す場所は、また遥かに遠い地だった。
「そしてその為には3人の英雄の力が必要です。元々この門は3人で開けたものでした。ですので閉じるにも3人の力が必要というわけです」
「でも3人の英雄たちははるか昔に亡くなっており、3人が同時に門を閉じることはできません。そこで鍵の出番となります。3人の力を伝承して、門を閉じる力を手に入れられる唯一のアイテムがその腕輪なのです」
「じれったいな。大体わかってるよ。それで伝承するのが儀式なんだろ」
「はい、その通りです。3人は魔界から得た力を使い、自分の力と意志を数百年後に飛ばすようにと、自ら神殿に力を封印しました」
「それもアイシャから聞いた」
マグナスがアイシャへ向き直る。
「3人の英雄。始祖の王の名前はご存知ですか」
「うん、儀式で伝わった。私が触れたのは"アナン"。あとは、"ゼラキス"と"ザイン"」
「ではそれぞれの"予言の子"がどこに転生するかも感じましたか」
アイシャの表情が曇る。小さく「はい」と答えた。
「場所はこの砂漠の町。聖暦1590年の7月に生まれるわ」
アイシャが指差す場所は風の神殿"彷徨える回廊"からほど近い場所だった。
「まあ長旅になることはわかったよ」
話を終えようとする俺をマグナスが遮る。
「ホープさん、従者から聖暦はちゃんと学んでいませんか?」
旅立つ前、従者とやっていた勉強の一環で歴史を学んではいる。だがどこか自分事に思えず興味は持てずにいた。
「ホープさん、今の聖暦は1326年です。つまり次の"予言の子"が生まれるのは、今から264年後です」
264年? その間どうしろというのか。そもそもそれまでに自分が死ぬに決まってる。
ふと、旅立ちの前にグラッセンから聞いた言葉が蘇る。腕輪の力の一つは"不老"だと。
まさか、そんなはずはないだろう。いくら不老とはいえ――。
「ホープ、ごめんね。儀式の時に言えなくて」
アイシャは再び涙を流した。その涙で突きつけられた事実が、現実のことなのだと痛感させられた。
何という呪いなのだろう。何故自分なのだろう。
どこで歯車が狂ったのか。どうにもならない事を考えてはやめてを繰り返していた。
そんな考えの中で1つの疑問が浮かんだ。
「何百年も経って、門を閉じたあと、俺はどうなるんだ?」
アイシャも、ラークも、目の前のマグナスも、誰もいなくなった世界で何をすれば良いのかという意味で聞いた。だがマグナスから帰ってきた答えは想像したものとは違っていた。
「門を閉じたあなたは石となり門を閉ざし続けます」
声をあげて咽び泣くアイシャの前で、何も言葉が出ずにいた。




